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9 嫉妬するアルバートと気を利かせるフランク

 リリアンは騎士に連れて行かれた翌日から学園を休んでいた。どうやら自宅謹慎を命じられたらしい。


 そして昨日は、ベアトリスの妃教育が終わる頃を見計らって、王妃が直々にベアトリスを訪ねてきた。学園で起こった出来事を耳にしてのことだった。

 流石に国王は忙しくて時間が取れなかったようだが、「嫌な思いをさせてしまい、申し訳なく思っている」という旨が王妃から伝えられた。


『この件は王家としても、王太子とその婚約者の名誉が傷つけられたことを学園側と相談させてもらうわ』


 王妃はそう言った。つまり学園の揉め事に王家が介入するということだ。

 王太子であるアルバートのことは兎も角、ただの婚約者に過ぎない侯爵令嬢の自分は穏便に済ませてほしいと、ベアトリスは願い出た。それが原因でまた変な噂が流れたりしたら堪ったものではないからだ。


 その願いがどこまで反映されたのかは不明だが、リリアンが退学ではなく自宅謹慎で済んでいるなら処罰は軽い方かもしれない。ベアトリスはそう思っていた。

 だが、リリアンの取り巻きだったクシールド伯爵令嬢とネヴィソン子爵令嬢が、放課後に学園長室に呼び出される姿を目撃してしまった。そして翌日、酷く疲れた様子の二人には反省文の課題が課せられたことを知る。

 今回の騒動でリリアン以外にも処罰を下された生徒がいることに、ベアトリスは少々心が痛んだ。とはいえ、彼女たちがリリアンを信じるあまり、ベアトリスを非難したのは確かだ。


 学園が王家の指示で下した処罰にしては、反省文で済んだだけ優しいと思うべきかしら?


 そんなことを考えながら、ベアトリスは廊下をとぼとぼ歩く二人の背中を少し離れた場所から追う形で食堂を目指していた。


「どうしてわたくしたちがこんな目に遭わなければいけませんの!?」

「そうですわ! リリアン様に騙されていただけですのに!!」

「大体! ベアトリス様だってわたくしたちに冷たい態度を取っていらしたのに! どうして彼女にはお咎めがありませんの!?」


 そんな不満の声が聞こえてくる。

 周りの生徒たちは腫れ物に触るような目でベアトリスやクシールド伯爵令嬢たちを見ながらも、関わりたくないと言わんばかりに目を逸らした。


 まぁ当然ですわよね。生徒の中にはリリアン様に同調していらした方もいらっしゃいましたもの。


 彼ら彼女らは、クシールド伯爵令嬢やネヴィソン子爵令嬢のように自分に火の粉が掛からないよう必死なのだ。


 まぁ、わたくしには関係ありませんけれど。


「ベアトリス!」


 ベアトリスが食堂に着くとアルバートが嬉しそうに手を振っていた。

 人前で大きな声で呼ばれる経験があまりないベアトリスは、恥ずかしさで固まる。しかし、彼の側にフランクの姿を見つけると、安心して体から力が抜けた。


 最近ではお馴染みになりつつあるアルバートとの昼食。そこにフランクがいることで、ベアトリスは普段より軽い心地で彼らの元に向かう。


「アルバート王太子殿下、フランク様。ごきげんよう」

「やぁベアトリス。注文は決まったかい?」

「ふふっ。フランク様ったら、わたくし、今来たばかりですのよ? そう言うフランク様は決まりましたの?」

「あぁ。Bランチにしようと思っているよ」

「良いですわね! わたくしもBランチにしようかしら?」


 楽しそうに会話するベアトリスとフランク。そんな二人にアルバートはムッとする。


「ベアトリス、フランク。ここには私もいることを忘れていないか?」


 ムスッとした声に、ベアトリスとフランクはアルバートを見た。


「そんなことありませんわ」

「そんな訳ないだろう」


 二人がそれぞれの言葉で同時に返事をする。息ぴったりな様子に、更にムッとしたアルバートはややあってボソッと呟く。


「…………婚約者は私なのに……」

「え? 何か仰いましたか?」


 ベアトリスはアルバートの言葉を聞き取れなかった。だがフランクは違ったようだ。


「おや? 嫉妬かい? そんなに羨ましいならアルバートも積極的に会話に入ればいいだろう」

「フランク、君は遠慮というものを覚えたらどうだ?」


 スッと細められたアルバートの視線にフランクは肩を竦める。


「フランク様、殿下が嫉妬なんてする筈ありませんわ」


 殿下は“私は君を手離すべきじゃなかった”と仰っていたけれど、“一度はリリアン嬢を慕っていた”とも仰っていたもの。

 わたくしを手離すべきじゃなかったというのは、政略的な意味で仰ったに過ぎない筈だわ。


 だから「どうしてそう思うんだい?」と問いかけてきたフランクに、ベアトリスは思ったことをそのまま伝える。


「わたくしたちは政略的に婚約しているだけですもの。アルバート王太子殿下がわたくしのことで嫉妬なさる筈がありません」


 それを聞いたフランクがニコニコしたまま顔をアルバートへ向けた。


「アルバート、ベアトリスときちんと話をしているかい?」


 フランクの問い掛けに、アルバートは彼が嬉しいから笑顔を向けているわけでは無いことを悟る。寧ろその真逆と知って「う……」と言葉を詰まらせる。


 ベアトリスの幼なじみであり、アルバートの親友であるフランクは、ベアトリスが幼い頃からアルバートを好いていることも、幼い頃のアルバートがベアトリスを好いていたことも知っている。

 リリアンが現れてからのアルバートは、まるで人が変わったようにリリアンを優先していた。だが、数週間前から再びベアトリスを気にかけるようになり、リリアンと距離を置いたことで以前までの彼に戻ったように感じ始めていた。


 アルバートが再びベアトリスに想いを寄せているかもしれない。


 それは幼なじみとして、親友として喜ばしいことだった。だからこそ修復しかけている二人の関係を元に戻せたらと考えていたのだ。


「……は、話しているも何も、今お前に邪魔されているようなものだが?」

「……別に邪魔をしているつもりはない。だが、私がいると二人はゆっくり話せないようだね?」


 呟くと、フランクが立ち上がる。


「フランク様? どちらへ?」


 ベアトリスが不思議そうに尋ねると、フランクが振り返る。


「三人分のBランチを注文してくるよ」

「待て。私はBランチを頼むとは一言も──」

「頼むのだろう?」


 アルバートの言葉を遮ったフランクは顔だけ振り返って彼を見た。フランクには彼がベアトリスと同じものを頼む確信があった。

 図星だったアルバートは少し悔しそうな顔で「頼んだ」とフランクに任せる。


「待っている間に二人で話をするといいよ」


 ヒラリと手を振って、フランクがその場を去って行く。

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