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剣の勇者  作者: 坂木陽介
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第七章 攻城戦

 兵数も兵糧も強化され、周が率いる曙王国と邑諸都市の連合軍は、邑の城塞都市を攻略すべく、街道を進軍した。

 野営地では、サムの魔法が衛生管理に役立った。狭い野営地で不潔なままだと、疫病の源にもなりかねない。かといって、水浴びに川に出たところで死者に遭ってはひとたまりもない。頭を悩ます周に、野営地の本営でサムが進言した。

「一〇〇名ほどの兵士を、一箇所に集めていただけますか?」

 周の命令一下、鎧の下着となる短衣をまとった兵が本営前に並んだ。誰もが首を傾げ、何が始まるのかと訝しんだ。サムは皆の前に進み出て魔法を用い、衣服にこびりつく塵芥を、杖の一振りで取り除いた。夕闇迫る刻ながら、衣服の色が変わるのが皆の目にもわかった。

「サム、これは、一体?」

 周の驚きに、サムは流暢な邑の言葉で返答した。

「私は風の魔法が得意です。服は、糸を編んだ物です。糸と糸の隙間に風を通せば、汚れも落ちるかもしれないと考えたので」

 周の号令で、部隊が交代で集められ、サムの魔法で汚れが落とされていった。これで水は飲水だけを気にすればよくなった。衛生面でも防衛面でも、頭痛の種が大幅に減った。

「礼を言うぞ、異国の魔法使い、ラッセル」

「恐縮です」

 サムが本営から出てくると、蔵人が待っていた。焚き火で顔を照らされた蔵人は、拍手で友を迎えた。

「やるじゃん。大活躍だな、サム」

 笑顔で友を迎えた蔵人に、サムは言った。

「蔵人の活躍に比べたら、まだまだだよ」

 蔵人は友の肩を抱きながら、

「よせよ、謙遜すんなって。それより、あれだけ魔法を行使して、魔法の種は減らないのか?」

 サムに疑問をぶつけた。サムは答えた。

「あの程度の魔法なら、種を消費するまでもない。厄介なのは、地や水の魔法かな?特に水は駄目だ。近くに川でも流れていないと、一〇〇人に効果の及ぶような魔法は使えない。元からある水を操る事はできても、水を出現させる事は無理だな」

「ふーん、なるほどな。風の魔法が得意って言うだけあるな」

 蔵人は感心して頷いた。

 二人並んで歩きながら、サムは話題を転じた。

「それより、明日はいよいよ最初の決戦だけど、準備は大丈夫か?」

 蔵人は渋い顔をした。

「それなんだよな。俺、平野での会戦や待伏せの経験はあるけど、攻城戦の経験はない。正直、不安しかない」

 サムは、

「でも、やるんだろ?」

 そう蔵人を焚き付けた。蔵人は力強い返答をした。

「ああ!やってやるさ。サム、お前も魔法での支援、よろしくな!」

「わかってるよ」

 二人は握り拳を軽くぶつけ合い、必勝を誓った。



 翌日、一刻ほど進軍して、邑の諸都市の一つを望む地点にたどり着いた。城壁に囲まれた都市は驚くほど静かで、一見すると、何事もないように見える。

 騎上の周は、同じく騎上のサムに尋ねた。蔵人とサムは、すっかり周司令官と共に行動するのが当たり前になっている。

「魔法で城壁の内部を透視できるか?」

 サムは、

「はい、この距離なら問題ありません」

 短く答え、一里余り先の都市内部を千里眼をもって盗み見た。そして報告した。

「死者たちは統率が取れています。簡単な城壁の修理もしてありますし、兵士は武装しています。また、数が多い。動きの遅い一般人の死者も含めれば、都市内には数千の死者がいます。」

 サムの報告に、終はさらに尋ねた。

「破損した城壁跡は乗り越えられるか?」

「一箇所、修理が不完全な所があります。しかし、周囲の兵数が多いです」

 サムのさらなる報告に、周は少し考え、サムに言った。

「魔法で兵士を城壁に登らせる事は可能か?」

「可能ですが、一度に一〇人、それに全部で一〇〇人を登らせるのが限界です」

 それを聞いた周の決断は早かった。背後に整列する兵たちに、声を大にして問うた。

「志願兵一〇〇名で、決死隊を組む!ラッセルの魔法で城壁を越え、内側から門を開けるのだ!我こそは、という勇士はいるか?」

 周の声に、居並ぶ兵士が逡巡する間もなく名乗り出たのは、蔵人であった。

「我が、その任を受けます!」

 そして、曙王国兵一〇〇の前に馬を走らせ、兵の前で演説した。

「誇り高き曙王国兵の諸君、貴君らに、我に続いて攻め入ってほしい!貴君らの中に、我を若輩者と軽んじる者がいる事も、今の戦いが、邑の諸都市の利益にしかなっていない事に、不満を持つ者がいる事も承知している。しかし、寝食を共にし、邑兵たちと交流を持つ者がいる事も知っている。

 また、たとえ初めは邑の利益にしかならなくとも、この戦いは邑諸都市連合に対する、大きな貸しとなる。借金が、返済期間が長いほど、返済額が大きくなるように、早くから貸しを作っておけば、後々邑の諸都市が我々に払う借りは一層大きくなる!

 兵士諸君、我に続いて戦い、その勇敢な姿をもって、邑の兵士たちに大きな貸しを作ってやろうではないか!」

 曙王国兵は皆が剣を高く掲げ、

「おぉー!」

と叫んだ。

 周司令官は、この若い勇者に、大いなる可能性を感じずにはいられなかった。

 なにはともあれ、これで決死隊一〇〇名は決まった事になる。あとは実行あるのみだった。



「ゆくぞ!皆の者!」

「おぉー!」

 周の号令一下、曙王国・邑諸都市の連合軍は城壁に向かって突撃した。歩兵たちは城壁に梯子をかけ、よじ登っていく。

 無論、これは陽動である。梯子を登る兵たちに隠れ、密かに城門前に曙兵一〇〇名が集結した。矢の届かない範囲からそれを確かめたサムは、魔法の種を一つ使い、蔵人ら最初の一〇人を城壁の上へ運んだ。

 蔵人は風に持ち上げられる不思議な体験をしつつ、城壁の上に届いたら叫んだ。

「一番手は、この結城蔵人が頂戴する!」

 そして、城壁の下へ矢を放っていた死者の弓兵の首を剣で払った。城壁に着地するのと同時に、弓兵の首が転がった。

 蔵人は自分に続く兵士に呼びかけた。戦の騒乱の中、大声で。

「死者は殺すのが手間だ!首を落とすか、両腕を落として無力化するのだ!」

「了解!」

 曙兵は続々と城壁上に上がり、周囲を制圧していった。やがて、城壁の上の手近な敵を掃討すると、蔵人は兵たちに言った。

「問題はこの後だ。城壁を下り、門を開けるぞ!」

「はっ!」

 城壁の上に、城門の両脇を下りる通路がある。その細い階段を下りて、城門の閂を外し、門を開けねばならない。

 蔵人は五〇名ずつ、部隊を二手に分け、階段を下った。階段は螺旋状で、前方の視界が利かない。突然弓兵に出くわす事もあったが、先頭を走る蔵人の剣技の前に、死者は伏していくばかりだった。後半は刃が鈍くなってきたのを感じたが、力技で死者の首をへし折っていった。

 二手に分かれていた部隊は、城門の内側で合流を果たした。幸い、これまで死者は出ていない。

 蔵人率いる五〇名で周りを固め、残り五〇名は、巨大な門の鉄製閂を、団結して押し開けていった。サムの報告通り、都市内の死者の数は半端でない。そして怨念だけで動いているのか、死の恐怖を全く見せずに突っ込んでくるのは脅威だ。しかし、そこは元は一般人だった死者と、訓練された兵士の差が出る。死者たちの振る舞いに慣れてきた曙兵は、接近してくる死者の群れを冷静に討ち取っていった。

 やがて、

「門が開くぞー!」

 兵士の叫びと共に、城門が開かれた。城門からは、周が率いる邑兵がなだれ込んできた。

「よし、これで戦は勝ったも同然――――」

 蔵人たち尖兵が味方を振り返った刹那、

「がっ……」

 悲劇は起こった。曙兵の一人が、矢で頭を射抜かれたのだ。蔵人が唸り声の主に顔を向けると、射抜かれた兵はゆっくり倒れ、地面で痙攣した。首に近い辺りに矢が刺さっており、即死である。

 蔵人は倒れた兵から目を転じ、二〇歩ほど先にいた弓兵に向かって駆けた。

「はあぁー!」

 そしてありったけの力で、弓兵の首に剣をぶち当てた。剣の切れ味こそ鈍っていたが、蔵人の渾身の一撃で、弓兵は皮一枚で首が繋がる状態となり、地に伏した。

 撃たれた兵の周りには、仲間が集まっていたが、戦はまだ終わっていない。

 蔵人は涙を堪えて叫んだ。

「まだ戦いは終わっていない!改めて構えなければ、次の死者が出るぞ」

 兵たちは仲間の遺体を路地の脇に置き、蔵人の号令で戦闘を再開した。



 半日に渡る戦闘の末に、都市内の死者は一掃された。数こそ死者が多かったが、大半は武器を持たない一般人である。死者特有のしぶとさはあるものの、完全武装の兵たちの敵ではなかった。

 しかし、不意討ちで戦死した兵も出た。一般人に紛れて剣や弓を持つ死者が襲ってきて、致命の攻撃を喰らった者がいたのだ。結局、連合軍全体で、一〇名余りが戦死した。

 夕闇が迫る頃合いに、周が兵たちの輪の中で宣言した。

「よくやった!皆、よく戦ってくれた!今こそ我らは、邑、曙王国の垣根を超えた、真の連合軍だ!」

 曙兵には、蔵人が演説した。

「周司令官は、我らも含め、邑との境を取り除いた、連合軍として戦果を褒め称えた!今後も我ら連合軍の力をもって、死者の乱を打ち倒そう!」

 連合軍は皆が、

「おぉー!」

と喚声を上げた。

 しかし、喜びの後には悲しみが待っていた。戦死者の埋葬である。最終的に、曙兵は二名が戦死した。

 周の配慮で、曙兵も邑兵も、城壁外に埋葬する事に決まった。遺体の数だけ櫓が組まれ、頂上に遺体を乗せ、火が点けられた。遺体が火葬されている間、兵士の中には友を失い、むせび泣く者もいた。遺体を燃やし尽くすにはかなりの時間を有したが、兵士の誰一人として、座る者はいなかった。やがて全てが燃え尽き、骨を土中へと埋葬を済ませると、兵士一同は黙祷を捧げた。

 黙祷後、周は皆に告げた。

「城壁の簡単な修理をして、三日間の休息を許す。皆、都市内に戻るぞ」

 兵士たちは列を成し、粛々と城門をくぐっていった。サムも戻ろうとしたが、不意に、蔵人がまだ墓碑の前に立っているのに気づいた。

 友に駆け寄り、

「蔵人?」

 そうサムは呼びかけた。蔵人は泣くのを堪えながら、震えていた。

「どうしたの?」

 自分より一回り大きい友に、サムは見上げる形で尋ねた。蔵人は切れ切れに言葉を発した。

「俺が、俺が指揮、したから、死なせた、んだよな……他の人が、指揮、してたら……指揮、してたら……この人たちは、死ななくて……死ななくて……」

 蔵人は、自分が軍を率いた事を悔いていた。そして、泣くのを堪えつつも、涙が頰を光らせていた。

 サムは言葉を選びながら、友を慰めた。

「それは違うよ、蔵人。蔵人は、今まで戦場で戦死する友軍兵士を見てきただろう?どんなに上手く指揮しても、戦死者をゼロにはできない。

 しかも今回は、数千の死者の群れの中に、先陣切って切り込んで、戦死者二人だ。蔵人以外の人に、これ以上犠牲の少ない指揮は不可能だ。だから、悔やまなくていいんだよ」

 サムは蔵人の背中を撫でるように叩いた。

 そこへ、

「皆、都市内に戻ったかー?城門を閉めるぞー!」

 城壁の上から、兵士の叫び声が響いた。サムは蔵人を促した。

「ほら、早く戻ろう」

 蔵人は、

「うん……」

 涙を拭い、友の後に続いて城壁内に急いだ。



 兵士は城壁の修理を終えると、街の中で羽根を伸ばした。死者の乱勃発から一〇日と経っていないが、人類初の勝利をものにした事になる。しかし、邑にはまだ四都市、曙王国には王都を中心に、死者が闊歩する様が続いている。今一度、作戦を練り、今後どうするかを決めねばならない。一般兵には休息が許されても、指揮官たちに休息は許されなかった。

 指揮官の詰め所と化した家屋では、各人の意見が紛糾し、収拾がつかなくなっていた。

「海沿いの都市から攻略し、粘り強く一都市ずつ落としていくべきだ!」

「いや、一気に中心たる邑を落とし、兵の士気を高めるべきだ!」

 各人の主張が行き来し、激論の様相を呈して収拾がつかない。卓上に広げられた地図を中心に、そこを取り囲む部隊長たちが様々な主張をぶつけ合っていた。司令官の周は卓から数歩離れた所で、椅子に座って黙っている。蔵人とサムも、卓からは離れた位置に並んで立っていた。白熱した議論は、やがて罵声混じりとなり、過熱されすぎていった。そこまできて、初めて周は立ち上がり、卓に近づいた。

「おいおい、落ち着け。議論を交わすのは悪い事じゃないが、罵倒が割り込んだら建設的じゃなくなる。皆、一度頭を冷やせ」

 日夜邑の言葉に触れているために、蔵人もだいぶ周たちの話の意味を聞き取れるようになってきた。

 周は蔵人たちに呼びかけた。

「結城、ラッセル、お前たちも議論に加わったらどうだ?突っ立ってばかりでは、ここにいる意味がない」

「はっ!」

 蔵人が短く応答し、サムと二人で卓の傍まで来た。蔵人はサムに小声で言った。

「第五の魔法使いの話、しておいてもいいんじゃないか?それと、魔力の力線探知の結果も」

「そうだね。

 では、皆様、今回の死者の乱について、魔法使いだけに口伝されてきた事実を、説明致します」

 サムは先日蔵人にしたのと同じ説明を、皆の前で繰り返した。皆、四大魔法使いの伝説は知っていても、第五の魔法使いの事はやはり初耳だったようである。

「五番目の魔法使いだと……」

「そんな事が……」

 皆、眉をひそめて沈黙した。自分たちが信じていた歴史の起点が、根底から揺らいだのだ。人として、無理からぬ反応である。

 静寂に包まれた会議で、蔵人は言った。

「皆さんに、さらにラッセルから報告しなければなりません」

 蔵人はサムを促した。サムは話した。

「それを踏まえた上で、説明する事があります。

 魔法使いは、魔力の力線を操って魔法を使います。魔力の線、魔力を送る筒のようなものが、この都市から、諸都市連合の中心都市の邑へと繋がっているのです」

 サムの報告に、皆はざわめいた。

「では、邑を落とせば、この乱は治まるのか?」

 指揮官一人の質問に、サムは言葉を濁した。

「それは……わかりません。しかし、その線は、他の諸都市にも繋がっているようです。仮にその源を潰す事で死者を滅ぼせずとも、統率の取れた動きはできなくなるでしょう」

 サムが言うと、周は告げた。

「よし、その報告に乗るぞ。どのみち、今率いている兵力で、全都市を落とすのは難しい。これは、賭けにでも出ない限り勝ち目のない戦だ」

「司令官!」

「それでは?」

 指揮官たちの問いかけに、周は声を響かせた。

「全軍に通達。第一部隊をこの都市の守備に残し、他の全軍で邑を落とす!」

 作戦は決まった。会議が終わると、退出しようとする蔵人とサムに、周が近づき、話しかけた。



 


この物語はフィクションです。実在する人物、団体、事件等とは関係ありません。


最後まで御読みくださりありがとうございます。

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