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第1章 第1話 何もない場所

「ここが桂来学園……」



 先生と進路の話をしたのが去年の5月だったから、だいたい13ヶ月くらいか。友だちがみんなお前には無理だと言う中、見事に俺は高校に進学を決めていた。



 ここが俺が3……年間でいいんだよな? 過ごす学校。遠くからでもよく見える超高層ビルが二つ並んでいるのが印象的だ。



 確か先生がそこらの区と同等の広さがあるとか言ってたっけ。さすがは実験学校。まったく意味はわからないが、とにかくすごいのだろう。



「新入生の方はこちらで受付してくださーい」



 荷物の入ったキャリーバッグを引きずりながら馬鹿でかい門を通ると、さっそく先生らしき人から声をかけられた。長机に置いてあるのは大量のスマホとタブレット。もしかして入学祝いというやつだろうか。だとしたらめちゃくちゃうれしい。



「お名前をこちらに書いてください」

「はいはーい」


「……なんでひらがな?」

「こっちの方が早く終わるじゃないですか!」


「……まぁ、こういう子も来るか。はいじゃあこれ、スマートフォンとタブレットをお渡しします。詳しい使い方は教室で教えてもらってください」

「あざっす!」



 それにしても俺も馬鹿にされたもんだな。スマホの使い方くらい俺にだってわかる。こっちは授業中も使ってたんだぞ。たぶん使用時間で俺に勝てる高校生など存在しない。



「それとこれ、あなたの教室と寮の位置が書いてあります」



 さっそく立ち去ろうとする俺を引き止め、先生が学校の地図が書かれたプリントを渡してくる。



「1年……Z組?」



 えーとアルファベットが確か28個あってZはそれの最後から二番目だったはずだから……めちゃくちゃクラス多いな。まぁこれだけ広いんだ。不思議でもないか。でもこの地図……。



「ここって教室じゃなくないですか?」



 地図に書かれている大きな黒丸は、敷地の隅。何もない部分に打たれている。しかも一つしかないし……俺の見方が間違ってるのか?



「行ってみればわかりますよ。いえ、Z組の生徒にはわからないかもしれませんね。とにかく教室に向かってください」



 しかし先生は何も詳しいことは教えてくれず、次の新入生の相手をし始めた。



 仕方ないので黙って受け止め、俺はバスに乗り込む。さすがは街並の広さの学校。こういうものがあるらしい。



 そしてバスに揺られること約15分。ようやく「1年Z組前」という表示が出てきたのでそこで降りる。



「ここ……?」



 やっぱり俺の地図の読み方は間違っていなかった。ここには古びたバス停と敷地を分ける壁があるだけで、他には何もない。強いて言うなら木々に囲まれた地面があり、そこに15人ほどの制服を着た生徒がいた。



「どうもー……」



 とりあえずその集団の後ろに並び、様子を窺ってみる。……それにしても、少しガラが悪いな。



 髪を染めている奴に、ピアスがついている奴。約半数はそんなザ・不良みたいな風体をしている。残り半分は真面目っぽい感じがする。これが高校ってやつなのか。



「……お」



 誰とも話さずボーっとしていると、木々に隠されていたスピーカーから音割れした鐘の音が響いた。これが朝礼の合図だろうか。



「み、みなさん、はじめましてっ」



 その鐘の音が終わる頃、到着したバスから一人の女性が走ってきた。顔立ち的には高校生……下手したら中学生に見えるほど幼くかわいらしいけど、スーツを着ていることから教師だということがわかった。



「1年Z組の担任になりましたっ。南風花(みなみふうか)と言いますっ。みなさんと同じ新入生……教師になったばかりなので、よろしくお願いしますっ」



 俺たちの前に立ち、がばっ、と腰から頭を下げた南先生。こんな一生懸命挨拶してくれたのに誰も何も言わないので拍手をして出迎えてあげると、周りからちらほらと拍手の音が鳴り始めた。



「せんせー、早く荷物置きたいんすけどー」



 小さな拍手の中、前の方からギャルっぽい女子の声がする。失礼ではあるが、その気持ちは俺も同じだ。



「あー……そっか。Z組だもんね。説明なんて聞いてるわけないか」



 その声を聞いた南先生は、なぜだか困ったように頬を掻いた。そういえばZ組だからってどっかでも聞いたな……。誰だっけ?



「桂来学園は頭脳こそが全てだって話はさすがに聞いてるよね?」



 必死に思い出していると、南先生の鈴のような声が響いた。



「だから入試の成績でAからZまでクラスが割り振られてるの。頭がいい子がA、悪い子がZね」



 へー……。つまりZ組の俺たちは物凄い馬鹿だということか。まぁそれは事実だし別にい……。



「頭が悪い子にまともな家や環境は必要なのかな?」



 声色自体はさっきまでと何一つ変わらない。それでもなぜだかその声は鋭く、俺たちを突き刺すように感じられた。



 たぶん、人間の防衛本能だろう。本能的に、命の危機を感じたんだ。だって、



「この何もない場所が、みなさんの家と教室になります」



 俺たちはホームレスになってしまったのだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これから読みます [気になる点] 主人公に関しては馬鹿っていうか知恵遅れwww
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