プロローグ 「ハジマリハオワリカラ」
1人の魔女が豪雨の中、森を人外の護衛と共に駆ける。
彼女は自らの子を抱えながら、泥だらけになっても走り続ける。
目的地の楽園が見えた。
「やった……!」
彼女がそう喜びの言葉を放った。
——刹那、彼女の肩に矢が刺さり、鮮血が飛び散った。
「ッ……くそっ!」
——守れなかった……!
護衛は前に進むのをやめ、自分の失態を悔いる。
彼女は倒れ込んだ。
そして、息子へ向けた言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい……一緒にいられなくて」
ポロポロと涙を流しながら彼女は覚悟する。
——自分が息子ともう会えないことを。
——自分がここで死ぬということを。
「——最後の命令よ、ドゥーべ……この子を送り届けなさい!」
ドゥーべと呼ばれた護衛に、最後の命令を課す。
「はい…!」
ドゥーべもここで主人が死ぬことを理解し、泣きながら応え、彼女の残した宝物を預かり走りだした。
追手が彼女に追いついた。
「さようなら…イオ…体に気をつけて…」
彼女は、もう見えなくなった息子の健康を祈り——
「そして、ごめんなさい...」
——自分の犯してしまったことを謝罪した。
1人の魔女——いや、息子思いの母親は、最後まで自らの子のことを祈り続けた、想いを残した。
——彼女は命を落とした。
彼女の流した血はさらに強まる雨に流されていった。