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3 傷心のベアトリス

 結局、ベアトリスとアルバートの話し合いはそれ以上進展なく終わった。


 約束の時間になり、二人で案内された応接室へ向かうと既に双方の両親が揃っていた。

 侯爵家と王家の話し合いが始まると、国王は開口一番謝罪した。


「まずはリュセラーデ侯爵、並びに侯爵夫人。そして侯爵令嬢、この度は愚息がご迷惑をお掛けした。この通り、大変申し訳ない」


 深々と頭を下げる国王とそれに続く王妃の姿にリュセラーデ侯爵が慌てる。


「国王陛下! どうかお顔をおあげください!」


 家臣に過ぎない侯爵家に頭を下げる国王。アルバートといい、この親子は王家の人間でありながら自分たちに非があると認めれば頭を下げるようだ。

 人として当然でありながら、中々出来ることではない。立派な行為ではあるが王族としてはあまり良いとはいえない。他国と何かあった時も安易に頭を下げられては一国の王として不安があるというものだ。


 こうして始まった話し合いは直後にアルバートが挙手で発言し、数分前にベアトリスへ伝えたばかりの婚約解消の取り消しを申し出た。

 話を聞いたベアトリスの両親は呆気に取られた。国王は頭を抱え、王妃もなんとも言えない表情をしている。


「一つお伺いしてよろしいかしら?」


 重苦しい空気の中、ベアトリスの母が最初の沈黙を破った。国王が発言を促すと侯爵夫人はアルバートに疑問を投げ掛ける。


「婚約解消はせずに、このままベアトリスとの婚約を継続させたいということですけれど、王太子殿下は娘に『守りたい人が出来た。私はその人を正妃にしたい』と宣言なさったそうですね」

「……はい。仰る通りです」


 否定せず、素直に認めたアルバート。そんな彼に侯爵夫人は畳み掛けるように質問を重ねる。


「つまり、他に意中のご令嬢がいらっしゃるはずですが、その方はどうなさるおつもりかしら?」


 低い声と共にスッと細められた眼差しがアルバートに向けられる。ここで答えを間違えれば、その瞬間から侯爵夫人の信用を得ることは二度とない。そう思わされるような圧力を感じてアルバートはごくりと唾を飲み込んだ。


「私はリリアン嬢の証言を信じて、ろくに調べもせずにベアトリス嬢が彼女に嫌がらせをしていると決めつけていました。ですが、ベアトリス嬢に調査はしたか? と問われて、気になった私は嫌がらせの現場を目撃した者がいないか捜索を行いました。結果、そういった目撃者がいないことが分かったのです」

「!」


 アルバートの発言にベアトリスは驚く。


『アルバート様、わたくしがリリアン様の物を盗んだという証拠はあるのですか? わたくしが彼女を突き飛ばしたという証拠は? 勿論、調査してくださいましたのよね?』


 まさか、わたくしのあの言葉を聞いて……?


 リリアンを信じていると言っていたアルバート。そんな彼が自身の言葉を受けて調査を行ったことが、ベアトリスには信じ難かった。

 ベアトリスが動揺している間もアルバートの話は続いている。


「リリアン嬢が嘘を吐いている可能性が出てきたのです。そこで私はようやく目が覚めました。そして、自身が疑われているにもかかわらず、冷静に物事を見極めようとするベアトリス嬢に尊敬を抱きました。その時に私の妻となる者はベアトリス嬢しかいないと思ったのです」

「つまり、意中のご令嬢とは関わりを切るということで宜しいかしら?」

「勿論です。嘘を吐いているかもしれないと分かった時点でリリアン嬢への気持ちは失くなりました」


 それを聞いてベアトリスは思った。


 リリアンへの気持ちは失くなったが、やはりそれまで彼は彼女を好いていたのだと。そして、ベアトリスのことは尊敬していても、好いてはいないのだと。


 ……やっぱり、好きだったのはわたくしだけだったのね。


 ベアトリスがそれらを理解すると、ドクドクと嫌な動悸を刻んで胸が悲鳴を上げた。だが、アルバートの迷いのない返事を聞いて、侯爵夫人はホッと顔を綻ばせる。


「それを聞いて安心しましたわ。王太子殿下がもしうちの娘か、意中のご令嬢のどちらかを側妃として迎えると仰っていたら、娘をわたくしの実家から嫁に出そうかと考えていたものですから。もう暫くはこの国で一緒に暮らせそうですわ」


 ふふっと上品に笑う侯爵夫人。だが、彼女の目は全く笑っていない。

 ベアトリスの母は隣国の公爵令嬢だった。要するに、良いように娘を搾取しようものなら“隣国へ逃がす”と遠回しに伝えているのだ。それは両国の緊張が高まる行為であった。何しろ、ベアトリスの母には隣国の王家の血が流れている。場合によっては戦争の火種になりかねないのだ。


 こうして一度は婚約解消の話が持ち上がったベアトリスとアルバートは婚約関係を続けることになった。幸いにも婚約解消の話題は公にしていないので、何の問題もない。ベアトリスが人知れず傷付いただけで学園生活もこれまで通り過ごせる。



 ────その筈だった。



「見て、ベアトリス様よ」


 ベアトリスが学園の廊下を歩いていると、誰かが小声で彼女を指差した。


「リリアン様の物を盗んだんですって」

「あら? わたくしはリリアン様を後ろから突き飛ばしたと聞きましたわ」

「可哀想なリリアン様……」

「ベアトリス様からの仕打ちを涙ながらに教えて下さいましたわ」


 学園の様子が昨日辺りからおかしい、とは感じていたベアトリスの耳にそんな声が届く。


「……」


 話題からして、この噂の出所はリリアン本人のようだ。


「ベアトリス様は王太子殿下から愛想を尽かされたとお聞きしましたわ」

「そう言えば、少し前まで殿下とリリアン様は学園内でもご一緒でしたものね」

「王太子殿下はリリアン様と心を通わせていらっしゃるのよ」

「ベアトリス様が婚約破棄されるのも時間の問題ですわね」


 ベアトリスを嘲笑う声がどこかから聞こえてくる。


「……」


 こういった類いの噂は無視するに限りますわ。


 どちらかと言えば、愛想を尽かしたのはベアトリスの方だった。リリアンの言葉を鵜呑みにして婚約解消を言い出したのはアルバートの方なのだから。


 好きな人に信じて貰えなかったことで、どれほどベアトリスが傷ついたか誰も知らない。

 事実がどうであれ、婚約解消の件が表に出ていない以上、訂正することはできない。


 言いたい人には勝手に言わせておきましょう。


 そうしてベアトリスが何も聞こえないフリをしていると、彼女の前に三人の令嬢が立ち塞がった。

 リリアンとその取り巻き令嬢だった。

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