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第11話   あなたの心が進むために②

試験終わりました(吐)

書き貯められたので今週毎日更新予定です。

よろしくお願いします!


「はい、はい……そうですか。ありがとうございます。失礼いたします」

 深夏は受話器を置くとふう、と息をついた。


「お疲れさま」

 デスクに座る有希が席を並べる深夏に声をかける。ありがとうございます、と返事をした深夏の顔は嬉しそうであるものの疲労が浮かんでいた。


「作家さんからドラフトのOKと、ウチでの執筆の了解を得ました」

「初の新規案件獲得だね」

「はい」


 深夏は編集部に配属してから毎日『なれる』の作品を読み、自分で良いと思った作品に対して商業化の打診を行い続けていたがことごとく断られていた。『なれる』の書籍化は原作確保とも呼ばれていて、漫画バブルと言われている昨今においては様々な会社が作家にオファーを行うなど過当競争が激しく、むしろ了承を得られることの方が少ない。有希も先輩(強調)として深夏の様子を日々伺い、メンタルが落ち込みそうなときは積極的に励まし、自分の体験談を取り入れたアドバイス等も行っていた。当初は深夏も切り替えが早かったが、それが数か月続くと助言のレパートリーも無くなり、いかにも仕事ができそうな深夏の見た目も枝毛が多くなっていった。もしかしたらこのまま辞めるのではないのかと内心で不安を感じていたがそれらもすべて解消されそうだ



「やっぱり女性向け作品に拘り過ぎるのは良くないんですかね?」

「獲得を優先するなら男性向けも選択肢として考えるべきだけど、備前さんの指示だからね」


 ノベル・コミック編集部の読者層は女性が多く、備前は深夏に対して女性向け作品を中心に声掛けを行うことを指示していた。待っていれば作家側から作品が持ち込まれる大手出版社とは違い、中堅出版社は顧客にリーチする作品を用意するのも編集の仕事なのだ。



「先輩、契約書っていま送らなくていいんですか?」

「えっ……先輩?」

「えっ?」

「いや、気にしないで!」


 思わず聞き返してしまった。先輩と呼ばれる憧れが強すぎたせいで中々直らない。


「出版契約は本の出版が正式に決まった後に締結することになっているから今は大丈夫」

「わかりました」

「確認だけど、作家さんに送ったドラフトはノベライズとコミカライズを統合させた『シリーズ一括契約書』で、コミカライズの件も承諾を得ているんだよね?」

「はい。どちらも了解を得ています」


 後輩の進捗も問題ない。ふふ。私のこの先輩ぶりを詩海くんにも見せつけてやりたい。そうしたらちょっとは尊敬を持って接してくれるだろう。


「フフフ……」

「先輩、急に笑い出してどうしたんですか?」

 ハッとした有希は、自分が表現できる最大限のクールさを漂わせて微笑をつくる。

「後輩が初めて作品を獲得して嬉しさが大爆発したんだ。どうする、赤飯炊く?」


 これじゃ後輩に飯炊きを勧める厄介な先輩じゃないか。自分のクールさどこにいったんだ。そもそもあるのだろうか。


「いいですね赤飯。私、雑穀好きですよ」


 失投したクソボールをものの見事に打ち返してきた。私の周りにはおかしな連中が多い気がするけどまあいい。これで多分プラマイゼロだ。

「記念に今度雑穀食べに行こうね」

「嬉しい。約束ですよ」


 思わず食事に誘ってしまったが雑穀が何なのかよく分からないので後で芽衣に聞いて店を探してもらおう。大学で学んだマネジメントが本当に役に立つ。


「獲得できた作家さんと電話してきます」

「ボードに行先と外出目的を書いてね」

「はい!」


 何はともあれこれで深夏も少しは前向きになるだろう。後輩が壁を乗り越えることをサポートできたのは気分がいい。午後に控えた『いせげん』のストーリー打ち合わせも上手い感じに乗り切れる気がするが油断は禁物だ。今一度ストーリーを把握しておこう。


 有希はパソコン内の『いせげん』と書かれたフォルダをクリックする。漫画フォルダと原作フォルダが表示されて、有希は原作フォルダをクリックする。作品のプロット、制作進捗、キャラクター表、全体の流れをまとめたストーリー構成、ノベルデータの原本、各巻のゲラと責了までの校正データがファルダごとに分かれていて、その中からストーリー構成データを展開した。


 異世界で村人Aだった主人公が転移した現代社会で勇者の能力に目覚めて、異世界と現世を行き来しながら仲間を増やして、故郷を脅かす敵の魔王軍団を倒すハイファンタジー作品だ。ノベルは現在五巻、コミカライズは単行本三巻まで発行済。コミカライズの方はノベコミの連載陣の中でも人気上位の作品になっている。有希にとってはノベル・コミック編集部所属一年目で書籍化して共にキャリアを歩んだ思い出深い作品の一つでもあった。



 有希は『制作進捗』フォルダをクリックして、タイトルに【注意】と記入されたテキストデータをしばらく眺めた後、こめかみを指で押さえた。

 テキストには、前回の打ち合わせの際に編集プロダクションと原作者との間で認識の相違による議論があったことを記載していた。


「何事もなければいいんだけど……」




ドラフトとはいわゆる草案です。

仕事で契約を締結する際「いきなり契約!」……ということはせず、お互いに事前確認して内容をfixするのが一般的です。プロ野球のあれは契約交渉権の分配制度らしいけどややこしいので追記しました。

よろしくお願いします!


※本作品は実在の法律的根拠ならびに過去の判例を参考に作品を執筆しているエンターテイメント作品のため、

 法律または法律的助言の提供を目的としたものではありません。

 法解釈における正確性や妥当性に関しては努めて配慮しておりますが、

 作品外における作品内容の利用に関してはご自身の判断でご利用ください。


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