66 受け入れがたいエンディングはリセットを
『カレラブ』本編をエンディングまで進めたリリアンは、深いため息をついた。
ゲームの中のアルバートは、ベアトリスが処刑された一年後にリリアンと結婚した。アルバートとリリアンが結婚式で誓いのキスを交わす様子が、美しいイラストで描かれていた。
ストーリーの後半でアルバートとリリアンは婚約した。だが、それはベアトリスが学園のパーティーで断罪される一、二ヶ月前だ。そんな中で一年後に結婚とは、王太子という立場のアルバートは、様々な準備がある筈のため、結婚を急いで進めたと言えるだろう。
エンディングの演出が終わると、自動でメニュー画面に戻り、“本編を進める”の隣に“裏ルートを進める”の選択肢が現れた。
これが、愛依が言っていた裏ルートですわね……
リリアンは大きく息を吸って、ゆっくり吐く。憧れだったベアトリスの末路には、まだ心が追い付いていなかった。
まさか、ベアトリス様があんな最期を迎えるなんて………
少し思い出しただけで涙が出そうになるほど、リリアンは悲しい思いで胸が一杯だった。
リリアンは少しだけゲームから手を離して、水を飲む。それから気持ちを切り替えると、意を決して“裏ルートを進める”を選択した。
ジジッ……、ジジジッ……
画面に再び砂嵐が吹き荒れる。一度目の砂嵐よりも酷いそれが晴れると、裏ルートのストーリーが始まった。
───────
────
──
「そ、そんなっ……!」
裏ルートを読み進めていたリリアンは、ストーリーの後半で絶望に顔を青くした。
最初こそ幸せそうなアルバートとリリアンの描写だったが、途中から様子がおかしくなった。そして、クライマックスと思われる展開に直面したところで、リリアンは手が震えた。
乙女ゲームというのは、こういうものなの……?
そんな疑問がリリアンの頭に浮かぶ。だが、凛々亜の知識が乙女ゲームとは、ゲーム内のキャラクターと恋をして、ハッピーエンドで結ばれるエンディングを目指して楽しむゲームだと教えてくれる。
「こんなの、ダメ……。こんなエンディングは……いけませんわ」
何より、これではベアトリスどころか、誰も浮かばれない。だが、まだ数話分の裏ルートストーリーが残っていることにリリアンは気が付く。
これ、まだ続きますの? この展開の先にハッピーエンドが待ち受けているとは、到底思えませんわ。それに、こんな結末はあんまりよ! どうにかして変えられないかしら?
そう思った時、このゲームにはもう一つセーブデータがあったことを思い出す。
『二つ目のセーブデータは、プロローグ終わりだね。凛々亜ちゃん、もしかしてアルバートの他にも誰か攻略しようとしてた?』
愛依のそんな言葉が頭を過った。
プロローグ終わりなら、まだ誰のルートに入るかすら決まっていませんわよね?
「……」
もしも、そのセーブデータをプレイしたら、あの裏ルートを変えられる? ベアトリス様が幸せになれる可能性もあるのかしら?
リリアンは一度、セーブデータの選択画面に戻ると、もう一つのセーブデータを選択する。すると、“続きをプレイ”の下に、“リセットする”の選択肢があることに気付いた。
「リセット?」
呟くと、凛々亜の知識が最初からゲームをやり直すことが出来るのだと、教えてくれる。
最初から……つまりプロローグからやり直せるということよね?
リリアンは先ほど順番に眺めてきたストーリーを思い返す。短いながらもカレラブをプレイして、リリアンは乙女ゲームが主人公のヒロインに有利な展開で進むものだと、理解し始めていた。
だけど、叶うのなら、わたくしはベアトリス様とアルバート様が幸せになれるストーリーが見たいですわ。
リリアンはそんな願いを込めながら、一度キャンセルを選択して、今までプレイしていたセーブデータを選択し直す。そして“リセットする”を選んだ。
リリアンはゲームをプレイし直すことにしたのだ。
ジジジジッ……
ゲーム画面に砂嵐が吹き荒れる。ゲームがプロローグから始まろうとしていた。
いつも読んでくださっている皆さまも、最近読み始めてくださった皆さまも、ここまで読んでくださりありがとうございます!
ブックマーク、評価、リアクションなど励みになっております!!
誤字脱字報告も大変助かっております。
さて、66話で一旦リリアンと凛々亜に関するお話が落ち着いたため、次のお話から5章とさせていただきます!
4章は暗めの内容も多かったですが、5章は多少明るくなると思います、たぶん。
これからも皆さまに楽しんでもらえるように頑張ります!
引き続き応援よろしくお願いします!!




