第1章 第8話 桂来学園のカースト
桂来学園の敷地面積は普通の街並。散策するには何かしらの乗り物が必須だが、バスが無料だったのは昨日の朝だけで、今となっては憧れのスーパーカーになってしまった。
「そこでこのレンタサイクル! 1ヶ月3千ポイントで乗り放題! これを3台借りてきたわ」
斬華がドヤ顔で持ってきた電動自転車。これに乗って龍華も含めた3人で桂来学園を回ることになった。
「にしてもまぁ、ここまで格差があるとはな……」
軽い気持ちで何も調べずに入った学校だったが、ここまでひどいとは思わなかった。Z組は何もない地面。Y組は大型テント、机付き。X組は1人1つのテントがデフォルトで支給されるようだ。
ようやく野宿から解放されたのはU組から。教室と一体、全員一緒の大部屋、コテージと段階を刻んでグレードが上がっていく。
ようやく普通の暮らしと呼べるのはN組辺りからだろうか。1人に1つの部屋が与えられて、ボロいが教室もきちんとある。
G組にもなるとホテルのような綺麗な建物に住め、だいぶ優雅な生活ができているようだ。この学生生活の分かれ道を決めるのがたった一つの入試だったなんて。それがわかっていたならもっと勉強したのに。いやしないな。
「この辺りまで来るとさすが、って感じね」
斬華が道端に自転車を停め、ため息を一つつく。辺りにあるのはおしゃれなレストランやショッピングモール。木とバス停以外のものがないZ組とは大違いだ。
「まさに中心地って感じだな。なんか嫌になってきた」
「あら。馬鹿でもわかるのね」
ここまで露骨だと誰でもわかる。中心に近づけば近づくほど綺麗になっていくこの造り。
桂来学園は、凄まじい格差社会になっているんだ。
「こんなの見させられたらあんなところに1年間も住んでられねぇよ」
「どうだろ……。聞いた話によると何度かクラス替えのチャンスがあるらしいよ?」
「ってもな……」
結局のところ、上のクラスに上がるためには学力が必要なのだろう。入試どころかテストでも0点だった俺に希望があるとは思えない。仮に勉強しようと思ったところであんな環境ではその気まぐれも続かないだろう。
「お前らはいいよな。頭いいんだから。その内嫌でも上のクラスに行けるだろ」
「蓮司くんも一緒に行こ? わたしが勉強教えてあげるから」
「えー……」
勉強はしたくない。でも上のクラスには上がりたい。くっ! なんたるジレンマ……!
「なんてひどいんだ桂来学園……!」
「そんなひどい言いがかり初めて聞いた……」
「おいおい、なんかお上りさんがいるんだけど」
道端で休憩していると、嫌味ったらしい言葉が明らかに俺たちに向かって浴びせられた。
「ほんとだ。Z組がこんなところに何の用ですかー?」
「ここに来たって何も買えないだろ。Z組のお馬鹿さんたちには」
見ると、似合っていない金髪が印象的な男子生徒2人が俺たちへと近づいてきていた。その胸元に輝くバッジは、1-Jという形になっている。
「でもこの辺りE組とかの土地だろ? お前らだってお上りさんじゃん」
「なっ……! Z組ほどじゃねぇだろうがよ!」
「は? 身分に合ってないのはお互い様だろ」
「だからお前らよりはマシだって言ってんだよ!」
なんかすごい馬鹿にされてるな……。初対面の奴にここまで煽るか? 普通。
「そんなにZ組は駄目なのかよ。同じ学校の仲間だろ?」
「はっ、当たり前だろ。お前らZ組って入試で0点だった正真正銘の馬鹿の集まりだろ? そんなゴミがいっちょ前に人間面して歩いてんじゃねぇよ!」
ひどい言い草……。だがそれは決してこいつらだけの差別意識ではない。
ここに来るまで。いやこの場でも。俺たちは散々嗤われてきた。
自転車を漕いでいるだけでクスクスと笑われ、明らかに避けられる。それが敵情視察の実情だ。
格差があれば差別が生まれるのは当然のことで、その格差が目に見える桂来学園ではそれがよりはっきりとしている。
つまりZ組は桂来学園において、明らかに差別される対象にあることがわかった。