表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の勇者  作者: 坂木陽介
33/65

第三三章 新たな仲間を

 蔵人らは向かってくる死者たちに悩まされながら、王都ベテ―を目指した。

 死者は昼夜を問わず、三名を襲ってきた。初めの三、四日ほどは、

「やれやれ、またか」

と、遜が愚痴ったが、毎日襲ってこられて、三名は不審感を持った。単に死者が多い、わけではなさそうだったのだ。昼間、馬上で道を駆けている時は死者と遭遇せず、水場で休んだり、昼食を摂っていたりすると襲ってくる。また、深夜に休んでいるところを決まって襲撃される。

 三日三晩そんな調子で危険を払い除けたが、三名は共通の結論に達していた。

 蔵人は言った。

「この襲撃、偶然じゃないよな?」

 サムは頷いた。

「蔵人の言う通りだ。これは間違いない」

 そして、遜が述べた。

「おれたちを狙って、死者がやってきてやがる」

 そう結論せざるを得なかった。

 夜、焚き火を囲み、三名は対策を話し合った。馬も連日の騒ぎから、いらだっていた。餌やりの際に噛まれそうなほどである。

 遜は言った。

「しかし、なんでおれたちを狙う?魔王がどこかから監視してるのか?」

 サムは冗談抜きに、遜の言葉を肯定した。

「多分、本当に監視されているよ」

 友の発言に蔵人は眉をひそめた。

「何故?魔王からすれば、俺たちはたかだか三名の流浪人だろ?」

 サムと遜は、半ば呆れたように蔵人を見た。二名の視線に、蔵人はたじろぎ、

「な、なんだよ?俺、変な事言ったか?」

と言う有様だった。遜は説明した。

「いいか?確かにおれたちはたかが三名の流浪人だ。だがな、その三名がクローヴィス王国の王都包囲戦を終わらせ、マウリーア皇帝に接近していた魔法使いも倒した。これは、魔王からしたら煩わしい事この上ない三名だろうさ」

 サムは、うんうん、と首を縦に二回振った。

「遜の言う通りだ。魔力の力線の話はしたよね?あれで魔王は、配下にした魔力の中継役を通じて、情報を集める事ができる。

 曙王国だけならまだしも、クローヴィス王国、マウリーア帝国と、魔王の企みを何度も挫いているんだから、魔王が僕らを狙うのも当然だよ。

 蔵人は、自分の成した功績を過小評価しているよ。もっと誇ってもいいくらいだ」

 友の言葉に、蔵人は閉口した。黙った蔵人を尻目に、サムと遜の議論は続く。

「こうなると、もう一人仲間が欲しくなるね」

「ああ。それも、神聖魔法の使い手の僧侶がな」

 二人の言わんとするところは、蔵人にも察せられた。

「そうか、僧侶の神聖魔法なら、魔王の追跡から身を隠す事ができるよな」

 改めて蔵人も加わった作戦会議は、夜更けまで続いた。



 王都ベテ―へとロイカの中間にある都市に、蔵人たちは身を寄せた。魔法使いによる奇襲は警戒せねばならないが、死者に悩まされる心配は少ない。三名はこの一〇日余り、死者の襲撃で寝不足だった。やっと羽根を伸ばせるとの思いから、全員気が緩んだ。先日の轍を踏まぬよう、サムがあらかじめ魔力の探査をしたが、反応はなかった。

 宿を決めると、遜は真っ先に飛び出していった。

「じゃ、おれは若い姉ちゃんに用があるんでな」

 去り際の言葉は、この大陸の公用語で発せられた。日頃から、

「いいか?性交は人格も含めての、肉体と肉体のやり取りだ。言葉が通じれば、余計に燃え上がるってもんよ」

と、公言しているだけある。サムから借りっぱなしだった辞書も、持ち主に返却されていた。

 蔵人とサムは、遜が飛び出していったのを憮然として見送った後、

「寝不足寝不足って言ってたのに、あの精力はどこからきてるのかな?」

「性交嫌いの僕も疑問だけど、蔵人でもわからないか」

 そうこぼして苦笑し合った。

 二人はその後、この都市の教会に向かった。旅を共にできる僧侶を探しての事だったが、簡単に見つかると楽観視していたわけではない。一言で言えば、ダメ元で行ったのだった。

 ルマーク王国は建国が神話まで遡る、由緒ある国である。四大魔法使いの時代よりも、さらに千年前から存在するとされる、歴史ある国なのだ。国内で信奉されるイアグ神を頂点とする宗教は、王国内の人々の生活の一部になるまで浸透している。

 そんな宗教の信奉者ならば心強い味方になってくれるだろうが、故国を捨てて旅に出る決心をさせるのは難題である。

 ひとまず蔵人とサムは、揃って教会の門戸を叩いた。宗教人からすれば蔵人たちは異教徒だが、教会の門は誰に対しても開かれている。

 教会の門を叩いた二人は、夕刻にもかかわらず温かい歓迎を受けた。この国の茶を出され、祭壇裏の司祭の控室で歓待されたのだ。三名いるとやや窮屈な部屋だが、四人がけの卓に椅子、棚などが据えられた石像の部屋である。

 壁や床は灰色ながら、茶や香で無機的な空間に思えない部屋だった。しかし三名が卓に着き、サムが訪問の目的を述べると、司祭は難しい顔をした。

「旅を共にする、神聖魔法の使い手、ですか……中々見つけるのは困難ですな。

 と申しますのは、我が国の僧侶は、ルマーク王国の繁栄を願い、そのためにイアグ神に一生を捧げた者だからです。だから国外に出るのも稀であり、生涯をルマーク内で過ごす者ばかり。旅路を共にするとなると、見つけるのは難しいでしょう」

 白髪混じりで黒い外套に身を包んだ老司祭はそう述べた。そして次のようにも言った。

「貴方がたは、我々ルマーク王国、そしてマウリーア帝国を守ったという勇者様たちでしょう?」

 名乗り出ていないのに正体を知られている事に、蔵人は一瞬殺気立ったが、サムは肩をすくめただけだった。

「よくご存知で」

 友の平静な態度に、椅子から立ち上がりかけた蔵人は座り直した。

 老司祭は言った。

「人の噂は千里を走るもの。既に王国中に、勇者様という伝説が伝わっています。だからこの国の恩人である貴方がたへ、私も恩返しできればと思ったのですが……」

 老司祭は一度言葉を切ったが、ふと思い出したように、次のように言った。

「そうだ!王都ベテ―で、名を上げた武僧がおります。戦闘でも負け無しの武人でしてな。その者ならば、国王陛下がお許しになれば、あるいは――――」



「ありがとうございました」

 蔵人とサムは、揃って老司祭の笑みに送られて、教会を後にした。

 宿への帰路、蔵人はサムに質問した。

「なあ、神聖魔法は、普通の魔法とどう違うんだ?名前は知っていても、冷静に考えたら違いを明確に理解できてなくて……」

 自らの無知を謙虚に告げる蔵人に、サムは応えた。

「そうだな、魔法を起こす方向性が逆、とでも言えばいいと思う」

 サムは言葉を続けた。

「前に、僕ら魔法使いは空間の小さな火花や力線を見る事で、それを増幅させるようにして魔法を使うって言ったよね」

「ああ。魔法の才能がある者には、目を凝らすと空間にはたくさんの線が見えるって話だよな?」

 尋ね返した蔵人に、サムは頷いた。

「そうそう。一般的な魔法使いは、あらかじめ存在する自然現象を利用して魔法を起こすんだけど、神聖魔法はその逆で、神への強い信念が、空間に魔法としての作用を引き起こすんだ。神様はこう望まれているから、こうなる、という信念の通りに、現実を改変するのが、神聖魔法なんだよ」

 サムの説明に、蔵人は目が白黒する思いだった。

「神様が望まれたという信念の元に現実に作用するのが神聖魔法か……だったら、神様の名を借りて、神聖魔法の使い手は全知全能になれないか?」

 蔵人の疑問は、サムが解消した。

「さすがにそこまでの力、そこまでの信仰は持てないのが人間なんだ。蔵人は、目の前の人を見て、その人が完璧に存在しない状態を想像できる?」

 蔵人は首を傾げながら、

「う〜ん、無理かな。そうか、ここでもものを言うのは、想像力なんだな」

「そういう事。想像力と信仰力の高い人物が、大きな力を発揮して、現実に作用する。それが神聖魔法なんだ。一般の魔法使いが想像力のみで勝負するのに対して、神聖魔法の使い手は信仰力の高さを補助にしているんだよ」

 サムの説明に、納得のいった蔵人であった。

 魔法の説明を終えると、サムは話題を変えた。

「そういえば、蔵人は大人の店にはあんまり行きたがらないよね?一番精力有り余ってそうな年齢なのに」

 蔵人はためらいがちに答えた。

「女を買う、というのに抵抗があるのかもしれない。いや、確かに女性と性交したいという欲望は強いけど、金で買うのは何故か抵抗があるというか……」

 サムは悩む蔵人を見て苦笑した。

「思春期って言うくらいだから、潔癖さや羞恥心があるのかもね。遜は潔癖さや羞恥心を感じさせないけど」

 蔵人はサムの言葉に爆笑した。

「確かに!遜は潔癖や羞恥心って単語、似合わないな〜!」

 二人は遜の悪口に花を咲かせつつ、宿への道のりを楽しく歩いていった。



 夜には遜も宿に戻ってきて、三名は件の武僧について話し合った。

 遜は、

「武僧か。そいつはいい。戦闘でも前に出られるし、一歩引いて回復や援護の魔法での支援もできるだろう」

と言って、仲間に引き入れる事に賛同した。

 しかし、仲間にできるか問題もあった。サムが言う。

「でも、国王の許しがあれば、と、この街の僧侶は話していたから、簡単に仲間にできるのかわからないな。国王所有の奴隷の可能性もあるから、国王が手放すよう納得させる必要がある」

 蔵人は答えて言った。

「ルマークの王都では、武闘大会が開かれているんだよな?なら、そこに参加して、僧侶を負かすのが、一番手っ取り早い気がするけど」

 蔵人の言葉に、遜は言った。

「その武僧が参加するなら、確かにそれが一番かもな。しかし、そうなるとおれたちの中から参加する人物は一人しかいないが、自信はあるのか?」

 サムと遜の視線が、一斉に蔵人に向けられた。蔵人は正直なところを話した。

「わからない。でも、一〇年間鍛え上げた剣術だ。ここで通用しなかったら、この先ガルデニウスを負かしたり、魔王を打倒したりするのは難しいと思う。だから、腕試しも兼ねて、参加したいと思うんだ。曙王国での無敗記録は、この広大な大陸でも通用するのかどうか。それを確かめたい」

 前向きな答えに、サムと遜は蔵人を応援した。

「いいと思う。蔵人の剣技なら、ワーズやガウディを相手に証明しているから、きっといけるよ!」

「サムの言う通りだな。やれるだけやってこい!」

 仲間からの信頼は、蔵人にとってとても有り難く感じられた。が、次のようにも言った。

「ところで、この国の武僧ってどういう戦い方をするんだ?相手の戦法は可能な限り知っておきたい」

 今度はサムに、蔵人と遜の視線が向いた。サムは考えながら、一つ一つ思い出しつつ答えた。

「この国の武僧は、魔法で強化した徒手空拳で闘うのが基本だった、はず。何しろ後ろ盾は、世界最古の宗教だ。その神様の力を顕現させていると思えば、自然と肉体にまとう魔法も強力になる。

 蔵人には、その魔法を破る打撃力が求められるけど、いつもの蔵人の姿勢で闘えば問題ないと思う。いかに相手が魔法で強化していようと、徒手空拳と剣では破壊力が違う」

 遜がそれを聞いて、一言で要約した。

「まあ、つまりはいつも通り闘えば、蔵人に十分勝機があるわけだ。頼んだぜ、剣士様」

 けしかける年長者に、蔵人は肩をすくめ、

「じゃあ、まあ、やれるだけやってみるさ」

と答えた。



 その後、都市で三泊し、休息を十分に取った三名は、一路王都ベテ―を目指した。

 死者の襲撃は、変わらず苛烈である。馬に鞭を入れて疾走している時は現れない。川辺で水浴びをしたり、夜に焚き火を囲ったりすると、頻繁に四、五体の死者が現れた。倒すのは容易だが、弓兵混じりで襲ってくるのは煩わしい。一度は五体全て、弓兵だった事もあった。

 弓兵が混じると、まずサムが弓兵に着火した。これで暗闇でも、弓兵の位置がわかる。

 闇夜の草原にしゃがんで、身を隠しながら三名は手短に作戦会議をした。

「――――サム、敵の総数は?」

 蔵人の質問に、

「五体」

と、サムが答えた。

「それで、弓兵の総数は?」

 遜の質問に、

「五体」

と、サムが同じように答えた。遜はいらだって言った。

「もういい!おれと蔵人は別方向に切り込む。サムは風魔法で、弓兵の腕を落とせるなら落としてくれ。いくぞ!」

 言うだけ言って駆け出した遜に倣い、少し遅れて蔵人とサムも行動に移した。

 闇夜に、火に包まれる弓兵が赤々と確認できる。遜も蔵人も速攻で死者の首を落とし、サムは強力な風魔法で死者の首を断った。五体の弓兵はあっという間に活動不能に追い込まれたが、連日連夜の襲撃には皆辟易していた。

「まったく……中年を目前にしている歳で、夜に熟睡できないのは堪えるぜ……」

 ここぞとばかりに年長ぶる遜に、蔵人とサムは苦笑し合った。

 今宵の襲撃はないと踏んで、焚き火を囲い直し、三名は今後の対策を話し合った。

「しかし、雨でも降ってる時に襲われたら事だぞ。濡れた身で速く動くのは無理がある」

 遜の心配は、サムの一言で霧散した。

「それなら問題ないよ。風魔法の応用で、水を弾く事ができる。それなら動きやすいと思うよ?」

 サムの言葉は、翌日早くも実践の機会があった。雨で濡れる中、死者たちに囲まれたのだ。

「サム!」

 蔵人は濡れた服のまま駆け出していた。サムは呪文を詠唱する事さえせず、蔵人の体表から水を弾かせた。

 それを見た遜も、

「頼んだぞ!」

 サムに言って駆け出した。サムは遜にも同様の魔法を施した。遜は死者の首をはねながら、

「おおっ!軽い軽い」

と、上機嫌である。

 結局、数分と経たずに死者一〇体は片付いた。

「便利だな、風魔法ってのは」

 遜の評価に、サムは首を横に振った。

「そうでもないよ。死者の首を断つなら、水や土の塊をぶつけるのが効率的だし、雨を弾くのも、水魔法ならもっと容易だ」

 サムの言に、蔵人が言った。

「つまりは、この風魔法の万能さは、サムの想像力の産物なわけだ」

「そうそう、その通り」

 サムは、今度は首を縦に振った。

 まだまだ王都は遠い。しかし、この三名ならば踏破を苦にする事はない。それは三名の共有する確信であった。

 そして、都市を出立して二〇日余りで、三名はルマークの王都を目前にした。


この物語はフィクションです。実在する人物、団体、事件等とは関係ありません。


最後までお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマーク、Xのフォロー、他サイトの記事閲覧、Kindle書籍の購入等々していただけると一層の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ