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剣の勇者  作者: 坂木陽介
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第五三章 迷宮攻略

 三日間の死者掃討で、ボスラ近郊の区域はかなり安全になった。ルテフェやカーンからも厚く礼を言われ、蔵人一行は次なる仕事に取りかかった。迷宮の魔物退治である。

 快復したエイシャと共に、蔵人一行四名は馬で迷宮に向かった。途中、馬を休めるために水場で少しばかり休息を取った際、遜は意地悪く言った。

「女ってのも大変だな。そんなんで兵士として働けていたのか?」

 エイシャは軽くあしらった。

「少なくとも、全力を出した時の力なら、スンより余程役立てていましたわね」

 エイシャの余裕の笑みに、

「あー、はいはい、そうですか」

 ふてくされて遜はそれ以上何も言わなかった。この一行で、最も戦力として低いのは、自分だという意識もあったのだろう。エイシャが女性特有の苦しみを持つのに対し、遜は年齢からくる衰えを感じつつあった。

 馬で駆ける事半日、蔵人一行は再度魔物が巣食うという迷宮に到着した。

 馬は入口近くに並べ、エイシャの神聖魔法による結界で守りを固めた。

「これで魔王の手の者、死者も含めて、悪しき存在には感知されませんわ」

 蔵人は言った。

「これで良しと。でも、手綱をどこかに繋いでおくような真似はしないでおこう。万一襲われた際に、少しでも逃げられる可能性が高くなるように」

 エイシャは蔵人の言葉に、不満げに、

「私の神聖魔法の効果を疑うんですの?」

 そう反論した。しかし蔵人は冷静に、

「いや、魔物が他にもいた場合など、万一の可能性は捨て切れないからね。助かる命が落ちるのは、悲しい」

 蔵人の言葉に、エイシャは閉口した。蔵人が、とても深い悲しみを湛えた目をしたからだ。しかし、蔵人は剣を抜き、高々と掲げて宣言した。

「我ら一行は、太古に造られた迷宮に潜む、魔物の退治に挑む!この剣、我が命に続く者は、鬨の声をもって応え給え」

 蔵人の一声に、仲間三名は唱和して応えた。

「おおー!」

 蔵人は剣を鞘に戻し、先陣を切って迷宮内に足を踏み入れた。仲間たちもそれに続く形で、迷宮攻略は始まった。



「LUX!」

 サムが唱えて出来た光球を明かりにして、蔵人一行は迷宮の中を進んでいった。王墓や地下道のような、広大な地下迷宮に入るのは全員初めてである。

「薄気味悪いな……生き物の気配のしない暗闇っていうのも、嫌な感じだ」

 歩きながらそうこぼした遜に、エイシャは言った。

「あら、スンたら、早くも怖気づいたのですか?」

 嫌味たっぷりのエイシャの言葉だが、遜に次のように言われて沈黙した。

「じゃあ聞き返すが、この妙な暗闇の気配、迷宮の不気味さを、お前は感じてないのか?」

「それは……」

 会話を聞いていた、蔵人も内心ではわずかな恐怖感があった。しかし、それ以上に感じている事があった。

「蔵人、楽しんでる?」

 友の言葉に、蔵人は苦笑して答えた。

「わかるか?誰も踏破した事のない道を攻略するって考えると、ちょっとわくわくするんだ」

 笑顔さえ浮かべる蔵人に、他三名は言葉がなかった。しばらく皆が沈黙しながら歩いた後、遜が、

「まあ、統率者がやる気なのはいい事だけどな」

と、肩をすくめた。

 歩きながら、蔵人はサムに尋ねた。

「サム、この迷宮の構造は、把握できているのか?」

 サムは自信を持って答えた。

「勿論!この前来た時に把握しているよ。何千年も遺そうという意図から、簡単な罠があちこちにある」

 そこへ、エイシャが口を挟んだ。

「でも、罠だらけの迷宮では、魔物も住処にするのに不自由するんじゃありません?」

 サムは言う。

「そこは魔物ってだけあって、魔力や翼で床や壁に触れる事なく、外に出られるみたいだよ。そして、魔物は僕ら侵入者に気づいている。巨体で動き回るのに最適な、最奥の広間で僕らを待ち構えているみたいだ」

 遜がそれを聞いて言った。

「じゃあ、おれらを手ぐすね引いて待っているわけか。自分のねぐらまで、侵入できる食物かどうか、品定めの最中なのかよ。――――ん?」

「あ、この辺の左の壁は、罠の引き金になっているから、触らないでね」

 遜は言いにくそうに、

「すまん……もう押しちまった……」

 皆に謝罪した。下降している坂道の上、蔵人一行が通ってきた道から、轟音が響いた。球体の巨石が、四名目がけて転がってきた。しかも、

「巨石は二個連続で転がってきてる!」

 というサムの探知結果が出た。エイシャが遜の不注意を責めるより早く、蔵人が指示を出した。

「エイシャ!俺と俺の剣に神聖魔法の加護を!エイシャは自分に加護をかけて、一番目の石を砕いてくれ!」

 エイシャは蔵人の剣と肉体に強化の神聖魔法をかけた。また、自分には蔵人に言われる前に、既に神聖魔法の加護をかけていた。

「では――――はっ!」

 エイシャはひとっ飛びして、一番目の巨石に肉薄し、思い切り拳を叩きつけた。巨石は粉々に砕かれたが、まだもう一つ、巨石は残っている。

 だが、蔵人が巨石を目がけて跳躍した。そして神聖魔法のかかった剣を一振りし、巨石を叩き割った。

 二個の巨石は細かな破片となり、蔵人一行は安心する事ができた。

 サムが目を丸くして言った。

「流石だね。神聖魔法の加護とはいえ、あの巨石を、それぞれ一撃で砕くとは。僕が破壊しようと思ったら、天井まで砕いて岩盤崩落を起こしかねない」

 しかし、エイシャはこの困難の原因となった張本人を追及した。

「スン?サムの注意を聞いて、用心しながら進んでいただきたいですわね」

「はい、すいませんでした」

 歳の差が逆転したかのように、遜は素直に謝った。



 だが、次はエイシャが謝る番だった。

「迷宮の構造を把握しているサムが先頭でないと、皆が罠にかかる可能性がある」

 以上のような蔵人の言葉に皆賛成し、サムより半歩以上下がって、皆注意しながら進んだ。

 また、罠の存在についても、蔵人はサムに尋ねた。

「何百年も昔に造られた罠が、今でも機能するものなのか?」

 サムの答えは明瞭だった。

「するよ。特殊な魔法などを用いなくてもね。要は、ちょっと押したり引いたりするだけで作動する、簡単な仕掛けにしておけばいいんだ。さっき遜が作動させた罠も、単に壁を押せばいいだけの簡単な仕掛けだ。そういう簡単な罠を張り巡らせておけば、人の寄り付かない迷宮が完成する」

 エイシャが、

「で、そんな人の寄り付かない迷宮を、魔王が創った魔物やキメラが根城としているわけですか」

 そう付け加えた。サムは頷いた。

「そうだね。魔物や合成獣――キメラ――は異常なまでの危機感知能力を持つ。この先に待つ魔物も、この魔王から与えられた魔力で、翼を用いず浮遊し、迷宮の外に出ては人を食らっていたんだろう。

 死者といい魔物といい、よくもまあ生者を標的にしたものだと思うよ」

 遜が言った。

「人間、いつか死ぬから、今日の飯を有難がるもんだと思うけどなぁ」

 エイシャは皮肉を言う。

「あら、スンにしては、良い事言いますわね。我が神イアグも、人に寿命を設けて、その中で出来る事を成すように示されたとか。

 女遊びを止めるなら、いつでも入信の儀を執り行いますわよ?」

 遜は首を横に振った。

「世界の女たちがおれを待ってるんだ。そんな真似はできないな」

 雑談しながら歩いていた一行だが、サムが歩みを止めると、全員が立ち止まり、緊張状態を取った。

「何がある?」

 蔵人がサムに問いかけ、サムは答えた。

「この先の床、中央部がかなり薄い造りなんだ。で、床の下は空洞になっている。落とし穴としか思えないけど……」

 エイシャは反論した。

「でも、薄い造りとはいえ、落とし穴にしては、煉瓦造りで堅固な風に見えますけど?」

 エイシャはサムより先に進み出て、手応えがないのを確認して言った。

「ほら、落とし穴というより、そういう造りなんだと――――」

 しかしエイシャが五、六步進んだ所で、床は崩れた。

「エイシャ!」

 サムは咄嗟に風魔法を行使した。間に合ったかはわからないが、エイシャに空中浮遊の魔法をかけたのだ。

 煉瓦が崩れた事で起こった土煙が収まると、崩落した箇所ぎりぎりまで進み、他の三名はエイシャの無事を確認した。

「エイシャ!無事か?」

 蔵人の大声に、一〇尺以上落下したエイシャが応える。

「ええ、なんとか」

 エイシャが落下した箇所には、床から幾本もの針が設置されていた。

「反射的に神聖魔法で防護したので、串刺しは回避できましたわ。サムの魔法のおかげで、落下の衝撃も全くありませんでした」

 道の途中に大穴が空いてしまったが、サムは穴の対岸にエイシャを浮遊させ、着地させた。遜、そして自分と蔵人にも空中浮遊の魔法をかけ、穴を越えた。

 穴の罠をかろうじて無事に越えた一行だが、遜は先ほどの意趣返しで、エイシャに訓示を垂れた。

「この迷宮は、侵入者対策で無駄なく罠を張り巡らせてあるんだ。特殊な構造があったら、罠だと思って慎重に進めよ?」

「はい、申し訳ありません……」

 蔵人とサムは、先の光景と逆転した現況を見て、苦笑していた。



 その後は慎重を重ね、用心して進んだため、迷宮の罠にはかからずに済んだ。迷宮に入ってかれこれ半刻近く経つ頃、

「もうすぐ、魔物の居る最深部だ」

と、歩きながらサムは告げた。

「いよいよか……」

「用心しないといけませんわね」

 遜、エイシャが続けて言った。

 長い真っ直ぐな通路を進むと、真正面に大扉一つ、右手の壁に小さな扉が一つあった。

「大扉の向こうに、魔物がいる。翼を生やした獅子、マンティコアなんて呼ばれる合成獣だ」

 サムは真剣な目で言った。すると、蔵人は疑問を口にした。

「なあ、サム。それならこっちの扉は?」

 通路右手の壁に、人が一人ずつ入れるほどの小さな扉がある。

 サムは首を傾げ、

「罠は無さそうだから、入ってみようか?」

 そう言って、サムを先頭にぞろぞろと入室した。

 サムの光魔法を頼りに、一行は部屋の中を見渡した。一辺二〇歩ほどの四角い部屋で、中心には大きな木箱が一つ。一見、何もない部屋のようである。

「なんだ?何かあるわけじゃないのか」

 蔵人の落胆とは対照的に、サムは木箱に魅了されて近づいた。

「サム?」

 蔵人の言葉も、サムには効き目がない。サムはぶつぶつ呟きながら、箱に近づいていった。

「あー、駄目だ。九割方ミミックだってわかっているのに……わかっているのに開けたい……」

 サムの出した単語に反応したのは、エイシャだった。

「ミミックって、大箱や大瓶に化けて、人間を丸飲みするとされる、あのミミックですか?数百年前に、貴重品を泥棒から守るために、人間が創り出した魔物でしたわよね?」

 それを聞いて、蔵人はサムを羽交い締めにして取り押さえた。

「落ち着け!魔道書は、サムの師匠の家にたくさんあったろ?」

 小柄な身長とは思えない力を発揮し、サムは蔵人に押さえつけられながらも、徐々に木箱に近づいた。

「知識の、探究は、人類共通の、欲望。もしかしたら、あの中には、失われた知識が、眠っているかも――――」

 サムが手を思い切り伸ばし、木箱の蓋に手が触れた瞬間、箱が大口を開いた。無数の牙を剥き、サムの頭を内へと引きずり込んだ。

「サム!」

 蔵人は、サムが負傷したのではと思い、サムを手前に引っ張った。しかしサムは、

「あった……魔物の歴史……四大魔法暦元年から五〇〇年までの系譜……」

と、稀代の歴史書を手にした喜びの声を上げた。

 蔵人がよくよく観察すると、牙は先が尖っておらず、あくまで侵入者を逃さぬ仕掛けになっているだけだった。

 蔵人はサムを引っ張って抜こうとしながら尋ねた。

「おい、サム!どうやっても抜けそうにないぞ!しかも力を抜くと、サムが丸飲みにされそうだ」

 力ないサムの返事がした。

「ミミック自体は、強い魔物じゃないから、蔵人の、剣技でたたっ斬れば、倒せる、はず」

 蔵人は遜を呼んだ。

「遜、ちょっと来て、サムがこれ以上飲み込まれないよう引っ張っていてくれ」

「あいよ。――――うおっ、結構強い力で引っ張っていたんだな」

 蔵人は役目を交代すると、ミミックから二、三歩下がり、抜剣した。そして、長い呼吸の後、

「はっ!」

 サムの身体にかろうじて触れない部分を、一息で駆け抜けながら切断した。

 数百年、魔物としての形を保ち、魔道書を守ってきたミミックは、砂のように崩れ、果てた。

「やった!珍しい古書が手に入ったぞ」

 戒めを解かれ、喜ぶサムを蔵人は見下ろして言った。

「サム、何か言う事あるよな?」

 蔵人に気圧され、サムは真面目な顔つきになり、

「ごめんなさい」

と、頭を垂れて謝罪した。また、蔵人は全員に言った。

「皆、油断しすぎだぞ。俺たちは時折迷宮外に出ては人を食らう魔物討伐でここに来た。そしてここは侵入者を防ぐ仕掛けの施された王墓。もっと注意してほしい」

 皆、言葉がなかった。


この物語はフィクションです。実在する人物、団体、事件等とは関係ありません。


最後までお読みくださりありがとうございます。

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