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第12話   紙片に宿る想い①


※1/2(金)付で

『第12話 紙片に宿る想い①~④』の内容を少し変更しています。

よろしくお願いします。




「ふぃ……つらいよぉ……」


 木曜日。午後十時三十二分。

 ノベル・コミック編集部にいた有希は一人で仕事を進めていた。


「ナイター行けなかったよぉ。仕事の馬鹿ぁ……!」

 デスクに座る有希はスマホホルダーからはみ出ているプロ野球観戦チケットを一瞥して、くそう、と怒りを吐きながらキーボードを打鍵する。当初の予定では半休を使って夕方ごろに退社。その後は明治神宮にてセパ交流戦を試合前の守備練習から観戦するはずだった。それなのに今も机にかじりついているのは対応しなければならない業務がたて続けに発生したからだ。


 有希は打鍵を加速させる中、卓上カレンダーを見やる。区分けされているカレンダーの日付にはところどころにバツ印がついていて、それは残業した日を示していた。

「今月は残業が多いな……でも頑張らないと」


 作品を読者に届けることも編集業務の一環だ。たとえ作品制作には関係がなくても疎かにはできない。

しばらくして、有希の中指がエンターキーを払うように叩いた。


「先生たちへの返信やっと終わった……」


 編集業とは作家側から連絡が来た際は即レスを求められる。連絡のほとんどは作品制作に関しての意見や質問であり、その返信が遅れるということは制作そのものが遅れてしまう。連絡が一つ二つならまだいい。しかし本日は午後のメールだけでも二十八件届き、中には返信を連打する作家もいて、有希はそれら全てに自分の意見をまとめた上で返信していた。



「さぁ次は『悪レべ』だぁ……」

 有希はデスクトップ画面から『悪レべ』のフォルダを開き、外部の委託企業から受け取った校正の原本と、ノベル作者である右バランス――春野琴美の校正に対する意見を見比べる。


「先生、言い換えの提案を気にしてるけど、最近は差別表現も厳しいからなぁ……」

 校正という作業では、まず作家から受け取った『ノベル原本』を校正の作業者に渡して、誤字脱字、表記、文言の統一、差別表現などを確認してもらった『校正データ』を元に、具体的にどう表現するか作家と話し合い、その後は修正箇所をすべて記入した『再校データ』を製版所に入稿して書籍の完成を目指していく。


 有希は引き出しからタブレットと電子ペンを取り出す。これまでのやりとりを経て作成した修正案をノベル原本のPDFデータに直接書き入れていく。備前いわく大手の出版社では、こういう直接的な作業はサブ編集や編集アシスタントが行うことが多いらしいが、秋灯社は中小かつベンチャー編集部なので必然的に何でも行うことを求められる。故に残業が尽きない。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 やがて時刻は午前零時をまわる。

 有希はやっとの思いで作成した校正のフィックスデータをFTPサーバに格納し、製版会社に試し刷りをメール依頼したところで机の上に突っ伏した。


「やっと終わった……」

 有希は携帯電話を手に取って時刻を確認する。時間帯的に終電は無く、深夜バスも路線の範囲外。そして疲労困憊。このまま寝てしまおうかと思ったが社内宿泊は会社の規定によって禁止されている。昔、秋灯社に数か月間も泊まり込んだ猛者がいたそうで、最近は労基もうるさいらしい。かといってホテルに宿泊するのもお金がかかる。ここは少額で済むレンタルサイクルの出番か。


 有希は肩をだらりと下げたまま席を立つ。現在は深夜未明。さすがに守衛以外に誰もいないだろうと思っていたら、衝立の向こうから「あーっ!」と叫び声が聞こえてきた。



「もうやってらんねえ! 疲れた! 帰りたい!」

 叫び声が次第にエスカレートしていく。

 有希は慌てて隣のエリアを確認する。

 窓際のデスクに座る頭を抱えた女性と、その周囲には大量の紙が宙を舞っていた。


「ど……どうしました?」

「あぁ⁉」

「ひっ!」

 怒声が返ってきて有希は肩を震わせる。

「ああ、天宮ちゃんか。怒鳴ってすまん」


 そう述べたのは秋灯社が誇る老舗アニメ雑誌『アニマ!』の編集長、茶谷(ちゃたに)真帆(まほ)。黒縁眼鏡をかけた小柄な女性で、少女のように見える容姿に反して声は男性のように太い。茶谷とは何度か話したこともあるが、自分はがなる癖があると上谷本人が言っていたことを思い出す。


「こんな遅くまで残業か?」

「はい……」

「備前さんにこき使われるんだな。かわいそうに」

「いや、業務が長引いただけで、備前さんに虐められているとかは一切ないです!」

「わかってるさ。冗談だよ」

 茶谷は手を頭の後ろで組むと、無邪気に笑った。


「茶谷さんは雑誌の校正ですか?」

「ああ」

「入稿日近いですもんね。お疲れ様です」

「でもこれ入稿できるかねぇ……」

「何かあったんですか?」

上椙(うえすぎ)(ろう)って声優知ってる?」

「確か有名な男性声優ですよね。若手で、声優なのにドラマやファッションモデルもこなしているマルチ系の人」

「次号の『アニマ!』の表紙と巻頭、そいつを起用することになっていたんだが掲載許可が急に反故にされてな」

「えっ?」





FTPサーバは大容量のデータも転送できるファイル転送用のサーバーという認識でOKです。

よろしくお願いしますm(__)m


―――――――――――――――――――――――

※本作品は実在の法律的根拠ならびに過去の判例を参考に執筆しているエンターテイメント作品のため、

 法律または法律的助言の提供を目的としたものではありません。

 法解釈における正確性や妥当性に関しては努めて配慮しておりますが、

 作品外における作品内容の利用に関してはご自身の判断でご利用ください。




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