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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
1章

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19 ベアトリスとアルバート思い出の花束

「ベアトリス。……少し良いかい?」


 王城で妃教育を受け、休憩中のベアトリスの元へアルバートがやってきた。


 ベアトリスは今朝の出来事から食堂ではアルバートを無視し、帰りもそそくさと移動して侯爵家の馬車で先に王城へ向かった。勿論、王家の御者には“先に王城へ向かう”と、一言断りを入れた。

 だが王太子であるアルバートを無視するなど、ベアトリスの行いは不敬罪に問われてもおかしくない。それでもベアトリスは怯まなかった。寧ろ怯んでいるのはアルバートの方だった。


「わたくしに何かご用でしょうか?」

「今朝のこと、本当にすまないと思っている」

「別に。わたくしはわたくしの務めを果たすまでです。王太子殿下が思い悩まれることなどありません」


 ツンとした口調のベアトリス。そんな彼女の機嫌を伺うように話すアルバート。二人の間に流れるピリピリとした雰囲気を感じた講師や侍女たちは困惑顔で二人を交互に見て、視線を彷徨わせる。


「そうはいかない。誤解を招く発言で君に不愉快な思いをさせてしまったのに、放っておくことは出来ない」


「誤解? 殿下がリリアン様を守らなければと思ってしまうのも、彼女をお慕いされていたのも誤解ではなく事実でしょう?」


 アルバートにとって痛いところを突いてくるベアトリス。人払いもせずにこの内容を口にするのは彼女が周囲の目を気にしていないのではなく、わざと聞かせているからだ。

 噂が立つことを気にして体裁を守るのではなく、あえて周知しているところを見るにかなり怒っているのが分かる。


「だから、それは以前までの話で──」

「聞きたくありません!」


 声を張り上げたベアトリスにアルバートはビクッと肩を跳ねさせた。だけど、ベアトリスの表情を見れば、ただ怒っているだけではないと分かる。ベアトリスが何かを耐えようと、必死に眉を寄せ顔を歪めていたからだ。


「……」


 もう、ベアトリスとの仲を戻すのは難しいかもしれない。


 アルバートは後ろ手で隠していた花束を無意識に少し強く握る。そして俯くと、ポツリと呟いた。


「分かった……」


 アルバートは踵を返してそのまま部屋を出る。

 パタンッと扉が閉まる音が妙に響いた。



 ◇◇◇◇◇



「お嬢様」


 侍女のマリーナの声にベアトリスは視線をそちらに向ける。

 ベアトリスが妃教育を終えて帰路に就くため馬車に乗り込んだ直後、マリーナは王城の使用人に呼び止められていた。その彼女が数分で戻ってきて、ベアトリスの向かいの席に座った。


「こちらを城の使用人からお預かりしました」


 スッと差し出されたのは白い花束だ。


「これは……カモミール?」

「はい。何でも王太子殿下がリュセラーデ侯爵家の使用人に預けるように仰ったそうです」

「っ!」


 アルバートが預けるように言ったと聞いて、ベアトリスは少し身構えた。だけど動き出した馬車の中、ベアトリスは花束を見つめる。花束はカモミールをメインとして、他に白を基調とした花が添えられていた。


「どうして……」


 呟きながら、その花束に妙に懐かしさを感じる。ベアトリスは懐かしさの理由が気になって、いつどこで目にしたものと似ているのだろう? と考える。


「使用人の話しによると、王太子殿下は学園から帰ってくるなり、公務よりも先に庭師と共に庭や温室を巡って、カモミールとそれに合う花を真剣に選ばれていたそうです。まるで幼い頃の殿下を見ているようだったと、王城の使用人が仰っていました」


 マリーナの言葉にベアトリスの脳裏に昔の記憶が浮かぶ。


「どこかで見たことがあると思えば……」


 それは幼い頃、アルバートがベアトリスに贈ってくれた花束によく似ていた。あの時の花束は王城に生えていた花を摘んで渡してくれたものだと聞いている。


 あの頃、わざわざ自分のために殿下が花を摘んで下さったと知って、とても嬉しかったわ。


「王太子殿下はお嬢様と仲直りされたいようですね」

「え?」

「カモミールの花言葉ですよ」


 マリーナの言葉にベアトリスはいくつかあるうちのカモミールの花言葉に“仲直り”があることを思い出す。


「…………わたくしも、ムキになり過ぎましたわよね」


 リリアンを守らなければと思ってしまうと言ったアルバートに、ベアトリスは自分でも抑えられないほどの感情が沸き上がった。


 王城に着いてからもアルバートの発言が許せなくて心を乱されてしまい、ついアルバートに冷たく当たってしまったのだ。


「……心を乱される程、お嬢様はアルバート王太子殿下をお慕いしていらっしゃるのですね」


 その言葉に胸がズキッと痛む。


「やめて。それは少し前までのわたくしの話よ」

「では、何故ムキになり過ぎたと思われたのですか?」

「それは、……殿下がこんな花束を用意して下さっていたとは思わなかったからよ」

「それは花束を頂いて嬉しかったからですか?」

「……」


 言われて気付く。


 昔もそして今も、確かにわたくしはアルバート王太子殿下から花束を頂いて嬉しいと思った。

 だけど、彼から身に覚えのないことを責められた挙げ句、婚約を解消したいと言われて涙が枯れるまで泣く程に傷ついた。リリアンの言葉を信じ、婚約者である自分の言葉を信じてもらえなかったことが辛かった。

 その一週間後にやっぱり婚約解消を無かったことにしたいと言われて、コロコロと変わる発言とその勝手な振るまいが許せなかった。


 だけど……


 アルバートはリリアンではなく、ベアトリスを優先してくれるようになった。最初はベアトリスの機嫌を取るための行動だと思っていた。でも、ここ数日のアルバートは過保護なまでにベアトリスの身を案じてくれる。


 必要以上に何かを恐れているようにも感じるが、行動の根本はベアトリスの身を案じてのことだ。何しろフランクに協力を求める程なのだから、アルバートは本気なのだ。


「……そうね、わたくしはアルバート様から花束を戴いて嬉しかったわ。何より、彼の瞳にわたくしが映っていることが嬉しいの。婚約解消のお話を聞いてから、何度も何度も殿下を好きでいることをやめようとしたわ。けれど、この想いを止められなかった」


 ベアトリスはアルバートが用意してくれた花束を見つめる。


「明日、アルバート様にお逢いしてちゃんと謝らなくてはいけないわね」


 呟いたベアトリスの表情は柔らかくなっていた。


「えぇ。そうなさるのがよろしいと思います」


 マリーナは、仕える主人の愛おしそうな表情を久しぶりに目にして、ベアトリスとアルバートの仲直りが上手くいくように願った。

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◇完結済みの連載作品はコチラ
悪役令嬢にされてしまった公爵令嬢は未来の旦那様を探す旅に出たい〜それなのに、婚約破棄だと言ってきた王太子殿下が止めてきます〜
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