21 案内役の令息たち
お話の都合上、短めの回となります。
ベアトリスは令息たちのあとを着いて、学園の敷地内を歩いて行く。教室がある校舎を通り過ぎ、生徒会室がある建物へ入って行く令息たちに内心ホッとした。
やっぱり、アルバート様は生徒会のお仕事で忙しかったのね。お会いしたら何て言おうかしら? まずは昨日のことを謝るべきよね。
ベアトリスが謝罪の言葉をぐるぐる考えていると、不意に彼らが立ち止まった。
「どうされました?」
ベアトリスが声を掛けると二人が振り返る。
「申し訳ありません。本日は資料探しのため、いつもと違う部屋で作業されているのを失念しておりました」
「そうなのですか?」
ベアトリスの問い掛けにもう一人の令息が「はい」と答える。
「ですから三階ではなく、地下室へ向かいます」
「……」
いつもと違う部屋で作業していることを二人揃って忘れるとは、考えにくい。加えて、普段ほんとんど使用されていない地下室へ案内されるのはかなり怪しかった。
「いえ、資料探しの邪魔をしては気の毒です。急ぎの用はございませんし、お昼休みに改めて殿下を訪ねますわ。ここまでの案内、感謝します」
ベアトリスは優雅に挨拶すると、身を翻して歩いてきた廊下を戻る。その時、後ろから手首を掴まれた。
「きゃ!?」
「勝手に戻られては困ります。ベアトリス嬢」
ベアトリスが振り返って確認すると、一人の令息が冷たい表情で告げた。
「は、離し──」
離してもらおうと口を開いた途端、もう一人の令息にベアトリスは後ろから口を塞がれる。
「っ~~!!」
ベアトリスは大声をあげようとしたが、全く声が出せなかった。それならと、掴まれていない方の手で抵抗を試みる。だが、それよりも早くもう片方の腕も掴まれてしまう。
「悪く思わないでください、ベアトリス嬢。リリアン嬢がどうしても貴女に“アルバート王太子殿下のことでお話がある”そうなので」
「!!」
まさか、彼らはリリアン様に頼まれたの!? だとすると、案内すると言っていたのはアルバート様のところではなく、リリアン様のところ!?
そう結論付けたベアトリスだったが、気付くのが遅すぎた。
ベアトリスの口を塞いでいる令息は手を換えると、ベアトリスの口許にリネンを押し当てる。途端に初めて嗅ぐ甘い匂いがして、ベアトリスの体から力が抜けていく。
危険な状況なのに、ベアトリスの護衛騎士が出てくる気配がない。
そうですわ! わたくしの護衛騎士の方は!?
ベアトリスは必死に視線を動かすと、廊下の先で二人の騎士が倒れている姿が目に入った。その周りに数名の令息たちの姿がある。
仮にも王家に仕える騎士が、どういう訳か学生の手で倒れている。その光景にベアトリスはゾッと背筋が凍った。
何が起こっているか分からず、ベアトリスは漠然とした恐怖を感じた。そんな中でベアトリスが助けを求めて、最初に頭に浮かんできたのはアルバートだった。
彼がベアトリスに過度なまでに気を付けるよう警告していたことが、悪い方向で実現してしまったのだと理解する。
わたくし、油断してしまいましたのね……
必死に抗おうとしたベアトリスだったが、力の入らない身体ではどうすることも出来ない。少しして、嗅がされた薬の影響で意識を保つことが難しくなると、そのまま気を失った。




