リス研究の第一人者の現状
「これは……ぎりぎり……リス……か?」
かつての恩師は寝たきりになっていた。
リス研究の第一人者。
その道では右に出る者はいないとまで言われた存在。
「先生、これはリスではありません」
都会の高層マンション。
秋を知らせる虫の鳴き声など聞こえないだろうと思い、町内の草刈りで本日捕獲ほやほや、キリギリス入り虫かごを差し出したところだった。
「夜になるのが楽しみですね、先生」
「リ……スのメス相……手に……夜の……ゴフッ……ゴッ……ッホン、楽しみなど、ない」
恩師は耄碌していた。
もうすっかり寝たきりボケ老人と化していた。
哺乳類と昆虫、リスとキリギリスの見分けがつかない。
ただ、リス相手に男の生殖本能を発揮しないマトモさは残っていたのでホッとした。
恩師の老いに寂しさを感じる。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「ねぇ、あなた、先生の様子はどうだった?」
「あぁ……喋れるんだけど、頭がボケてしまっていた。次に会いに行く時は、先生にはもう俺がリスに見えているかも」
リスの俺。
次に会う時、恩師はリス相手にも欲情するかもしれない。
手土産のキリギリスは今頃鳴いているだろうか?