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第七話   パブリシティ権って何ですか?②


「そういう擬人化系のゲームはすでにあるよ」


 小昼前の法務部室内。詩海はメールを打ちながらそう述べる。彼の席には大量の書類と、見覚えのあるキャラクターのフィギュアが箱に入った状態で置かれていた。



「競走馬名の使用の裁判例は過去にある。二〇〇〇年代にとあるゲーム会社が、ゲーム内で実在する競走馬の名前を無断使用して、競走馬の馬主がそのゲームの販売や差止めを求めて裁判を起こしたんだ。争点になったのは馬にパブリシティ権があるかどうか」


「パブリシティ権って……何?」

「顧客誘引力を持つ氏名や肖像等を営利目的で独占使用できる権利のこと。その権利が競走馬にもあるんじゃないかってところが争われたんだ。結果は馬主側の敗訴。馬は人ではなく有体物でペットと同じ扱いという判断が下った」

「それなら商標登録は?」

「競走馬の商標登録はあるよ。指定区分によっては登録されている名称をゲーム内で使用するには権利者の許諾が必要だ」


「著作権とか肖像権とか色々あると思うけど、他の権利は大丈夫なの?」

「競走馬は有体物にあたるから肖像権は無いよ。著作権も馬は動物で権利の主体にならないから発生しない。けど……パブリシティ権に関しては議論の余地があると言われているんだ」

「法律って小難しい文面できっちり決まってるんじゃないの?」

「判断を考えるのは人だから裁判によっては真逆の判決が出ることもあるよ。ギャ〇ップレーサー事件とか正にそれだからね。パブリシティ権の問題というのは、有名な競走馬なら物であっても顧客誘引力はあるんじゃないかという話。最近の商標登録では、有名競走馬と関係ない人がその馬を商標登録しようとしたとき、それは顧客誘引力の無償利用にあたるという理由もあって拒絶判定を受けているんだ」



 有希は腕を組んで唸る。やはり法律のことは小難しい。理解できなかったところは後で調べよう。



「『馬男』に関してはノベル化しても大丈夫?」

「問題ないよ。ただ、商標登録されている競走馬の指定区分によっては伏字をお願いするかも」


 望んだ結論が得られた。色々聞いたが法律素人の自分にはイエスかノーの二択でちょうどいい。これで先輩としての面目も立つだろう。有希は安堵する。



「でも競走馬を擬人化するなんてすごい発想だよね」

「擬人化文化は昔からあるよ。江戸時代の浮世絵にも動物を人に見立てた作品があるくらいだ。それこそ、鳥獣戯画は天宮さんの仕事と関係あるんじゃないかな」

「日本最古の漫画だっけ。大学時代のゼミで聞いたことがあるよ」


 正式名は鳥獣人物戯画。当時の世相を反映して動物や人を戯画的に描いた作品で、平安時代から鎌倉時代にかけて制作された国宝……スマホで調べたネット情報にはそう書いてあった。日本には昔から擬人化作品が多い。夏目漱石の『吾輩は猫である』も擬人法で描かれている。現代においても犬や猫などは最早人気コンテンツといっても過言ではない。日本人の動物に対しての執着心は何なのだろうか。


「でもその擬人化ゲームってすごく有名な競走馬は登場してないんじゃなかったかな?」

 有希はそんなネットニュースを見た覚えがある。

「僕は当事者じゃないから理由は分からないよ。でも、法律的に問題なかったとしても、他人の権利にフリーライドするのは社会的な反発を食らう恐れがあるからね。有名な競走馬を登場させないのは権利問題というよりもマネジメント的な判断じゃないかな」


 詩海はキーボードから手を放すと目薬を点眼した。



「僕が話せるのはこれくらいかな」

「いつもありがとね」


 有希は腰を直角に追って頭を下げた。最近は大学の頃よりも勉強している気がする。


「今度は競走馬の話を作品化するの?」

「後輩がね」

「売れるといいね」

「まずは声かけが成功するかだよ。断られることも多いから」

「大丈夫じゃないの。面倒見の良い先輩もいるんだから」


 え……もしかして私のこと褒めてる? 詩海くんにそんな風に思われるなんてちょっと嬉しいかも。


「先輩として威厳を保つことは大切だからね!」

「本当に威厳のある先輩なら威厳を保つみたいな考えにはならないと思うけど」

「……そうだね」


 先輩の何たるかを後輩から学ばされるとは。私の威厳どこ……?



「はい、法務部です」

 ふいに詩海が受話器を取る。外線のランプが点灯していた。


 詩海は短く言葉を交わしたあと受話器を戻して、有希を見た。



「天宮さん」

「どうしたの?」

「いま連絡があってさ、山村さんが法務部に復帰するって」




やるなら中央競馬の方がいいよ!(/・ω・)/



※本作品は実在の法律的根拠ならびに過去の判例を参考に作品を執筆しているエンターテイメント作品のため、

 法律または法律的助言の提供を目的としたものではありません。

 法解釈における正確性や妥当性に関しては努めて配慮しておりますが、

 作品外における作品内容の利用に関してはご自身の判断でご利用ください。


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