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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
3章

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40 枯れない思い出はドライフラワーの花束に

 ベアトリスは十分に療養してからリュセラーデ侯爵邸へ戻った。久しぶりに帰ってきた娘を両親はハグと共に迎え入れて喜んだ。

 その後、家族とお茶を楽しんだベアトリスは久しぶりに自室へ入る。


 王城での療養中は、忙しい筈のアルバートが毎日ベアトリスのリハビリに付き合っていた。放課後に帰城したアルバートと城内の庭園や温室を散策し、毎日少しずつ距離を伸ばしながら二人は一緒に歩いた。

 リハビリを重ねるごとに、ベアトリスは補助なしで歩くことに慣れていった。すると、最初は転んでしまいそうで、それどころではなかったが、庭園の景色や温室の植物を楽しむ余裕が出てきたのだ。

 アルバートとの会話も少しずつ増えて、いつの間にかベアトリスの中で気まずさが小さくなっていた。それどころか、アルバートとのリハビリを楽しみに思うようになっていた。まるで、昔一緒に庭園を歩いていた頃のようだわ。とベアトリスは感じていた。


 こうしてアルバートのお陰でベアトリスは一人でも難なく歩けるようになった。とは言え、油断すると身体がふらつくこともあるため、その歩みは慎重だ。


『実はベアトリスが眠りについた翌日、“君が目覚めたら久しぶりに一緒に庭園を散歩しよう”って、眠っている君に約束したんだ』


 ふと、ベアトリスはリハビリ中にそう言って微笑んでいたアルバートを思い出す。そうして、ポッと心に灯った温かな気持ちを振り払うようにぶんぶんと首を振った。


 流されては駄目よ! だって、あれはアルバート様の演技かもしれないわ!!


 婚約解消を言い渡された記憶がまだ真新しいベアトリスは、一時の感情に流されまいと必死だった。そんな挙動不審な主人の様子にマリーナは首をかしげる。


「お嬢様、どうかされました?」

「えっ!? な、何でもないわ!」


 ベアトリスはハッとして慌てて誤魔化すと、荷物を整理するため机に向かう。そして、ふと壁に見覚えのない物が吊るしてあることに気付いた。


「マリーナ、これはどうしたの?」


 ベアトリスが尋ねると、マリーナが「あぁ」と声を漏らす。


「ドライフラワーの花束です」

「……マリーナ、幾らわたくしが記憶を失くしたとはいえ、流石にそれは見れば分かるわ。この花束をどうしたのか聞いているの」


 こんな時にからかってくるマリーナにベアトリスが咳払いをすると、思わぬ答えが返ってくる。


「王太子殿下からの贈り物です」

「アルバート様からの贈り物?」

「はい。お嬢様たちが学園で喧嘩された日に、王太子殿下が妃教育をしているお嬢様の部屋まで足を運んで下さいました。ですが、お嬢様は意地を張って殿下を追い返されたため、城の使用人を通してベアトリス様にと、花束を渡されたのです」

「わたくしが意地を張ったの?」

「ご自分でムキになり過ぎたと仰っていましたよ」


 一体どんな理由でアルバートと喧嘩をしたのかも気になるところだが、ベアトリスは自身がアルバートに対して意地を張ったことに驚いた。興味が湧いたベアトリスは、ドライフラワーにされた花束が吊るしてある壁に近づく。

 妙に懐かしさを感じるその花束を見ていると、リハビリ中にアルバートと歩いた庭園や温室を思い出した。


 王城で見てきた植物の中に、確かこの花束に使われている花もありましたわね。


 そう考えたとき、幼い頃にアルバートが贈ってくれた花束によく似ていることに気が付く。


「……どこかで見たことがあると思えば、幼い頃アルバート様に戴いた花束に似ているんだわ」


 ベアトリスが呟くと、「あの時と同じことを仰るのですね」とマリーナが微笑む。


「どういうこと?」


 マリーナを振り返ったベアトリスにマリーナは優しげな眼差しを送った。


「その花束を戴いたときも、お嬢様は懐かしそうにそう仰っていましたよ」

「へ……」


 指摘されて、何も覚えていないのにベアトリスは恥ずかしさが込み上げる。約三ヶ月半の記憶を失ったベアトリスだが、今のベアトリスもそれ以前のベアトリスも確かに自分自身なのだと、思い知らされる。


「枯れてしまう前にドライフラワーにして残しておくのが良いと思いまして、お嬢様が眠らされてしまったすぐ後に他の使用人に頼んで処理させました」

「そ、そう? それはありがとう」


 何でもない風を装って、ベアトリスは荷物整理を始める。だけど、その横顔はほんのりと赤く色づいていた。

 その様子を観察していたマリーナは微笑む。ベアトリスは記憶を失っても、やはりアルバートが好きなままなのだとマリーナは確信した。


 ベアトリスは明日から学園へ復学する予定だ。だから、今日中に明日の準備を済ませておく必要があった。


 記憶の秘薬は一度飲んで眠ってしまうと、失った記憶は戻らないと言われている。秘薬の効果を中和してくれる薬は存在しているが、記憶の秘薬に関しては、服用しても記憶が戻るわけではないため、意味がないのだ。

 記憶を失った期間の出来事は、誰かから教えて貰ったりして埋めるしかない。そのため、ベアトリスは自身が書いていたノートを見返しながら、マリーナやアルバートから聞いたこの四ヶ月間の話を思い返す。


 ベアトリスは昨日のリハビリの最後に、休憩と称したお茶会をアルバートと二人で開催していた。

 リハビリ中、アルバートと一緒に過ごしたお陰で彼に対しての気まずさは薄れていたが、面と向かい合うと落ち着かない気持ちになった。


『ベアトリス、君にいつ話そうか迷っていたんだが、もうすぐ君の学園復帰間近だから、今日話しておくよ』


 そう前置きして、アルバートはベアトリスが記憶を失ったあの日のことを教えてくれた。

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◇完結済みの連載作品はコチラ
悪役令嬢にされてしまった公爵令嬢は未来の旦那様を探す旅に出たい〜それなのに、婚約破棄だと言ってきた王太子殿下が止めてきます〜
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