68 王城図書館へのお誘い
アルバートは昼になってようやく学園へ登校した。
「アルバート、今日は随分遅かったね? 何かあったのかい?」
最近ではお馴染みのアルバートとフランク、そしてベアトリスとケィティ、ジェマの五人は一つの机で昼食を囲んでいた。たまにトレヴァーが加わることもあるが、今日は居ない。
「気になることがあって、王城の図書館で調べ物をしていたんだ」
「まぁ! 王城の図書館ですか!?」
アルバートの言葉にケィティが瞳の色を変える。
「貴重な本が沢山保管されていて、国一番の蔵書数と言っても過言ではありませんよね?」
「そうだよ。古い文献から最新の物まで、王立図書館に負けない貯蔵数だからね」
「貴重な本に囲まれた素敵な場所! 羨ましいですわ~!!」
うっとりと遠くを見つめるケイティは、焦点が合っていないように見える。
「ケイティ様は本に目がないのですわ」
不思議そうなベアトリスの視線に気付いたジェマが、自分の世界に入り込んだケイティに代わって補足した。
「アルバート様は何を調べていらしたのですか?」
ベアトリスが尋ねると、アルバートは言うか迷ったのか一瞬固まった。その様子を目にして、ベアトリスは窺うように疑問を付け足す。
「……もしかして、わたくしたちに話せない内容でしたか?」
どこか不安そうなベアトリスの視線に、アルバートは黙っている方が彼女を不安にさせてしまうと感じて「……いや」と否定する。
「ここにいる君たちなら、少しぐらい構わないよ」
一瞬、間があったものの、アルバートは辺りを気にした後、机の中央に顔を寄せた。
その動作を見て、周囲には聞かれたくない話だとベアトリスたち四人は察した。皆でアルバートと同じように、机の中央に顔を寄せてつき合わせる。そうして、アルバートは小さな声で囁いた。
「禁書が保管されている書庫に用があったんだ」
「きっ! きききっ!? 禁書~っ!!」
ケイティは頑張って声量を抑えていたが、どれだけ興奮しているかは一目瞭然だった。「きゃー!!」と瞳を光らせている。
そんな彼女の様子に「すごい反応だね」とフランクが小さく笑う。
「だ、だって! それこそ王城の図書館か王立図書館の司書にでもならない限り、お目に掛かることすら難しい代物ですわ!!」
「そうだね? あとは官僚もお目にかかれる可能性があるよ」
「まぁ! そうなんですの!?」
「以前、トレヴァーにもその話をしたら興味を示していてね。君たち、話が合うかもね」
ケイティとフランクはひそひそ会話しているが、その割にすごく楽しそうだ。そんな二人を横目にベアトリスはアルバートに尋ねる。
「それで、アルバート様の探し物は見つかりましたか?」
「あぁ。そのことについて、ベアトリスとフランクに話しておきたいと思っていたんだ。フランク、今日の放課後は空いているか?」
「ふむ。なるほどね。ここでは出来ない話だね? 別に構わないよ」
フランクが同意すると、アルバートはホッ息をついた。しかし、そんなアルバートをじぃっと見つめる視線がある。ケイティだ。
「……」
「……」
ケイティは何を言うわけでもない。だが、その瞳が言わんとしていることを他の四人は察していた。
「……ケイティ嬢、本好きの君なら分かると思うが、さすがに禁書は容易く見せたり、内容を話すことは出来ないんだ」
「えぇ。それは分かっておりますわ」
禁書の閲覧者や貸し出しには厳重な決まりがある。
まず、王家に名を連ねる者やその血筋を引く者、そして王家と関わりが深く、王族が閲覧を許可した者、そして先ほどフランクたちが話していたように本を管理する司書と業務上、閲覧が必要と許可された官僚のみだ。
ベアトリスはアルバートの婚約者であるため、“王家と関わりが深く、王族が閲覧を許可した者”に該当し、フランクは公爵令息であるため、“王家の血筋を引く者”に該当者する。だが、ケイティはそのどれにも当てはまらない。それでも彼女の瞳の輝きは止まらない。
「アルバート様」
ベアトリスに呼ばれて、アルバートが顔を向ければ、その顔には“わたくしからもお願いします”と書かれているように見えた。
そして、ケイティとベアトリスの意図を理解していたアルバートは、ついに折れる。
「……わかった。流石に禁書に関することには触れさせられないが、王城の図書館なら案内してあげよう」
「ほ、本当ですか!?」
嬉しそうに確認するケイティにアルバートは「あぁ」と頷いた。
「ジェマ嬢も興味があるなら一緒にどうかな?」
「えっ!? わたくしも王城に入って良いのですか!?」
フローレンス孤児院からの帰りに、一度王城の前まで足を伸ばしているジェマだが、子爵令嬢の彼女は夜会で使用されるダンスホールがある建物以外には足を踏み入れたことがなかった。憧れの場所なのかジェマは声を高揚させた。
「君たちはベアトリスの友人なのだから、遠慮することはない」
アルバートの言葉にケイティとジェマは顔を見合わせた。そして、「ありがとうございます!」と声を揃えて喜んだ。




