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第1章 第5話 馬鹿でも無能ではない

「今日初めてのごはんじゃーいっ!」

「あんまり高いの頼まないでね……?」



 夜7時を迎え、俺と流華は夕食を食べに食堂に来ていた。だがさすがの敷地面積。一口に食堂と言っても、大衆食堂やレストラン風のものなど、膨大な数とランクの差がある。



 その中でも俺が望んだのは、中ランクのカフェのような食堂。完全なおごりのため龍華は戦々恐々としているが、俺もそこまで恩知らずじゃない。ちゃんと考えている。こういう店にはあるはずなんだ。



「パンの耳ください!」

「10ポイントになります」



 よし、やっぱりあった。サンドイッチを作る時にできるパンの耳の束。この学校の仕様上金欠の人が多いのか、パックに詰められて普通に売られていた。



「ごめん。これだけおごってくれ」

「それはいいんだけどさ……。目の前でそれ食べられるとなんかわたしが嫌な人みたいに見えない……?」



 龍華が買ったのは、400ポイントくらいの普通のパンケーキ。



「別にいいんだけど夕食にパンケーキはどうなんだ?」

「パンの耳食べてる人がそれ言う……?」



 見た目以上に普通に美味しいんだけどなー、パンの耳。三食これでも余裕だ。



「もっと高いの頼んでもよかったんだよ? 後半に得意科目回してたから、5万くらいは蓮司くんのおかげなんだし」

「いやいいよ。俺がテスト辞める理由がほしかったってのもあるし」


「でも蓮司くんのおかげなのは事実だよ」

「まぁ一番手っ取り早いのはタブレット壊すことだったんだけどな。新しいのもらえるんだから」

「…………。……あー、なるほど、確かに……」



 なんだ、思いつかなかったのか。今回38万ポイントももらえたくらい頭いいんだから、これくらい考えつくと思ってた。



「でも無駄に壊すのはよくないよな」

「そう、だね……。でも……」

「ちょっと龍華、そんな馬鹿とつるむのはやめなさい」



 龍華の言葉を遮りその隣に座ったのは、小柄な龍華よりもさらに小さなツインテールの少女。ていうか顔立ちが似てる……?



「斬華……」

「おねぇちゃんって呼びなさいっていつも言ってるでしょ?」



 へー、龍華のおねぇちゃんか。でも胸元の無駄に目立つクラスバッジは1年Z組のものだ。



「もしかして双子?」

「そうよ。翠川斬華(みどりかわきりか)。よろしくね、お馬鹿さん」



 控えめな龍華とは違いずいぶんと偉そうだ。



「同じ入試0点組のくせに」

「悪いけどあなたみたいな純粋な馬鹿でも、あの黒髪みたいなドジでもないのよ、私と龍華は。なんせわざと0点をとったんだから」



 なんだこいつ。答案が返ってきた時の俺と同じこと言ってるぞ。



「ノブレス・オブリージュって知ってる?」

「ああ、美味いよな」


「ようするに、優秀な人間にはそれ相応の責任が伴うってことよ。翠川グループって知ってるでしょ?」

「ああ、美味いよな」


「……まぁつまり、私と龍華はいいとこの家の出で、下々民を率いる力が必要なのよ。それを養うのに一番いいのがここ桂来学園ってわけ。たっくさんのお馬鹿さんがいるからね」

「ああ、美味いよな」


「私たちには、あなたみたいな馬鹿を上へと連れていく責任がある。だから今から作戦会議よ。一般兵が指揮官の会議を聞けるわけないでしょう?」

「ああ、美味……」

「今わたしがわたしの友だちと話してるの。……入ってこないで」

「……家の外に出たらいきなり反抗期? お父様に見せてあげたいわ」



 ああいけない。難しそうな話が始まったから思考停止してたら、なんか少し険悪な空気になっている。



「まぁ落ち着いてパンの耳でも食べろよ」

「ハトの真似事なら外でやってなさい。あなたみたいな無能がいると話が進まないわ」



 無能ねぇ……。馬鹿は否定しないが、何もできないと言われたらそんなことはないと言いたい。



「俺が必要だって証明できたらここにいてもいいんだよな?」

「証明できたらね。無理だと思うけど」



 たぶん普通の奴や、優秀な奴らはこれに気づけない。だって普通やってはいけないことなのだから。試そうとも思わないだろう。



 だが馬鹿は違う。馬鹿だからこそ、そんな常識に囚われない答えに辿り着くことができる。



「たぶんあのテスト、カンニングができた」

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