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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
3章

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39 アルバートと思い出の庭園散歩

 庭園を目指して歩いていた二人は、いつの間にか建物の外に出ていた。久しぶりに陽の光を浴びたベアトリスは、眩しさにほんの少し表情を歪めながら顔を上げる。


「……」


 目の前に広がるのはベアトリスも何度も訪れたことがある庭園だ。昔はアルバートとたくさん訪れた場所だが、最近はエルバートと来ることが殆どだった。


 最後にこの庭園をアルバート様と一緒に歩いた日が、遠い遠い昔のようだわ。あの頃はアルバート様と一緒にいて、気まずいなんて思うことはなかったのに……


 ベアトリスが感傷的な気分に浸っていると、隣から問いかけられる。


「昔、二人でこの庭園を一緒に歩いたこと、覚えているだろうか?」

「えっ? えぇ、勿論ですわ」


 昔訪れたときのことをアルバートも同じように思い出していたことにベアトリスは驚く。


「最近はよくエルバートと一緒に歩いていたそうだね」

「……何故それを?」


 もしかして、記憶を失った期間のどこかでわたくしが殿下に言ったのかしら? ベアトリスはそう思ったが違った。


「エルバートから聞いた」

「エルバート様から?」

「月に一度、ベアトリスと庭園を散歩していたことも、ティルダと三人で茶会をしていたことも、君が眠っていた間に教えて貰った」

「……」


 言われて、ベアトリスはティルダたちと三人でお茶会をした時のことを思い出す。最後の方はアルバートとお茶会をするより、あの三人でお茶をする方が楽しいとさえ感じていた。それほど、アルバートとの心の距離は離れてしまっていたのだ。

 学年が上がってからのアルバートは、段々リリアンに惹かれていって、ベアトリスとの時間をそちらに割くようになったからだ。


「私は弟妹がベアトリスと交流していたことを知らなかった。私は君を蔑ろにしていたんだと、思い知らされたよ」


 それを聞かされたベアトリスは、掴んでいたアルバートの手にキュッと力を込める。


「何故、今更それをわたくしに仰るのです?」


 アルバートはリリアンと一緒に過ごし、彼女を正妃にしたくて、ベアトリスと婚約解消したいと言ったぐらいだ。


 わたくしのことなんて、何とも思っていないのでしょう? わたくしを好きではなくなってしまったのでしょう?


 怒りにも似た気持ちがベアトリスの胸に溢れ始めた。だから、少しキツイ言い方でアルバートを問い詰める。すると、視線を下げたアルバートが口を開いた。


「それは、私がベアトリスへの気持ちを取り戻したからだ」

「えっ!?」


 驚くベアトリスに構わず、アルバートは言葉を続ける。


「そして、こんな愚かな私をベアトリスがずっと慕ってくれていたと知ったからだ」

「っ……」

「少なくとも婚約解消を告げるその時まで、君は私を慕ってくれていた。……違うか?」


 ベアトリスは何も言い返せない。


 違わないわ。なんなら婚約解消を言い渡された後も、わたくしはアルバート様を慕っていた。だからこそ、悲しくて涙が枯れるまで泣いたんですもの。


 アルバートの表情は申し訳なさそうに歪められていて、ベアトリスの心が揺れる。

 ベアトリスが目覚めてからのアルバートは、婚約解消を申し出たあの日のアルバートと雰囲気すら違っている気がした。


 だとしても簡単に許せない。傷付いた分、許したくない。

 記憶を失くす前のわたくしは、どうしてアルバート様との婚約継続を受け入れたの??


「ベアトリス」


 泣きそうになって、思わず俯いたベアトリスをアルバートが呼ぶ。


「婚約解消を打診した一週間後、私は君に婚約解消を取り消したいと言ったんだ」

「なっ!?」


 一週間という変わり身の早さに、ベアトリスは絶句して顔を上げた。


「婚約解消を申し出た私は実に愚かで、とんでもない過ちを犯したと思っている。君に許してくれなんて言える立場では無いことも理解している。それでも、私は君を手放したくない」


 ベアトリスは乞い縋るようなアルバートの視線に一瞬流されそうになる。


「っ、何を勝手な……そもそも一週間で発言を取り消すだなんて、殿下はもっとご自分の発言に責任を持つべきです」


 ベアトリスがそう言えば、隣から「はははっ」と乾いた笑いが響く。


「なっ! 何が可笑しいんですの!?」


 ベアトリスが顔を上げて抗議すると「すまない」と一言降ってくる。


「悪気はないんだ。ただ、全く同じことを記憶を失くす前の君にも言われた」


 そんなことを言われてしまえば、ベアトリスはアルバートを怒るに怒れなかった。少なくとも記憶をなくす前の自分も同じことを思ったのだと知れて、ベアトリスは少し安心する。


「私はその時に“変わる努力をする”と、ベアトリスに約束した」


 そこで一度言葉を区切ると、アルバートは真剣な眼差しでベアトリスを見つめる。


「私は今一度、君の信頼を取り戻すように務めるよ。だから、信じてくれないか?」


 アルバートから真っ直ぐ伝えられた言葉に嘘は感じなかった。だからなのか、ベアトリスは気付くとこう答えていた。


「それは、これからの殿下次第ですわ」


 記憶を失くす前のわたくしが出しかけていた答えを信じてみたい。アルバート様の何を見て何を思って、彼と喧嘩をしたあとに仲直りをしようと思ったのか、知りたい。


 アルバートとの短い会話の中で、ベアトリスはそんな風に考え始めていた。

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悪役令嬢にされてしまった公爵令嬢は未来の旦那様を探す旅に出たい〜それなのに、婚約破棄だと言ってきた王太子殿下が止めてきます〜
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