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第一話   著作権侵害って何ですか?①


※2025年4/21付けで内容を一部リライトしています (/・ω・)/



「……困った」


 

 天宮(あまみや)有希(ゆき)は本日七度目のため息をついてからノートパソコンを眺める。ディスプレイに映っている一通の受信メール。敬語ながらも感情むき出しの長文と、文末には『これは重大な著作権侵害です。天宮さま、至急ご対応お願いします』という文言が載っていた。



「先生めっちゃ怒ってる……いや、まぁ分からなくもないんだけどさ……一編集者の私にどうしろと」


 メールの件は昨日付けで上司に報告済み。日曜日だったけど『とりあえず法務部に相談して』というレスが来た。休日レスは助かるけど実際は何も助かってない。


 有希はフロアの隅でドリップコーヒーを淹れる。バスケットボールが行えるほどのフロアにモカの甘い香りが広がるが今は自分しかいないので気にしない。



 東京都内にある創業七十余年の中堅出版社、秋灯社(しゅうとうしゃ)。そこで有希は漫画とライトノベルを制作するノベル・コミック編集部に所属して三年目となる。毎日毎日ウェブ上の無料ノベル作品を読み、ノベライズとコミカライズを編集して、現在はアニメ化した漫画作品も担当している……まぁ、上司から引継いだ作品だが。人生が良い方向に進んでいる手応えを感じていた矢先に発生したトラブル。しかも法律に関わるような面倒事。飲んだばかりのコーヒーの味がまったく感じられない。


「現実逃避してても仕方ないか……」


 席に戻って内線電話のボタンを押す。時刻は午前八時半。出版社はフレックスタイム制が進んでいるため部門によって出社時間が異なる。果たして山じいはいるのだろうか。いや、いてくれないと困る。この会社の法務部は山じい一人だけなのだから。



 2コール後、「はい」と返事がきた。若い男の声だったので思わず「山じいは?」と言ってしまった。



「山村さんなら帰省中に猪に追突されたらしく現在入院中です」


 おのれ猪、何てことを。完全なもらい事故だよ。


「山じ……山村さんの連絡先を教えてもらえませんか。急用の法務案件があって……」

「それなら僕が対応しますよ」

「え?」

「山村さんから留守を預かっているので。今、二階の法務部にいます」


 電話が切られた。状況はよく分からないけどこの際何だっていい。十時になると編集部の同僚たちが出社してくる。困っている様子を配属したての新卒の子に見られたくない。有希ははやる気持ちそのままに六階から二階まで階段で降りて、法務部の扉を開けた。

 扉を勢いよく開いたので、大丈夫かな、と思ったが、男性はアニメ雑誌を静かに読んでいた。



「ノベル・コミック編集部の天宮有希です。法務関連の相談があって参りました!」



 男性は雑誌を置いて立ち上がる。髪がぼさぼさで目元が見えないけど肌が明らかに若い。カジュアルシャツの上に灰色のロングカーディガンを羽織っている。法務部はスーツ着用が義務づけられていると山じいに聞いたことがあるけど明らかに私服だ。何者なのだろう。



詩海(しうみ)です。用件は?」


 淡々とした口調。こっちは氏名を名乗ったのに苗字だけの返事。これが氷属性ってやつか。



「私が担当している作品の先生がトラブルに巻き込まれて、嘆願書みたいなメールが昨日――」

「口頭の説明はいいのでメールを送って」


 氷属性すぎる。なんか氷帝コール聞こえてきた。たぶん幻聴だな。


 有希はスマホを操作して法務部のアドレスにメールを転送する。男性――詩海の席にあるパソコンから通知音が鳴った。本当に法務部の人間らしい。



 詩海がマウスを操作しつつディスプレイを眺める。「著作権侵害、ね……」



「内容的にはそうだと思いますけど……」

「今から情報を読み上げるので相違箇所があれば指摘をどうぞ」


 そう言って詩海はプロジェクターの準備を始めた。随分と対応に慣れている。もしかして今年入社した新卒かと思ったがオリエンテーションのときに詩海はいなかった。そもそもこんな必要な部分以外興味ない職人みたいな圧力を放つ新人がいたら社内が騒ぎになるはずだからおそらく別会社からの派遣だろう。有希がそんなことを考えていたら、転送したメールの内容と、社内で共有されている作品情報が壁に映し出された。



(くだん)の作品名は『異世界転生した悪役令嬢は追放される度にレベルアップしてた件』――通称『悪レベ』。五年前に小説投稿サイト『小説家になれる』から作品をピックアップして第一巻をノベル化。その半年後にコミカライズ連載開始。原作は右バランス先生。作画は左フック先生。コミカライズ連載後は順調に売り上げを伸ばし、去年一クールのアニメ放送をスタート。現在はアニメ二期制作進行中」

「作品を見つけたのは現編集長で、私はアニメ化あたりから担当を引き継ぎました」

「編集長は今回の件にノータッチなの?」

「は、はい」


 完全にため口を聞いてきた。妙に舐められているような気もするが今は我慢だ。


「メールの内容をざっと見るね」


---------------------------------------

株式会社秋灯社 ノベル・コミック編集部 天宮さま

お忙しいところ失礼いたします。右バランスこと春野(はるの)琴美(ことみ)です。

先日、地元でファンミーティングを開催した際、ファンの方から『悪レベ』の同人誌をいただきました。ご自身で描いて即売会でも販売しているらしく、受け取った際は飛び跳ねるくらい嬉しかったのですが、内容を見て膝から崩れ落ちました。経緯はお電話で伝えた通りです。

昨年のアニメ化以降、様々な方から応援や励ましのお便りをもらえるようになりました。時折、つまらないとお叱りをいただくこともあります。しかしそれもファンの意見なので作家として真摯に受け止め、今日まで鋭意執筆して参りました。ですが、今回の件はさすがに容認できません。自分が手塩にかけて作り上げた主人公レジーナが悪意ある改編をされていて非常に悲しくなりました。そもそも他人の作品を盗用するのは犯罪では? 同人誌という存在に関して多少は知識がありますが制作者の害を為すような行為は社会的に処罰されるべきではないでしょうか? これは重大な著作権侵害です。天宮さま、至急ご対応お願いします。 

---------------------------------------



「この敬語使いながら長文かつ疑問形で同調圧力かけてるところ最高に物書きって感じだね」

「普段は穏やかな社会人だから……ただ、私のことをさま呼びなんてしないけど」

「ビジネスとして敵を追い詰めろと圧かけているだけでしょ」


 詩海は抑揚のない声でそう述べた。山じいならもう少し親身になってくれるのに。


「次に同人誌の情報を教えて」

「え?」

「経緯は電話で伝えたとメールに記載されているけど」


 詩海は「経緯は~」の部分を指さしている。どうしよう。記載はあることは認めるけど正直言いたくないのが本音だ。有希が迷っていると、早く言えと言わんばかりのジト目の視線が向けられる。ええい。

 有希はスマホを操作してメモアプリに書きなぐった文面を読み上げる。



「異世界転生した悪役令嬢は追放される度にレベルアップしてた件――通称『悪レべ』の主人公レジーナを題材にした、その、え……えっちな……同人誌が……イベント会場で……」

「即売会でレジーナのエロ同人が売られていたと」

「言い方ぁ!」


 せっかくオブラートに包もうとしてたのに。これもう半分セクハラでは。


「そもそも!」

 恥ずかしさも相まって机をバンと叩いたけど悪いのは私じゃない。


「他人の作品を題材に同人誌を勝手に作るのって違法じゃないんですか。どう考えても著作権を侵害してますよね。添付ファイル見てください。レジーナってどこにでもいそうな十六歳の女の子なのに、この同人誌だと胸が大きくなってて、やたら発情してる描写が多くて、それに……男性キャラとせ、せ……」

「セック――」

「ああああああああああああああああっ!」


 再び机を叩いてしまった。セクハラだ。この国セクハラが横行している。


「はぁ、はぁ……」

「要点から説明するけど」


 有希が呼吸を整えているのを余所に詩海は話を続ける。



「漫画のキャラクターに著作権は無いんだ」



実は漫画のキャラクターの著作権って無いんです(/・ω・)/ビックリ!


じゃあ漫画の著作権って何なの⁉

興味のある方は『著作権侵害って何ですか?②』をご覧くださいm(__)m



※本作品は実在の法律的根拠ならびに過去の判例を参考に作品を執筆しているエンターテイメント作品のため、法律または法律的助言の提供を目的としたものではありません。法解釈における正確性や妥当性に関しては努めて配慮しておりますが、作品外における作品内容の利用に関してはご自身の判断でご利用ください。

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