100 兄と親友としての複雑な心境
アルバートが未来の出来事をベアトリスに打ち明けてから暫く経った頃、王立学園ではパーティーの準備が開始された。
生徒会メンバーは毎日のように昼休みや放課後に集まり、必要な物の手配や当日の催しと進行について議論を進めている。
アルバートは生徒会長として皆を纏め、フランクは広報としてパーティーの日取りを広めると共に、各々でパートナー探しや衣装の手配を進めるよう宣伝を開始した。
トレヴァーは書記として毎日のように記録を取り、マキシミリアンはパーティー関連の変更があればその都度、予算と向き合い計算をしていた。そんな二人をケイティとジェマは週にニ、三回放課後に手伝っている。
ベアトリスは相変わらず放課後は妃教育を行っている。暫く忙しくて、アルバートとは食堂でしか会えていなかった。だが、アルバートはベアトリスにパーティーで着るドレスを贈るために動いていた。
仕立て屋を手配し、採寸も済ませてある。後は完成を待つだけだが、それとは別にもう一つ贈り物の準備を進めていた。仕上がりはギリギリになる予定だが、パーティー当日には何とか間に合いそうだ。
慌ただしい日々の中、アルバートは隣でパーティー準備を進めるフランクを見てあの日、ベアトリスに言われたことを思い出していた。
『アルバート様に一応お伺いしますが、アルバート様はティルダ様の想い人をご存知ですわよね?』
アルバートはティルダに想い人がいること自体、全くの初耳だった。正直に答えると、ベアトリスがフランクだと教えてくれる。
『ですから、例え話だとしてもわたくしとフランク様をと仰るのは、二度とお止めください。ティルダ様が耳にされたら、変な誤解を生む可能性があります』
まさか、妹の想い人が親友だとは……と、アルバートは複雑な気持ちだった。
ベアトリスが言うには、このことはエルバートも知っているらしい。弟が知っているのに、兄である自分が知らないことに不甲斐なさを感じた。確かに、フランクは幼い頃は王城によく遊びに来ていたし、ティルダが好意を寄せても不思議ではない。
今の二人は禁書庫で何かあったらしく、微妙な距離らしいが、いつか妹がフランクと……という想像がアルバートはうまく出来なかった。
まぁ、どこの誰とも知らぬ貴族令息より、よく知る親友のフランクなら安心ではあるが。
フランク本人に聞いてみたいところだが、変に探って余計なことをしてしまえば、ティルダに怒られそうだ。そう考えて、アルバートは親友に何も聞けずにいた。
「アルバート、何か私に言いたいことでもあるのかい?」
フランクから急に問い掛けられて、アルバートは「えっ?」と声を漏らす。
「先程から君の視線が痛いんだよね」
図星を突かれたアルバートは「うっ」と小さく呻いた。フランクの勘の鋭さにアルバートは驚かされてばかりだ。
「いや、その……なんだ……今回、君には禁書庫での探し物に加えて、ティルダまで世話になったと思っただけだ」
そこまで言って、アルバートは“しまった! 余計なことを言ってしまった!”と後悔する。
「いいや。ティルダ王女殿下はちゃんと手伝って下さったよ。寧ろ世話になったのは私の方だ」
思わぬ返事が返ってきて、アルバートは静かに驚いた。
「……そうか。役に立ったならそれは良かった」
「ティルダ王女殿下はお元気か?」
「? 元気だが? 何故?」
「……元気なら良いんだ。だけど、最後にお会いしたときの様子が気になってね」
あの日、禁書庫の本棚で本を取ろうとしてバランスを崩したティルダ。彼女が掴んでいた本の側にあった本が数冊落ちそうになっているのを確認したフランクは、咄嗟に彼女を庇うように抱き抱えて蹲った。
フランクの読み通り、数冊の本が落ちてきたあと、ティルダは恥ずかしそうに真っ赤な顔でフランクを見ていた。そこへ物音を聞き付けたベアトリスが駆け付けたのだ。
『っ、……わたくし、ケイティ様たちの様子を見てきますわ!』
恥ずかしそうに下を向いて逃げるように出ていったティルダ。最初、フランクはそのことをあまり気にも止めていなかった。だが、一度その様子に疑問を持ってからというもの、段々ティルダの様子が気になってしまったのだ。
「……そんなに気になるのなら、顔を見に来てはどうだ?」
「え?」
「…………ティルダは、たぶんお前が訪ねて来たら喜ぶと思う。……昔も、私たちの後ろをよく着いて来ていただろう」
余計なことは言わないように意識していた筈のアルバートだったが、自然とそう口にしていた。
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