31 魅了の秘薬がもたらした被害
ベアトリスが眠ってから二日目。この日、アルバートたちは学園でリリアンから魅了の秘薬の被害に遭った生徒たちのうち、彼女と共にベアトリスやその護衛騎士へ危害を加えた者たちの処遇を生徒会で協議していた。
彼らは加害者であり、被害者でもある。まだ未成年ということも考慮され、王家は学園内での問題として学園側に采配を委ねたのだ。
結果、ベアトリスと護衛騎士に直接手を出していない者は二ヶ月の自宅謹慎と反省文の処分が下されることになった。そして、ベアトリスをリリアンの元へ案内した生徒とベアトリスと護衛騎士のどちらかに何かしらの危害を加えた者はその度合いによって、半年~一年間の停学または退学処分となった。
停学処分の生徒は最短で復学したとしても授業日数などの問題があり、次の進級に間に合わない。そのため、来年度は今の学年をやり直すことになる。つまり、三年生は卒業できないことが確定した。
また、それとは別で魅了の秘薬の被害に遭っていた生徒全員に対して、秘薬の効果を中和してくれる薬の配布やカウンセリングなどのケアがされることになった。
アルバートが協議結果を学園長に伝えに行くと、「これほど処分者が出たのは本校始まって以来のことだ」と嘆いていた。
その後、アルバート自身も秘薬の被害に遭っているため、中和薬を飲みながら生徒会長と王太子としての勤めに励んだ。
令息たちの処分が一段落した翌日。アルバートたちはリリアンと仲良くしていたクシールド伯爵令嬢とネヴィソン子爵令嬢からも今一度、話を聞くことにした。
「わたくしたち! リリアン様にすっかり騙されていましたのよ!!」
「今となっては、どうしてあのような方と仲良くしていたのか全く理解できませんわっ!」
ムキーッと悔しそうな二人をフランクと書記のトレヴァーと共に宥めながら、アルバートとフランクで質問し、トレヴァーがその内容を書き留めていく。
「わたくしたち、謹慎明けにお一人だと可哀想だと思って、リリアン様に声を掛けて差し上げましたの」
「そうしたら彼女、“貴女たちは役に立たないのでもう必要ありませんわ”ですって!! 酷いと思いませんこと!?」
ネヴィソン子爵令嬢のあとに続いて、クシールド伯爵令嬢が向かい合って座っている机に身を乗り出して訴え掛けた。
ぎょっとしたアルバートだったが、フランクはそんな迫力のある彼女たちの姿に動じることなく、「それは辛い思いをしたね」と同情の表情を浮かべた。すると、彼女たちはその言葉を待っていました! と言わんばかりの表情で瞳を輝かせた。
「まぁ! 分かってくださいますか!? 流石フランク様ですわ!!」
キャーと黄色い悲鳴が上がる。
怒ったり嬉しそうにしたり、感情が忙しいご令嬢たちだと、アルバートはある意味感心した。だがフランクに負けていられないと、冷静に努めて口を開く。
「ところで、二人がリリアン嬢と仲良くしたきっかけや彼女が他に仲良くしていたご令嬢がいれば、教えて貰えないだろうか?」
「勿論ですわ! 王太子殿下の頼みでしたら喜んでお答えします!!」
こうして濃い時間を過ごしたアルバートたち。彼らがクシールド伯爵令嬢とネヴィソン子爵令嬢の話を聞き終える頃には外は暗くなっていた。
生徒会室に戻ると、疲れた身体を三人はそれぞれ定位置になりつつあるソファーに沈める。
ご令嬢というのはこんなにもお喋りなのか……と、アルバートはぼんやり思った。そう考えるとベアトリスはとても大人しい。
妃教育を受けているからかもしれないが、今まで彼女の話を聞いてここまで疲れたことはなかった。寧ろ彼女の話を聞いたり、何か話したりすると穏やかな気持ちになって癒されたと記憶している。といっても、アルバートがリリアンを気に掛けるようになってからはそんな感情は薄れていたが。
「二人の話を聞いた限り、彼女たちも魅了の秘薬に掛かっていたと私は思ったんだけど、どうかな?」
フランクに問い掛けられて、アルバートは視線だけを動かして彼を見る。
本来であれば突拍子もない発言だが、一緒に話を聞いていたアルバートも同じ意見を抱いていた。




