第1章 第4話 ポテンシャル
俺は今まで舐めていたのかもしれない。理解できていなかったのだ。何も、わかっていなかった。
段ボールのポテンシャルを。
「おおお……!」
すごい。すごいことになっている。たかだか段ボールを複数使っただけでこんなに立派な家が完成するのか。下手したらテントより上。いや、満足度で言えばテントを遥かに上回る。
「あのー……」
ただ一つ。留め具があればもっと上の次元が見れるのに。くそ、せめてガムテープさえあれば……!
「外村くん……だよね?」
「うぉっ!?」
びっくりした……。なんか知らない女子が段ボールハウスの隣に現れたんだけど。
「さっきはありがとう。おかげでなんとかなったよ」
「ごめん、今集中してるから静かにしてもらえる?」
「え? え、あ、ごめんなさい……」
まったく。こっちは段ボールのポテンシャルを活かすことに忙しいというのに……。ん……? さっき……?
「あー、充電なくなりそうだった……」
「うん! 翠川龍華って言います。1年間よろしくね!」
長い髪を右側で纏め、サイドテールにした小柄なかわいらしい少女は朗らかな笑みを見せた。が、今はそれよりも。
「外村蓮司です。とりあえずタブレット返してくれると助かる」
「え? 新しいの先生からもらったよね?」
「そう。つまりいらないタブレット売れるってことだろ? 売った金でガムテープ買いたいんだ」
「……誰でも無料でもらえるんだから売れないと思うよ」
盲点だった。終わったと言わざるを得ない。
「それでね、お礼と言ったらなんだけど、少し大きめのテント買ってきたからよかったらどう? ちゃんとカーテンも買ってきたから安心だし……」
「いやお礼って言うならガムテープほしいな。最高の段ボールハウスを作りたいんだ」
「ん? あーほしいなら買うけど……え? テントで暮らせるんだよ?」
「でも段ボールってすごいんだよ! これが完成したらテントより……あぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あぁごめんなさい。ゴミだと思ってたわ」
俺が作り上げた段ボールハウスが、凧奈々の引くスーツケースに轢かれてボロボロに崩れ落ちた。
「くそっ! くそぉっ! なんで、こんな……あぁぁぁぁぁぁっ!」
「え……? ごめんなさい、泣くほどだと思っていなかったわ。本当にたまたま当たっちゃっただけなの。申し訳ないわ」
わざとじゃないなら仕方ないけど……名前書き忘れた件と言いもしかしてあれだな、意外とドジっ子だな。クールな顔してるのに。
「とにかくガムテープくれよー……。俺は段ボールの未来が見たいんだよー……」
「あはは……。凧さんもテント買いに行くの?」
「まさか。1ヶ月野宿生活なんて耐えられないわ」
俺も同じ気持ちだが、Z組にいる以上野宿は避けられないだろう。まさか……!
「学校辞めるのか……?」
「どれだけ馬鹿なの。ホテルに行くのよ。安いホテルなら一月泊まれるわ」
そうドヤ顔で語った凧さんのスマホ画面には、46万3千というポイントが堂々と踊っていた。
「すげぇ……。ガムテープ1万個以上買えるじゃん……」
「どうしてしょぼくなりそうなことを言うの?」
「そっか……。入試で96点とれてもそれくらいなんだね」
「そうね……。まぁ仕方ないと言えば仕方ないわ」
なんか凧さんと翠川さんがよくわからない会話を繰り広げているが、とにかく。
「テントに住ませてもらえる……?」
「うん、もちろん」
段ボールハウスが破壊された以上、翠川さんに頼るしかなかった。