第1章 第17話 それぞれの戦い方
「Z組! 今から勉強会よっ!」
入学式……の後のクラス替えゲームの説明を聞き、宿舎兼教室の広場まで戻ると、斬華が前に立ってそう指示を出した。クラス替えゲームの仕様的に、上に上がるには勉強は必須条件。だが、
「なんで授業以外で勉強なんかしなきゃいけねぇんだよ!」
「お前らがいればX組までは行けんだろ?」
「俺たちが多少がんばったところでたいして変わんねぇよ!」
クラスメイトたちに応じる意思はない。俺も同じだ。斬華には悪いが勉強なんてしたくない。多少不便な生活を強いられたとしてもだ。
今月ばかりは0ポイントな以上お世話になるしかないが、たぶん来月のテストでは多少のポイントはゲットできる。今回は中学までの全てが範囲だった。でも来月は4月分だけ。カンニングができるかはわからないが、一夜漬けでそれなりに何とかはなるだろう。
「……凧さん。あなたも協力して」
周り全てから拒絶された斬華は、ホテルへの帰り支度をしている奈々に矛先を向ける。
「どうして? 私にあなた程度の指導は必要ないと思うけれど」
「あなたにも指導側になってほしいの。このクラスで10万ポイントを超えられたのは私、龍華、あなただけ。この3人で残り12人を見る。これが勝利への唯一の道よ」
まぁ……そうだろうな。上に上がるためには。
「どうして上のクラスに上がらないといけないの?」
奈々が上のクラスに上がる必要性はない。
「どういう……こと?」
「単純よ。私がこの学校に入ったのは、自由な一人暮らしをするため。そして現状それは達成している。これ以上上がらなくても構わないわ」
「あなたはよくてもみんなは……! それに今後はホテル暮らしを控えてもらわないといけない。ポイント節約は何よりも必須よ」
「なんで貢献している私が責められないといけないの? いい? Z組総ポイント118万の内3分の1以上は私のポイント。あなたは私に逆らえない。上のクラスに行きたいのならね」
何言ってるかはよくわからないが、たぶん奈々の方が正論だ。まぁ斬華も間違ってはないんだろうけど……。
「それと。今回のイベントの意味、わかってないのね」
「イベントの意味……?」
「考えなくてもわかるでしょう? この催しはありえないくらいに理不尽。人数が多い中間層は何もしなくても上に行けるんだから。不利なのは人数が少ない上位層と下位層。でも学校的に大事なのは上位層でしょうね。おそらくは入試で高得点をとり、調子に乗っているA組B組の鼻を折るのが目的。努力を怠るなってね。だから今回は学校から見捨てられた私たちには絶対に勝てないイベント。諦めた方が賢明よ」
「だからって……!」
「10万ポイントは残すからそれで我慢しなさい。それと自主的に勉強はする。だからまぁ私のポイントは……60万~70万程度。それが私のできる協力。勉強する気のない人に教えるなんて無駄なこと、考えることすらしたくないわ」
「でも……みんなを……私が……!」
たぶんあれがお互い納得することはないだろうな。片や個人の正論と、片や全体主義。相容れない正義というやつだ。意味はよくわかってないけど。
「蓮司くん……こっちこっちっ」
とりあえず俺まで怒られそうだから逃げようと思っていると、龍華が木の後ろから手招きしていた。
「……なに? 庇ってくれる……」
「蓮司くん……」
他の人たちには見えない木の陰に呼び出し、龍華は。
「自分で言うのはなんだけど、わたし。結構かわいいと思うんだ」
俺の腕を掴み、自分の胸に押し当てた。
「え、えと……!?」
「身長は154しかないけど……スタイルにも、自信ある」
顔を赤くし、一言一言確かめるように言葉を紡ぐ龍華の奇行に、俺はただ身を委ねることしかできない。なんだこれご褒美か!? なんのっ!? とりあえずものすごい幸せっ!
「顔も……親も知らないのに、助けてくれた人なんて、蓮司くんが初めて。すごいうれしかった」
「それは……どうも……」
「……だから、蓮司くん」
一瞬迷いのような表情が見えたが、それでも龍華は言った。
「わたしと……付き合ってください」
「いいんですかぁっ!?」