表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の勇者  作者: 坂木陽介
55/65

第五五章 祝賀会

「勇者だ!」

「勇者様御一行よ!」

 ボスラに帰還した蔵人一行を、道行く人々が讃えた。蔵人は片手で手綱を持ちながら馬を徐行させ、もう片方の手で獅子の首を掲げた。紛れもなく、ボスラの街を悩ませた魔物の首である。実際に目撃した人は少数でも、獅子の体に翼を持ち、毒蛇の尾の怪物という話を聞いていた者は多い。

 死者の乱が起きてそろそろ一年が経とうという頃合いである。死者だけでなく魔物も人々を困らせる中で、久しぶりに明るい報せが届き、町人たちは歓喜した。

 街中の道路を凱旋し、蔵人一行は馬で街の広場へと向かった。そこでは総督ルテフェも待っていた。

 蔵人一行は総督の前で馬から降り、マンティコアの首を捧げた。

 蔵人が言った。

「魔物の首にございます。広場にでも晒して、街の方々を安心させてください」

 跪いた一行に、ルテフェは声をかけた。

「立たれよ、勇者一行よ」

 蔵人たちは顔を見合わせつつも、立ち上がった。大勢の群衆を前に、蔵人からマンティコアの首を受け取った総督は、首を高々と掲げ、声を張り上げた。

「見よ!諸君!勇者一行によって、我らが街の脅威は再び討たれた!これは偉大な成果である!この者たちにこそ、一騎当千の強者という言葉が相応しい!

 勇者一行にはこの街に永住してほしいくらいだが、彼らは流浪の旅を続けると公言している!我も無念だが、引き留める事は叶わない!

 代わりにと言ってはなんだが、本日只今より、街を上げての祝賀会を開きたいと思う!我らの総力で、この勇者たち四名を讃えようではないか!」

 群衆は歓声をもって、総督の言葉に応じた。蔵人は小声で、総督に耳打ちした。

「閣下、我らが仕官を断る事を、申し出てはいないはずですが」

 総督は小声で応じた。

「なに、聞かずとも、それくらいはわかろうというものだ。実際、我が軍に誘ったところで、そなたたちは頷くまい?」

 四名は揃って頷いた。総督は残念そうな顔で応えた。

「そなたたちは遥かな旅路の果てに、ここまで来たのだろう?恐らく、仕官の話を持ちかけられてきたはずだ。それなのに流浪の身を選んだという事は、勧誘しても無駄と思ったからよ」

 蔵人は言った。

「申し訳ありません」

 しかし、ルテフェは笑顔で言った。

「謝らないでほしい。総督府付きの料理人に調理させた物を出すから、気にせずたっぷり味わってくれ。

 ただ、一つ頼みがあるとすれば、私と友情の契りを結んで欲しい。この街を旅立ったら、二度と出会えぬかもしれないが、そなたたちとは個人的にこの出会いを記念したいのだ。どうか私の願いを聞き入れてはくれまいか?」

 ルテフェの丁寧な言葉遣いに、蔵人は応えた。

「ありがとうございます、閣下」

 しかし、ルテフェは蔵人の言葉に注文を付けた。

「ええい、余計だ、総督だの閣下だの、そんな勿体ぶった呼び方はやめてほしい。ルテフェ、と名前呼びで頼む」

 蔵人は仲間たちを振り返った。皆が頷くのを確認すると、蔵人はルテフェに向かって言った。

「わかりました、ルテフェ殿。我らは、これより友となります。再び会えるかはわかりませんが、せめてこの街にいる間は、我らの友誼は確かなものと致しましょう」



 その後、街中がお祭り騒ぎになり、皆は別々に行動した。サムはすっかり忘れていた、ガウロン帝国への書状をしたためるべく、総督府の一室に籠もった。皆の馬は総督府の従者が手綱を持って連れていった。三名は料理にありついたり、町人から質問攻めに遭ったりと、お祭り騒ぎの中心になっていた。町人同士も踊りあったり酒を飲んだり、各々が楽しんでいた。

 蔵人は卓上に並べられた料理の中に、信じ難い一品を発見した。

「何だ、これ?メロンの上に、ハムが載ってるのか……?」

 フォークやスプーンといった食器類は用意されていたものの、蔵人は料理を一切れ取ると、直にかぶりついた。

「おおっ!こりゃ、美味い!」

 すっかり料理に夢中の蔵人に、しなだれかかる若い女性が一名。

 蔵人は料理を置くと、手と口元を拭いてから女性を支えた。

「大丈夫ですか?どうかしましたか?」

 女性は演技をした。しかし蔵人は、女性が演技をしているとはわからない。

「あぁ、勇者様、ごめんなさい。少し、飲み過ぎて酔っちゃったみたいなの」

 女性は蔵人の右腕を、自分の体に密着させた。腕部に防具を着けていない蔵人には、腕を通して、女性の柔い乳房の感触が伝わってきた。柔肌に酩酊して、蔵人がどぎまぎしていると、左腕にも絡みつく女性が一人。

「ああ、勇者様ぁ……私も酔っちゃったぁ」

 さすがにこの段になると、女性が両名とも誘っているのに気づいていた。両方の女性の柔肌に、蔵人はすっかり参って、羞恥から赤面していた。

「じゃ、じゃあ、あの……人気のない所に行きますか?」

 思い切って、しどろもどろに言うと、二名の女性は、

「賛成」

と、唱和した。

 蔵人が両手に花の状態で歩くと、他者より頭一つ背の高いため、やたら目立つ。

「ねぇねぇ、あれ、勇者様よ」

「滅茶イケメンじゃん!わたしたちも行こう」

 女性たちが蔵人にたかり、蔵人は前にも後ろにも動けないほどになった。両手に花どころか、花畑の中の蜂一匹といった体である。

 他方、遜は一人一人女性を口説いていた。そして口説くのに成功すると、人気のない所に行き、広場に戻ってくるのを繰り返していた。

 エイシャは男性陣のふしだらな行いに、眉をひそめていた。

「全く、蔵人も遜も、こういう面はだらしがありませんわ」

 しかし、兜を外したエイシャの美貌も、放っておかれるわけがない。エイシャが卓上の料理を頬張っていると、転ぶふりをしてエイシャの胸を一人の男性が触ってきた。

「おっとっと……ごめんよ」

 わざとらしく謝る中年の男に、エイシャは絶叫と共に平手打ちを放った。

「きゃあああ!」

 男はエイシャの一撃に、二回転して地面に倒れ伏した。命に別状はないものの、痙攣しながら、

「あぁ……お星様が……女神様が……見える」

と、意味不明の呟きをしていた。

「あ、ご、ごめんなさい。今回復魔法をかけますわ」

 回復魔法をかけている間に、エイシャに殺到していた人だかりは解散していた。あの一撃を食らったら、という恐怖心が原因である。

 しかし、回復魔法をかけ終え、立ち上がったエイシャの手を取る男が一人。

「申し訳ありません。勇者御一行様の花に、とんだご無礼を。同じ街の住人として、お詫び申し上げます」

 蔵人以上の美形男性が、エイシャの手を取って跪いていた。これにはエイシャも一瞬言葉を失った。

「祝いの席です。一緒にお酒でも飲めると幸いですが」

 ときめいたエイシャだったが勢いよく首を横に振り、邪念を払った。

「す、すみません。私はイアグ神という神に仕える身。男性にこの身を捧げるわけにはいかないのです」

 男性の手を残念に思いながら払ったエイシャは、唐突に唇を重ねられた。驚いている間に、相手はエイシャから一歩離れ、

「じゃあ、女同士だったらどうなのさ?」

 エイシャが冷静になると、美貌と美しい肉体を兼ね備えた三名の女が立っていた。かつて、エイシャが仕えていたイアグ神の修道院では、性別は厳格に分けられていた。しかし同性同士で肉体関係を持つのは咎められず、エイシャ自身も経験があった。

 赤い顔をして、俯いて相手の顔も禄に見られない中で、

「それなら、その……アリです」

 エイシャは小声でそう言った。

 こうして、サム以外の三名は、昼間から肉欲の宴に精を出した。



 書状をしたため終えて、総督府から杖をついて出てきたサムは、たちまち美女たちに囲まれた。

「かわいい〜!」

「ねぇ、坊や。アタシたちとイイ事しない?」

「損はさせないわよ」

 性行為を嫌うサムは、大仰にため息をついて魔法を発現させた。風魔法の応用で姿を隠し、宙に舞った。女たちが驚いている間に、サムは空高く舞い上がり、総督府宮殿の屋根の上に着地していた。時刻は正午を過ぎた頃だろう。日が高く昇っていた。

 にもかかわらず、サムが魔法で仲間たちの様子を探ると、三名とも性交に精を出しているのがわかった。エイシャまで同性と交わっているのには、サムも驚愕したが、同性の園で同性愛が蔓延する話はよく聞くので、冷静になって呟いた。

「三名とも、お盛んなご様子で」

 蔵人などは多数の美女相手に性交していたのか、全裸で安宿のベッドに背臥位し、何名もの女に同時に責められていた。唇を重ねられ、乳首を舐められ、股に舌を絡められている。

「も、もう無理……」

 弱々しく言う蔵人に、女たちからは、

「あら、あたしの順番がまだです」

「次はわたしとでしょう?」

「勇者様ったら、こっちはまだまだ元気そうですわよ?」

と、次々に発破をかけられた。ベッド周りどころか、宿の外まで行列ができている始末である。

 蔵人は朦朧とする意識の中で、

「サム、助けて……」

と、力ない声を上げた。サムはため息をついて、風魔法を駆使して服と一緒に不可視した後、自分の隣まで運んできた。

「はい、お疲れ様。だいぶお盛んだったご様子で」

 屋根に横たわる蔵人は、ゆっくりと上半身を起こして、サムに言った。

「助かったよ、サム。もう女たちにもみくちゃにされて、何人としたのか覚えてない」

 サムは皮肉混じりに、

「随分とお楽しみでしたね」

 そう言った。蔵人は苦い表情で、

「そう言わないでくれ。両手に花のうちはいいが、花園の蜂と化すと、無理があるな。当分女はいい」

 大きくため息をついた。サムは魔法で蔵人の服や剣に付いた汚れを落とし、一つ一つ蔵人に渡した。

 身支度を整え、着剣した蔵人は、生まれ変わったような心境だった。

 蔵人はサムに尋ねた。

「書状は書き終えて、城外に出たんだろ?サムは女たちに言い寄られなかったのか?」

 サムは答えた。

「宮殿を出てすぐ、女性に囲まれたよ。面倒なんで姿を消して、ここに来たってわけさ。

 しかし、三名とも随分楽しんでたね」

 その言葉に、蔵人は遜やエイシャを思い起こした。しかし、エイシャまで肉欲の虜となっているのは意外だった。

「遜はともかく、エイシャは禁欲的な修道院育ちじゃないのか?」

 サムは答えた。

「同性ばかりの環境だと、恋愛感情が異性でなく同性に向くからね。修道院内で、女同士のそういう行為は経験済みだったみたいだよ」

「なるほど。そういう事情があるのか」

 蔵人は頷いたが、一つ付け加えた。

「しかし、俺らを祝ってくれているんだろうけど、すっかり宴には混じれなくなったな」

 苦笑する蔵人の言葉に、サムも苦笑を返した。



 宴は夕方になっても、一層盛んになり、熱気をより強く帯びてきた。

 宮殿の屋根で、相変わらず蔵人とサムは宴の模様を見下ろしていた。遜もエイシャも、女に言い寄られてヘトヘトになっているのがわかった。サムは魔法で建物内まで探知できたし、蔵人は抜群の視力で、建物外に出てきては中に連れ戻される二名を観察していた。

「平和だな」

 不意に、なんら意識もせず、蔵人の口から言葉が出た。サムは隣の友に尋ねた。

「どうしたのさ、急に?」

 蔵人は不意に出た言葉だったため、何の考えもなかった。そのせいで、説明に苦労した。

「いや、その……特に何か考えがあって言ったわけじゃないんだけど……こうして普通の人たちが喜んでいるのを見ていると、平和が実感できてさ」

 蔵人自身、困惑して、答えになっていないのは理解していた。しかし、他に言い様が思いつかなかった。

 サムは笑顔で蔵人に言った。

「この平和を作ったのが、蔵人なんだよ」

 蔵人は目を丸くして友へと向いた。そして言った。

「俺だけの力じゃない。仲間が四名揃って、初めて実現できた平和さ」

 サムはさらに笑った。蔵人は不服そうに、

「なんだよ?変な事言ったか、俺?」

 そう答えた。サムは説明した。

「確かに、死者や魔物を倒すには、四名全員の力が必要だった。でも、僕らは蔵人の人柄・価値観に惹かれて、冒険を共にしているんだ。

 全ては蔵人、君が一人欠けただけで成り立たなくなるんだよ」

 友の言葉に、蔵人は自分の両手を見下ろした。

「俺一人が欠けたら――――なんか、褒められているのはわかるけど、そこまでベタ褒めされると実感が湧かないな」

 蔵人は自然と笑った。サムも笑顔だった。

「それで良いと思う。蔵人は、今まで通り、自然体で戦っていけば、僕らはついていくさ。そのままの蔵人が、一番だ」

 蔵人は、やはり友の言葉の理屈を完璧には理解できなかった。しかし、その想いは完全に伝わった。

「それなら、わかった!一所懸命に、頑張っていくよ」

 沈む夕日は、空を赤く染めていた。この地域でも同じかはわからないが、夕焼け空は、蔵人の故郷では翌日も晴れる事を示していた。

 世界中の人々が、安心して夕焼け空を見上げられる世の中にしたい。不安に怯えず、夕焼け空を見上げられるようにしたい。それが蔵人の純粋な思いだった。

 蔵人は提案した。

「日が暮れたら、ここは真っ暗だ。かといって、宴に混じったら碌な事にならない。宮殿内に入っておこう、サム」

 サムは頷いた。

「わかった、蔵人」

 二人はサムの魔法で宙に浮き、宮殿の窓の戸を開けて、内部へと滑り込んだ。そして、与えられた個室を目指して宮殿内を歩いていった。


この物語はフィクションです。実在する人物、団体、事件等とは関係ありません。


最後までお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマーク、Xのフォロー、他サイトの記事閲覧、Kindle書籍の購入等々していただけると一層の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ