43 幼なじみの二人
「フ、フランク様! おはようございます!」
「ベアトリス、おはよう」
見られていた恥ずかしさから、ベアトリスは慌ててアルバートの手を離した。
タイミングが良いのか悪いのか。ベアトリスと良い雰囲気だったところで現れたフランクにアルバートは内心ムッとする。
ベアトリスはフランクと向き合う。すると、久しぶりに会ったフランクは安心したのか表情を緩めた。
「……元気そうで本当に、本当に良かった」
そう言って、珍しくフランクがベアトリスにハグをする。だけと、それは一瞬で離れるような軽いものではなく、ぎゅっとベアトリスは抱き締められた。
「えっ!?……ちょっ、フランク様!?」
ベアトリスが戸惑うもフランクは中々離そうとしない。その光景を目の当たりにしたアルバートが「あっ、おい! フランク!?」と咎めるが彼の耳にその声は届いていなかった。
「……凄く、……心配したんだ」
「っ!」
慌てふためくベアトリスの耳に小さく弱々しいフランクの声が届く。
いつも優しくて、にこやかな笑顔を見せるフランク。彼が弱い姿を見せるなんて、ベアトリスは想像すらしていなかった。その分、フランクがどれだけベアトリスを心配していたのかが伝わってくる。
「……ご心配をお掛けしました」
ベアトリスはそっとフランクの背中に手を回して、安心させるようにそっと撫でた。
「わたくしはこの通り、元気になりましたわ」
漸く身体を離してくれたフランクがベアトリスを見る。
「フランク様。あの日、アルバート様と一緒にわたくしを助けに来て下さったとお聞きしました。本当にありがとうございました」
ベアトリスは漸くお礼が言えてホッと息を吐く。
「幼なじみの危機に駆け付けるのは当然さ」
そう言って、少し身体を離すと笑顔を見せたフランクはいつも通りの彼に戻っていた。
「フランク、そろそろベアトリスから離れてくれ」
そんな言葉と共にベアトリスの身体がグイッと後に引き寄せられる。
「きゃ!?」
バランスを崩したベアトリスはそのまま後ろから抱き締められる形でアルバートの胸の中に収まった。まだ覚束ない足取りのベアトリスはたたらを踏んで、何とか体勢を立て直す。それから懸命に首を動かして、アルバートを見上げた。
「アルバート様?」
「ベアトリスは私の婚約者なんだ。フランクは幼なじみとはいえ、あまりベタベタしないでくれ」
ムッとしたアルバートの顔がベアトリスの瞳に飛び込んできて、ベアトリスは驚いて小さく息を呑む。
だが、アルバートの言うことも一理ある。
ベアトリスは婚約解消騒動があって、アルバートとの関係をあやふやに捉えていた。だが二人の婚約が継続されている以上、婚約者がいる身として今のは距離が近すぎたと密かに反省する。
「おやおや、嫉妬かい? そうは言ってもベアトリスは私の幼なじみで、久しぶりに会ったんだ。親愛のハグくらい許してくれ」
アルバートの険しい視線をフランクはヒョイと簡単に躱す。
「親愛と言うには長すぎたと思うが?」
「気のせいさ」
何故かバチバチと火花を散らすアルバートとフランク。間に挟まれたベアトリスは狼狽える。
「あの、お二人ともその辺りでお止めください」
だが、二人にベアトリスの声は聞こえていないらしい。
「ここは学園だ。小さな社交の場のようなものだ。誰かに勘違いでもされたらどうする?」
勘違い……
その一言でベアトリスは周囲に目を向ける。そして周りの生徒たちの視線が、ベアトリスたちに注がれていることに気が付いた。
只でさえ学園に復帰したばかりのベアトリスは目立つ。そこへ、アルバートとフランクが揉めていたとなると……
嫌な予感がしますわ……
ベアトリスが不穏な気配を感じ取っている間に、「それもそうだね。久しぶりにベアトリスを見て安心したんだ。やましいことは何もないよ」とフランクが答えていた。
「だが、アルの気に障ったのなら謝ろう。すまなかった。二人の時間を邪魔してしまったお詫びに私は先に行くよ」
そう言って、フランクは先に校舎の方へ歩いていく。ベアトリスとアルバートは気まずい雰囲気で取り残された。




