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逆転の四人組 ~新釈ブレーメンの音楽隊~


「ロバート、お前はもうお払い箱だ。荷物をまとめてとっとと失せろ」


 ロバートは、学はありませんでしたが町一番の力自慢。強欲な親方に水車小屋でさんざんこき使われてきましたが、怪我をして働けなくなったので追い出されてしまいました。


「酷い話だ。怪我さえ治ればまだまだ働けるのに治療さえせず追い出すなんて」


 ロバートは、仕事の相棒だったロバに語りかけます。ロバは悲しそうに瞳を濡らしてロバートを慰めるのでした。


 

 結局、ロバートはハンザ自由同盟のブレーメンを目指すことに決めました。そこへ行けば働きに応じた賃金が得られると旅の商人から聞いたことがあったからです。ちなみに親方から賃金を貰ったことはたったの一度もなかったのです。


「これくらいは貰っても罰は当たるまい」


 ロバートは、彼にしか扱えない巨大な棍棒を片手に水車小屋を後にします。


 怪我をしたと言っても、腕の怪我でしたので歩く分には支障はありません。


 ブレーメンに向かってしばらく歩いていると、木陰に見知った姿がありましたので、ロバートは声をかけました。


「やあドジャース。こんなところで何をしているんだい?」


 ドジャースはハアハア息を切らせながら答えます。


「やあロバート。実は婚約者が領主に見初められてね、俺が邪魔になった領主から殺されそうになったんで逃げてきたってわけさ」


 ドジャースは町一番の優秀な狩人です。得意の弓は百発百中と言われていました。


「それは災難だったね。どうだろう、俺は親方から追い出されてブレーメンで仕事を探そうと思っていたんだが、良かったら一緒に行かないか?」


「ブレーメンか!! 前から行ってみたいとは思っていたんだ。良いね、力自慢のロバートと一緒なら安心だし、ここに居たら殺されちまうからな」 

「俺だって弓の達人のドジャースが一緒なら心強いってもんだよ」


 二人は揃って歩き始めます。


「どうしたドジャース、やはり婚約者のことが気になるのか?」

「ああ、どうしようも無いってわかってはいるんだが、それでも俺は彼女を愛しているんだ」


 ドジャースは涙を流します。


「ブレーメンで落ち着いたら迎えに来ればいい。その時は俺も手伝ってやるからさ」

「そう……だな。ありがとうロバート」


 今は生き残ることを第一に考えるしかない。ようやく落ち着いたドジャースとロバートは、人目を避けながら林の中を抜けていきます。


 しばらく進んだ池のほとりで全身ずぶ濡れになって放心状態の女性が座り込んでいました。


「おや、占い師のネコルじゃないか。一体何があったんだ?」


 ネコルは町一番の占い師。あまりに占いが的中するので本物の魔女ではないかと噂の女性です。


「ああ……ロバートにドジャース。実はね……お金持ちの貴族に悪事がバレるから行動を改めた方が良いって教えてあげたら怒らせちゃったみたいで、お店に火を付けられたのよ。必死で逃げて池に飛び込んだから火は消えたんだけど、お気に入りの服がボロボロよ。帰るところも無くなっちゃったし……最悪」


 ネコルの顔は煤で真っ黒で服は焦げてところどころ穴が開いています。


「それなら俺たちと一緒にブレーメンに行かないか? ネコルの実力ならもっと活躍できるはずだ」

「ブレーメンか……良いかもしれないわね。あの町は占い師も活躍しているって聞いたことがあるし。それに腕利きの二人が一緒なら安心だわ」


 三人は歩き始めました。


 町の外れまで来たところで、三人は途方に暮れて泣いている男に出逢いました。


「やあやあ、そこで泣いているのはハーンじゃないか。町一番の門番が一体何があってそんなに嘆き悲しんでいるんだい?」


「ああ……見苦しい所を見せてしまったね。実は最近町で強盗事件が多発しているんだが、責任を全て俺に押し付けて処刑するつもりらしい。さっきそう話しているのを偶然聞いてしまったんだ。強盗が入ったのは俺が非番の日だったっていうのに酷い話だろ?」


 ハーンは真面目で優秀な兵士です。槍を持たせれば敵なしの達人です。


「それは酷い話だ。どうだろう、俺たちはこの町に見切りを付けてブレーメンに行くつもりなんだが、一緒に行かないか?」


「ブレーメンだって? そういえば旅人から良い噂をたくさん聞いたことがある。よし、俺も一緒に行くよ。無実の罪で殺されるなんてまっぴらごめんだからね」


 こうして町一番の力自慢のロバート、町一番の弓の使い手ドジャース、町一番の魔女ネコル、町一番の槍の使い手ハーンの四人は、ともにブレーメンを目指すことになりました。



 ブレーメンを目指す一行は、森の中に入りました。


「そういえばブレーメンの町は遠いのかな?」


 ロバートは、一度も町から出たことはありません。


「俺も行ったことはないが、一日で行けるような場所じゃないな」

「それじゃあ、今夜は森の中で野宿かしら?」


 ドジャースの言葉にネコルがうんざりしたようにため息をつきます。


「俺は慣れているが……女性にはちと辛いかもしれないね、ドジャース、この辺りで休めそうな場所はないのかい?」

 

 ハーンがドジャースに尋ねます。狩人のドジャースならこの森にも詳しいだろうと考えたからです。


「ああ、たしかこの先に誰も使っていない古城があったはず。快適とは言えないが、森の中で野宿するよりは多少はマシだと思うよ」


 それは良いと全員賛成します。


 道を知っているドジャースを先頭に暗くなった森の中を四人は進みました。



「……明かりがついている?」


 ドジャースが呟きました。無人のはずの古城には煌々(こうこう)と灯りがついていて、大勢の人の気配がありました。


「まさか……最近町を襲っている強盗団が根城にしているんじゃ……」


 ハーンの言葉に皆ハッとします。こんな森の中に隠れ住んでいるなんてそれ以外考えられません。


「見張りが一人立っているな……ドジャース、やれそうかい?」

「無論だロバート。任せておけ」


 ――――ピョウ――――


 かすかな風切音がして――――


 ――――ドサッ――――


 見張り役の男が倒れます。


「今だ、行くぞっ!!」


 倒れた見張りを繁みに隠して古城に近づく四人。


 しかし窓は思いの外高く中の様子をうかがうことが出来ません。


「俺が土台になろう」


 ロバートの上にドジャースとハーンが乗ってネコルをしっかりと支えます。


「あ……私……とんでもないもの見ちゃったかも……」


 中の様子を覗いていたネコルが両手で顔を覆いました。


「何を見たんだネコル?」


「たしかに強盗団はいたんだけど……この場に居てはいけない人間が何人も居たのよ……」


 古城の中には、強盗団だけではなくドジャースの婚約者を奪おうとした領主、ネコルの店に火を付けたあの貴族もいました。


「ロバート、アンタのところの親方もいたわよ。皆、グルだったのね……」


 四人の怒りが爆発します。強欲なだけならまだしも、強盗団とグルになってさらに私服を肥やしていたなんて……到底許されるものではありません。


「よし、やるぞ」


 四人は盗賊団と悪人どもをやっつけることを決めました。


 しかし多勢に無勢、正面から突っ込むのは無謀です。


「皆、私が合図したら思い切り叫んで音を出してね」

「何でも良いのか?」

「出来るだけ変な奇声の方がいいわね」

「わかった、やってみよう」


「良いわよ!!」


 ネコルの合図で一斉に叫び、音を鳴らす。


 ネコルがなにやら呪文を唱えると――――


 ――――ゴオオオオオオオオオオ――――

 ――――ギュワアアアアアアアア――――

 ――――ギエエエエエエエエエエ――――


 不思議なことに音だけが古城の中に入り込んで凄まじい音が古城の中に響き渡ります。音は複雑に反射し増幅されてまるで巨大な化け物が襲ってきたのだと勘違いした強盗や領主たちは慌てて逃げ出してしまいました。


「上手く行ったな」


 四人は空になった古城に悠々と入城します。


「おお、すごいご馳走だな……」

「酒もたくさんあるぞ」

「お宝も貯め込んでやがる」


 四人は目を輝かせますが、軽く食べ物を口にしただけですぐに迎撃の準備に移ります。


 逃げて行った連中が冷静になって戻って来るに違いありませんから。



「……来たぞ」


 見張りをしていたハーンが仲間に合図を送ります。




「お前たちそれでも恐れ知らずの強盗団か? さっさと行って様子を見てこい」


 領主の命令で強盗団たちが渋々古城へ向かいます。


「ボス、本当に大丈夫なんですかね」

「なあに、いざとなったらお宝だけ持ってトンズラしちまえば良いんだ」

「さすがボス、冴えてますね」


 灯りが消されて真っ暗になった古城。強盗団は着の身着のまま逃げ出したので、丸腰のまま入ろうとしましたが――――


 ――――ピュン、ピュン、ピュン――――


 どこからか降り注ぐ矢の雨にバタバタと倒れます。


「やべえ、中に逃げ込むんだ!!」


 何が起きたのかわからぬまま、強盗団は古城に逃げ込みますが――――


 ――――ドシュ、ドシュ、ドシュ――――

 

「ぎゃあああ!?」


 暗闇から突き出された槍のようなものが彼らを貫いてゆくのです。


「はあ……はあ……はあ……」


 辛うじて難を逃れたのはわずか数人。


「あ、灯りだ!! とにかく灯りを付けろ!!」


 しかし――――


 ――――ゴバン、ゴバン、ゴバン――――


 何か太いモノで殴ったような鈍い音が鳴り響くと古城の中は静かになりました。

 



「領主さま、古城に明かりが灯りましたな」

「うむ、やつら上手くやったらしい。戻るぞ」

「へい」


 遠くから様子をうかがっていた、領主、貴族、親方らの悪人どもが安心して古城へ戻ってきます。


 中では最強の四人組が待ち構えているとも知らないで。




「ドジャース!!」

「ハンナ!!」


 古城には領主に捕まったドジャースの婚約者もいたのです。


 三人は二人の抱擁を微笑ましく見守るのでした。



 四人が一生かかっても使い切れないほどの大金とお宝を前にロバートが皆に尋ねます。 


「これからどうする?」


 

「このままここに住めば良いんじゃないかな?」

「賛成!!」

「私たちもそうしたいです」

  


 結局、四人がブレーメンに行くことはありませんでしたが――――


「毎度!! ブレーメンの音楽隊です。この度はお招きありがとうございます」


 時折ブレーメンから人気の音楽隊や劇団を城に招いて幸せに暮らしたということです。


 

 おしまい。

この作品は、青空文庫「ブレーメンの音楽師」https://www.aozora.gr.jp/cards/001091/card59847.html

を元に書いております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノベルアップ+さまで「グリム童話フェア」 が開催されているのですね。 ちょっと見に行ってきました。 「ブレーメンの音楽隊」のメンバーが動物たちではなく、よりリアルな感じに書いているなあと感…
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