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剣の勇者  作者: 坂木陽介
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第四五章 カリスマ

 サムとエイシャが眠る宿に、蔵人と遜は朝帰りした。既にサムもエイシャも起床していた。

 エイシャは蔵人と遜が戻ってきても、顔を背けて言葉を交わそうとはしなかった。蔵人は複雑な心境だったが、友は笑顔で迎えてくれた。

「おかえり」

 その一言で、悩みも苦しみも消え去った。

「おう、ただいま」

 二人は相手の掌を軽く叩き合った。

 遜はその様子を見ながら、

「若い友情はいいねえ」

 そう小声でボヤいた。しかし、エイシャはそれを聞き逃さなかった。

「蔵人も遜も、不潔ですわ。金で女性と関係を持つなんて、はしたない」

 蔵人にも聞こえる声量だったが、サムに変わらず迎えられた事で、蔵人は自信を得ていた。

「まあ、女性からしたら、そう見えても仕方ないよね。でも、お金を払ってでも、性的に女性と繋がりたいという男の欲望を、無下に否定しないでほしいな。在り方は違えど、同じ人間同士なんだから」

 エイシャは仏頂面をしながらも、反論できずに蔵人を睨んだ。

 そこへ、これ以上緊張状態が続かないよう、遜が大声で言った。

「はい、対立はここまでだ!サム!今日はどうする?ガウロン皇帝に謁見でも申し出るか?」

 サムはゆっくり、物事を整理しながら言った。

「そうだね……皇帝に、会っておこうか。マウリーア皇帝の書状を持っていながら、ガウロン皇帝に謁見を申し出ないのも、不平等だからね。

 それに、オレニア大陸に渡る手段も都合してくれるかもしれない。まだ交易が途絶えてなければ、船でオレニアに渡れる」

 サムの言に、エイシャが疑義を挟んだ。

「でも、そろそろ冬ですけど、船は出てますの?」

 サムは答えた。

「ガウロン帝国は一年中暑いから、季節はそこまで心配しなくて大丈夫。ただ、この辺は冬に時化る可能性が高いから、急いだ方がいいな」

 サムの言葉を受けて、蔵人は皆に告げた。

「よし、巡幸中のガウロン皇帝に謁見を申し出て、船を都合してもらおう!それが上手くいけば、いよいよ次の大陸、オレニアへ向かおう!皆、準備してくれ」

 蔵人の号令がかかり、四名全員は着剣や武装といった身支度を整え、皇帝に会うべく宿を出た。

 時刻は朝、やっと商店が開店し始めたばかりの頃合いである。装備を改めて宿を出ると、朝の空気が新鮮であった。

 蔵人一行は皇帝に謁見を願い出るべく、この都市の総督府へと向かった。皇帝が安全に帝国内を回れるのは、国が安定している証左である。

 蔵人は名君に会えるとの希望から、知らず笑みを浮かべていた。



 総督府宮殿前にて、サムはまたも大仰な、芝居がかった問答を衛兵と繰り広げた。

 サムにマウリーア皇帝の通行手形を見せられた衛兵は、

「し、しばし待たれよ。上に取り次ぐ」

と言って宮殿内へと駆け込んだ。

 サムが嬉々としているのを見て、蔵人は言った。

「サム、楽しんで、わざとやっているな?」

 サムは書状をしまってから、

「わかる?」

 そう満面の笑みで答えた。

 遜は肩をすくめて、先ほどのサムの口上を再現した。

「我らはマウリーア皇帝に、その活躍を認められし者。ガウロン皇帝陛下とマウリーア皇帝が親密なのは、周知の事実。その我らをどう遇するべきかは、自ずとわかろうもの。

 ……って、よくもまああそこまで上から目線で言えたもんだ」

 蔵人と遜は辟易したが、エイシャは違った。

「あら、手に入れた権利権力は、正しく使うべきですわ。サムが上から目線で皇帝に文句を言ったら問題ですが、使い走りの衛兵には、あれくらいじゃないと舐められますわよ」

 蔵人と遜は、平然としているエイシャの言葉に耳を疑った。蔵人はサムに、

「そういうものなのか?」

 そう尋ねた。サムは二名の文化圏の事を念頭に答えた。

「まあ、僕の言い方がお芝居なのは事実だよ。でも、エイシャが言うように、色々な文化がせめぎ合うこの大陸では、大げさ過ぎるくらいに自分の権利を主張しないとやっていけないんだ。

 エセックシアでの討論による統治は、その最たる一例だ。

 二人の文化圏では、あんまり自分が、自分が、というように権利を主張するのはおこがましいとする風潮だったから、違いに戸惑うのは無理がないかもね」

 サムの説明に頷く、蔵人と遜。エイシャはそれに驚いていた。

「自分の主張を圧し殺して、生活なさっていたんですの?よく生きていられましたわね」

 蔵人は、ともすれば嫌味に聞こえるエイシャの言葉に、素直に答えていた。

「確かに、この大陸に来てから感じていた違和感が、ようやく解けた気がするよ。俺らの小大陸は、孤立気味の一つの文化圏だったからな。不言が美徳とすらされていた。

 でも、色々な価値観の人がごった煮のように生き抜いているこの大陸では、自分の事は遮二無二に守らないといけないんだな。

 ありがとう、サム、エイシャ。学びになったよ」

 蔵人が笑顔を向けると、エイシャは一瞬目を見開き、その後顔を背けてあからさまな悪口を言った。

「お、奥ゆかしいとでも言うんでしょうね。それはそれでアリだとは思いますけど、男としては性的に奔放ですわ!汚らわしいですわ!」

 蔵人は頬を搔きながら、

「すっかり嫌われちゃったな。旅を共にする仲間だから、仲良くしていたいんだけど……」

と言った。するとエイシャは蔵人を見つめ直して言った。

「だ、誰も嫌ってなどいませんわよ。ただ、女を買う、というのはいかがなものかと思って、その……」

 言葉尻が途切れたエイシャの発言に、蔵人は素直に喜んだ。

「ありがとう。ごめんね、色々と。でも、俺も年頃の男なんで、女がどうして欲しいと思ってしまう時があるんだ。理解はしなくていいから、許容はしてくれるとありがたい。

 エイシャに迷惑はかけないから」

 エイシャは小声で、

「わ、わかりましたわよ」

とだけ答えた。

 そこへ、宮殿内に駆け込んだ衛兵が、ガウロン皇帝の秘書官なる人物を連れて戻ってきた。



「ほう、そなたたちが、マウリーアより参りし勇者一行か」

 ガウロン皇帝は白い髭を撫でながら言った。皇帝は謁見の間で、玉座から跪く蔵人一行を見下ろしている。

 言語の問題から、サムが一行の先頭で跪いていた。蔵人でも公用語は話せるものの、やはりサムの語彙力には及ばない。エイシャは皇帝と話すのを辞退し、遜は公用語をなんとか話せる程度である。皇帝と言葉を交わすのは、サムが適任だった。

 サムはへりくだって応答した。

「勇者一行などと、恐れ多く存じます。我らは死者の掃討、魔王打倒を目標にはしておりますが、所詮は流浪の者どもに過ぎません」

 サムの言葉に、皇帝は豪放に笑って言った。

「ははは、そう謙遜せずともよい。マウリーア皇帝からの書状で、そなたらの活躍は聞いておる。特に魔法使いラッセルの知恵、そして勇者ユーキの統率力は一国を治めるに足るとまで聞いている。

 ラッセルよ、ユーキは誰だ?」

 サムが説明する前に、蔵人がエージア公用語で答えていた。

「恐れながら、我が結城蔵人にございます。皇帝陛下にはご機嫌麗しゅう――――」

「ええい、よい!よいよい!社交辞令はよいから、余の質問に答えてほしい」

 蔵人は言葉を中断されたが、畏まり、

「は、なんなりと」

 そう答えていた。皇帝は尋ねた。

「ユーキよ、そなたの事はマウリーア皇帝から聞いておる。そなたが一行の要であり、指導者であると。見ればそなたより年長の者も、一行にはいるではないか。

 また、故国では軍勢を率いる立場となった事も聞いている。そなたには、我が国で言うカリスマが備わっているようだ」

 蔵人はオウム返しに、

「カリスマ、でございますか?」

 耳慣れない単語を繰り返した。公用語にはない単語である。

 サムはすぐに後ろを振り返り、助け舟を出した。

「説明が難しいけど、人を惹きつけ、統率する才能の事だよ。神々より賜ったとしか思えないそうした才能を、カリスマって言うんだ」

 蔵人は言葉の意味を理解すると、一層畏まり、自らのカリスマ性を否定した。

「恐れ多くございます。我にはそのような才覚はありません」

 皇帝はそれを聞くと、玉座に座り直し、顎髭を改めて撫でつつ言った。

「謙遜は美徳だ。特にユーキくらいの年齢では、年長者に倣うべき点は多かろう。

 しかし、だ。一行を率いる者として考えた場合、謙遜ばかりでは仲間を不利益から守れぬ場合も出てこよう。謙遜が時に悪徳となる事も、覚えておくのだ」

 蔵人には解せない点もあったが、

「御意」

と、皇帝の言葉に頷いた。



 皇帝との謁見は終わった。この先にある港街から、皇帝お墨付きの専用船舶で、オレニア大陸に向かえる事となった。

 総督府宮殿を出て広場を、四名は並んで歩いていた。

 蔵人は他の全員に向けて尋ねた。

「なあ、俺に皇帝が言ってた、カリスマっていうのはあると思う?」

 三名が足を止めたのにつられて、蔵人も足を止めた。

「な、なんだよ?」

 仲間たちの視線を一斉に浴びて、蔵人はたじろいだ。サムはため息をつき、遜は肩をすくめ、エイシャは眉をひそめた。

「それが無かったら、僕らは蔵人についてきてないよ」

「サムの言う通りだ。おれは平明王にだって従ってやるか!という反骨精神で邑軍を率いたが、お前が敵だったら降参してたぞ」

「武道で負け、また志の高さに感銘を受けたからこそ、私はついてきてるんですわ」

 全員が、蔵人のカリスマを認めていた。その事を自覚した蔵人は、驕るでもなく、へりくだるでもなく、自然体の自信を手にしていた。

「ありがとう、みんな。でも、正直足りない点は多いと思うから、皆の支援に期待してるよ」

 微笑む蔵人に、他三名全員から同意の声が上がった。

「任せてよ、蔵人」

「悪巧みならおれがやるさ。お前は日の当たる道を行け」

「私を負かした代償は高くつきますわよ?私の援護無しには、旅が立ち行かないほどに」

 全員の心は、一つだと実感できた瞬間だった。そして、全員の心を一つにしているのが自分なのだと、蔵人は自然と自負していた。

 四名は蔵人による絆を確認し、歩みを再開した。そこで、遜がサムに尋ねた。

「そういえば、ガウロン皇帝が、魔法使いがどうとか言ってたよな?港街に皇帝の副官を務める魔法使いがいるから、会ってくれないかって」

 遜の言葉に、サムは答えた。

「言ってたね。魔法使いは、エージア大陸に来てからちょくちょく会うよね」

 しかし、蔵人が次のように言った。

「でも、魔王の手先になっている魔法使いが多かったよな。今度はそうじゃない事を祈るよ」

 辟易した様子の蔵人にエイシャは、

「魔法使いといえども、心を鍛えておかないといけませんわ。精神修行の至らぬ魔法使いなど、百害あって一利なしです」

 辛辣にそう切り捨てた。サムはエイシャを宥めた。

「まあまあ、そう言わないで。魔王は、悪のカリスマだと思うんだ。人の心の弱さにつけ込み、自軍に取り込むのは、蔵人とは真逆のカリスマ無しにはできない芸当だよ。僕らも、油断していたら魔王に取り込まれかねない」

 サムはそう注意を促したが、エイシャは自信たっぷりに言い返した。

「私は問題ありませんわ。私が忠義を尽くすのは、万物の根源たるイアグ神のみ。間違っても魔王になど誑かされません」

 蔵人とサムは、魔王と対決した時の事を思い出し、苦笑するしかなかった。

 蔵人は、サムに尋ねた。

「そういえば、魔力の力線は、港街の方角には伸びていないのか?伸びていたら、魔王配下の魔法使いの存在を警戒しないといけないけど」

 蔵人の問いに、

「それは無いね。魔力の力線の存在は感知できない。ガウロン皇帝お付の魔法使いは、魔王の影響下にはないだろう」

 サムはそう答えた。それを聞いた蔵人は、皆を鼓舞するように言った。

「よし、行こう、港街へ!そして、次のオレニア大陸へ渡ろう!」

 三名はカリスマの言葉に、力強く頷いた。


この物語はフィクションです。実在する人物、団体、事件等とは関係ありません。


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