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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
6章

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95 いつかのエピソード~本当の悪女は~

 アルバートはフランクにも声をかけて、慎重にリリアンとその周辺の調査を進めた。すると、王妃暗殺の捜査はリリアンの侍女の目撃証言に頼り、ほぼ行われていないに等しいことが分かった。だが、既に終わった事件のため証拠となり得るものは全て処分されてしまっている。


「随分杜撰だね」


 フランクが嘲笑う。ベアトリスの公開処刑以降、フランクはアルバートと親友の縁を切っていた。そのため、アルバートはフランクに協力を依頼するのにかなり苦労した。だが、ベアトリスが絡んでいるならフランクは間違いなく手を貸してくれると信じていた。結果、協力を得ることは出来たが、フランクは以前よりもアルバートに対して辛辣になっている。


「返す言葉もないよ……」


 アルバートは予算案の偏りに気づいた官僚や当時ベアトリスに付けていた護衛騎士を中心に、協力してくれそうな人物に声を掛けた。調べていることを他の人間に悟られないよう、少数のチームを組んだのだ。そして、彼らと共にひっそりと調査を進めていた。


「最近はリリアン王太子妃の行きすぎた行動を疑問視する声もあります。私共もそうですが、以前まで王太子妃の行動に疑問を持たなかったのが不思議なくらいです。それ程、彼女の周囲は歪と言えるでしょう」


 官僚の言葉にフランクが「そうだな」と頷く。


「証拠としては弱いが、リリアンが国の予算を使い潰していることを理由に離縁することは可能ではないか?」 

「王太子殿下の仰る通り、離縁は可能でしょう。予算が使い潰されているのですから、官僚で反対する者はいないかと」

「そうだね。一先ずリリアンを王太子妃の座から下ろして権力を削ぐ。さもなければ、彼女からの報復を恐れて誰も真実を話そうとはしないだろうね」


 官僚とフランクの意見を受けて、アルバートは「私もそう思う」と頷いた。

 嘘の証言をした可能性があるリリアンの侍女。その他、王妃暗殺に関わった可能性がある者に心を開いてもらうには、アルバートとリリアンの離縁は必要だ。

 また、リリアンの言動からして、リリアンがベアトリスに嫌がらせを受けていたとされている件も狂言だったのではないか? という疑惑が持ち上がっている。フランクはあの当時からそう疑い続けていた一人だった。


 これが本当だとしたら、ラドネラリア王国最悪の悪女と言われているベアトリスは、とんでもない汚名をリリアンに着せられたことになる。しかしながら、ベアトリスが処刑された理由の一つであるため、慎重に動かなくてはならない。

 事情を知る者から話を聞き、リリアンの行いを明らかにするには、やはりリリアンが王太子妃の座に就いていると真実を話して貰えない可能性が高かった。


「どちらにせよ、あの者が王妃になればこの国は破産して終わるだろう。……と言っても、今も十分破産しそうな勢いで国の財源に手を付けられているわけだが。……リリアンとの離縁を急いだ方がいい」


 フランクの言葉にアルバートは頷く。

 王太子であるアルバートは婚姻もそうだが、離縁もすぐにとはいかない。色々と手続きがある。その一つとして、国王陛下の許しを得なくてはならない。


「父上を納得させられるだけの証拠と報告書を急いで作成する」



 ◇◇◇◇◇



 数日後、アルバートはリリアンが国の予算を使い潰している旨を纏めた報告書を完成させた。そしてその日のうちに、国王へ面会の予定を立てた。

 陽が暮れて人払いがなされた王の執務室でアルバートは国王へ直々に報告書を手渡して、概要を説明した。


「何てことだ!!」


 そう呟いた国王の声は怒りで震えていた。


「国民から徴収した税を自らの欲を満たすために使うとは許しがたい行いだ! しかも、フローレンス孤児院を取り潰しただと!? 私はあの孤児院をリリアンが建て直すと言ったから、予備費の使用を許可したのだぞっ!!」


 ダァン! と国王がキツく握った拳を机に叩きつけた。


「王妃が知ればどれ程悲しむことか! あそこは代々王妃に管理が受け継がれ、彼女がとても大切にしていた場所だ!! ベアトリスが彼女を暗殺しなければ!! こんなことには……!」

「父上。その件ですが、ベアトリスは冤罪かもしれません」


 アルバートが告げると、国王は目を見開いた。


「何だと?」

「まだ調査の途中ですが、王妃暗殺の捜査はリリアンの侍女の証言のみを頼りにした捜査だったことが分かりました」


 アルバートは調べていて分かったことを国王に報告する。最初は怒りに震えていた国王だったが、次第にその瞳を悲しみに染めた。アルバートの報告を聞き終えると国王が弱々しく呟く。


「ティルダとエルバートがよく言っていたな……“ベアトリス様は賢く優しい侯爵令嬢だ”と。だがら、ベアトリス様がリリアン様に害を成したり、王妃を暗殺する筈がないと」


 アルバートが王立学園のパーティーでベアトリスを拘束した日、王妃とティルダ、エルバートの三人は何かの間違いだと説いて、アルバートと国王を説得した。それを調査が進めば分かることだと、アルバートと国王は相手にしなかったのだ。


 結果、王妃は暗殺された。城内は混乱に見舞われたがすぐに実行犯が浮上し、首謀者も判明した。


 今思えば、早すぎる展開だった。


 その後、ティルダとエルバートが詳細な捜査を希望したが、実行犯が拘束されたことで捜査は早々に打ち切られ、ベアトリスの侍女であるマリーナの尋問へ進んだ。

 彼女は最後まで犯行を否定したが、物的証拠がリュセラーデ侯爵家の庭で発見された。関係者として聞き取りを受けていたリュセラーデ侯爵夫妻もその場で拘束され、早々に処刑が決まった。

 その後、ベアトリスが処刑されると、ティルダとエルバートはショックのあまり部屋に閉じ籠るようになった。そんな二人を見かねた国王は療養と称してして、二人を王家が所有する地方の別荘地へ送った。二人はそこで、今もアルバートたちと離れて暮らしている。


「……あの子たちは正しかったのかもしれない」


 しばらく黙っていた国王はそう呟いて、俯いていた顔をあげる。


「アルバートよ。……私たちは間違った判断をしてしまったようだ」


 後悔と悲しみと絶望をない交ぜにしたような表情で国王は呟いた。


「父上……まだ調査中ですので、そうと決まった訳ではありません」

「いいや、アルバート。今なら分かる筈だ。王妃を殺された悲しみの中にいたとはいえ、我々は隣国の元公爵令嬢であるリュセラーデ侯爵夫人を早々に処刑した。そんなことをすれば、隣国との関係に亀裂が入るに決まっている。現にあの日から、隣国とはいつ戦争になってもおかしくないほど恨まれている。だが、そのことに当時は誰一人気が付かなかった」


 あの時はアルバートも国王も視野が狭まっていた。だが、言われてみればその通りだ。


 王妃が暗殺され、悲しみの中にいたとしても家臣たちは王族が暴走した時に説き伏せる役割も担っている。にも拘らず、誰一人として異を唱えなかった。


「それだけではない。今回は我々を含め、官僚たち全員がとんでもない予算案を承認してしまっていた。我々はあの日から揃いも揃ってボンクラだったのか? ……いいや。そんな筈はない。誰か一人ぐらい、もっと暗殺に関して証拠を集めて捜査すべきだと、こんな予算案はおかしいと、声をあげてもいい筈だ」

「……」


 国王が言葉にしたことで、アルバートはそれまでモヤモヤしていた疑問にスッと光が差した気がした。


「……アルバート、気を付けよ。何かからくりがある筈だ」


 アルバートは「はい」と返事をして気を引き締める。


「と言っても、既に手遅れかも知れんがな」


 その言葉にアルバートは眉を歪めた。


「それはどういう意味です?」

「ここ数日、お前たちはこの件を秘密裏に調べていたのだろう。だが、相手は官僚や王太子が予算案の異変に気付いたことで、こちら側が何か証拠を掴んでいるのではないかと、怪しんでいる可能性が高い。何か仕掛けてきてもおかしくないということだ」


 それは王城の中にリリアンの息がかかった使用人たちが大勢おり、常にアルバートや国王、官僚を警戒しているということだ。


「分かりました。父上もお気を付けて」

「あぁ」


 頷いた国王を確認してアルバートは一礼すると、国王の執務室を後にした。

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◇完結済みの連載作品はコチラ
悪役令嬢にされてしまった公爵令嬢は未来の旦那様を探す旅に出たい〜それなのに、婚約破棄だと言ってきた王太子殿下が止めてきます〜
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