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7 嫌がらせの有無の証明

「二人とも、もういいの。わたくしのために怒ってくださった、そのお気持ちだけで十分ですわ」


 当事者でありながら、それまで少し距離を置いて成り行きを見守っていたリリアンが、話の輪に加わった。


「リリアン様っ!!」

「わたくしにとって、アルバート様に良くしていただいた日々は、まるで夢のような時間でしたわ。けれど、わたくしたちがどれほど想い合っていても、例えわたくしが陰湿な嫌がらせを受けていたとしても……アルバート様の婚約者がベアトリス様であるという事実は、変わりませんわ」


 悲撃のヒロインのように涙ぐむリリアンに、ベアトリスは口元がひきつりそうになる。


「……好き放題仰って、気は済みましたか?」


 ベアトリスが問いかけると、「まぁ! なんて言いがかりですの!!」とリリアンの取り巻きの令嬢たちが騒いだ。仕方なく気を取り直したベアトリスは冷静に反撃に出る。


「ところで、今まで貴女方が仰ったことは全て事実かしら?」

「当然ですわ!」


 ベアトリスの問い掛けに、クシールド伯爵令嬢が勢い良くに声を上げた。


「では、もしそれが偽りだった場合、王太子殿下を貶める発言をされていましたが、覚悟はおありで?」


 スッとベアトリスが目を眇る。

 先ほど、いつかの噂話ではなく、アルバートとリリアンは想い合っていた(・・・・・・・)と、真実の愛を見つけた(・・・・・・・・・)と彼女たちはハッキリ言った。

 つまり、王太子であるアルバートが浮気していたと証言することになるが、それが偽りだった場合、王太子殿下への不敬に当たる。


 その重大さに気が付いた一部の賢い生徒は、ベアトリスの発言に場の流れが変わったことを察した。だが、頭に血が昇った状態の三人はまだ気が付いていない。


「まさか、わたくしたちを脅していらっしゃるの? 覚悟なさるのはベアトリス様の方ですわ!」

「そうですわ! リリアン様に嫌がらせをされていたのですもの!!」

「そこまでだ」


 クシールド伯爵令嬢たちがベアトリスを非難する中、冷静な声が放課後の教室に響く。

 ベアトリスたちが振り向くと、教室の扉からアルバートが現れた。その背後には、ベアトリスに付けられていた護衛騎士の一人が控えている。

 どうやら彼が令嬢たちとのやり取りを見かねて、アルバートを呼びに行っていたようだ。


「アルバート様っ!!」


 リリアンが嬉しそうな黄色い声で瞳を輝かせる。つい先日も似たようなことがあったため、ベアトリスは呑気な彼女にため息が出そうになった。


「リリアン嬢、あのあともう一度文書で警告した筈ですが、また騒ぎを起こしたようですね」


 アルバートがベアトリスの傍で立ち止まると、リリアンたちを見据える。


「アルバート様! ベアトリス様の陰湿な行いは、たった今周知のものとなりましたわ!! お可哀想なアルバート様。ベアトリス様に何を吹き込まれたかは存じ上げませんが、ここにいる生徒の皆さんが証人になってくださいます! ですから、もうベアトリス様に遠慮なさらず、アルバート様のお心のままになされば良いのです!」


 自身に酔っているような、うっとりした表情でリリアンはアルバートを見つめた。そんな彼女にアルバートは眉間にシワを寄せる。


「少し前から話を聞かせてもらっていたが、ベアトリスはリリアン嬢に嫌がらせなどしていない」

「えっ……? アルバート様……?? もうベアトリス様を庇う必要はありませんのよ?」


 どうやらアルバートの言葉は彼女に伝わっていないようだ。嬉しそうな笑みを浮かべながら首を傾げるリリアンにアルバートは「仕方ない」と小さく呟き、傍に控えていたベアトリスの護衛騎士を呼んだ。


「本当は公にするつもりはなかったが、ベアトリスには護衛として騎士を付けていたんだ。彼に聞き取りをして、ベアトリスがリリアン嬢に嫌がらせをしていないことを証明してくれたよ」

「……護衛?」


 初めて聞く事実にリリアンが瞬きを繰り返す。


「あぁ。ベアトリスは私の婚約者だからね。王子の婚約者には王家から護衛が付けられるんだ。彼らは目立たないようにひっそり任務に当たっている」


 その言葉を聞いて、眉を顰めたリリアンの顔色がサッと変わる。一方で、リリアンの発言が嘘だと知らない令嬢たちはパッと顔を明るくさせた。


「でしたら! 護衛の方がリリアン様への嫌がらせを証明してくださるのではありませんか?」

「そうですわ! ベアトリス様を庇うということは、ベアトリス様に脅されている証拠ですわ!!」

「クシールド伯爵令嬢、ネヴィソン子爵令嬢」


 興奮気味な二人にアルバートが落ち着いた声で視線を送った。


「虚偽の報告をすれば、彼らは規律違反に問われる。最悪、処刑される可能性もあるんだ。だから、学園内の小さな争いで彼らが虚偽を申し出ることは、ほぼあり得ないんだよ」

「そ、そんな……」


 クシールド伯爵令嬢が青ざめた表情で呟く。アルバートはそれを見届けると、ベアトリスの肩を抱き寄せてリリアンに視線を向けた。


「リリアン嬢。私は君と一時期一緒に過ごしたことで君に勘違いをさせてしまった。そのことを危惧して貴女と距離を置いたんだが、それが裏目に出てしまったようだね」

「っ!!」


 ぐしゃりと顔を歪めたリリアンが悔しそうな表情でベアトリスたちを睨み付ける。


「ベアトリスに対する嘘の証言を吹聴したこと、詳しく話してもらおう」


 アルバートの言葉を合図に護衛騎士の一人が、リリアンを促した。抵抗するのは得策ではないと判断したのか、彼女は素直に従った。

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