75 徹夜するアルバート
お話の都合上、短めの回となります。
その代わりと言っては何ですが、次の76話ではおまけとして、SSを付けます。
遂にあの人がSSで初登場です!!
人々が寝静まる頃になってもアルバートはまだ執務室に籠っていた。
先日、リリアンへの尋問で聞き出した情報が纏められた報告書と禁書から得た情報を元に、アルバートは自ら立てた仮説を纏める。これを国王陛下に提出し、果てはカモイズ伯爵夫妻にも説明するつもりだ。
カモイズ伯爵夫妻は未だにリリアンを伯爵家から除籍していなかった。
にわかには信じ難い話だ。大抵の貴族は身内が不祥事を起こして家の存続が危うくなると、蜥蜴の尻尾切りで真っ先に縁を切るからだ。
もしかすると、尋問の内容次第ではリリアンが極刑を免れるかもしれないと、一縷の望みを抱いているのかもしれない。
尋問が中々進まなかったから、軽い刑罰で済むかもしれないと期待を持たせてしまったのだろう。だが尋問が進んだ以上、リリアンの刑の執行へ向かって着実に動き出している。このままではカモイズ伯爵家まで共倒れする恐れがあった。
伯爵家自体は今回の件に加担していないため、それは阻止したいところだ。
出来れば、本来の体の持ち主であるリリアン嬢のことも何とかしたいが……
本当のリリアンの魂が今どこにあるのか? それすらも分からないのが現状だった。
フランクの手を借りて禁書から情報を得られないかと、彼には王立図書館の禁書庫を当たってもらっている。だが、昨日の今日で調べ始めたばかりのため、まだ情報は上がってこない。
仮にリリアン嬢の魂を彼女の身体に戻せたとしても、刑罰を覆せなかったら罪もないリリアン嬢を処刑してしまうことになる。
そして、本当に罰を受けるべきだった筈のリリアンはどうなるのか? 彼女も元の身体に戻るのだとしたら、何の咎めもなく生き長らえる可能性がある。
まずは国王陛下を納得させられるか。そして、貴族や市民たちに納得がいく説明をしなければならない。
そこまで考えて、ペンを走らせていたアルバートの手が止まる。
父上を説得できなかった時は、あの事を話してみるか……?
『アルバートよ。……私たちは間違った判断をしてしまったようだ』
後悔と悲しみと絶望をない交ぜにしたような父の顔が、アルバートの脳裏に呼び起こされる。それを首を振って振り払った。
……いや、大丈夫だ。リリアンを勾留し、彼女の正体をある程度暴いた今なら、きっとあの未来へ繋がることはない。
最悪の未来の記憶を振り払うように、アルバートは頭を振ると再びペンを動かし、報告書と向き合い始めた。そして、尋問担当の騎士が書いた報告書を見ながら、アルバートはあの日のことを思い返した。




