第1章 第12話 勧誘
「そこら辺適当に座っていいからね~」
一度外に出てA組寮をエレベーターで昇り、23階の一室。永夢さんは俺たちをやたら高そうなソファーとテーブルしかない部屋に案内すると、ソファーに座るよう促した。
「すげーふかふかっ!」
「外村くん……!」
斬華、俺、龍華の順でソファーに座り、その弾み具合にテンションを上げていると斬華に注意されてしまった。ちなみにさっきのは嘘。俺だけがソファーに座り、2人は永夢さんが座るのを待っている。
「あはは別にいいよ~。リラックスしてて~。あ、頼みたいものあったらそこのタブレットで頼んでいいよ~。A組のルームサービス~」
「いいんですかやったぁっ!」
「外村……!」
今度はタブレットに伸ばした手を叩かれてしまった。結構痛かったんだけど本気だったな!?
「それで……永夢さん。外村くんを生徒会に誘った理由を教えてください」
さっきまでとは別人のようなほんわかした顔で簡単な掃除を終えた永夢さんがソファーに座った数秒後、斬華がソファーに腰をかけて訊ねる。その当然な疑問に永夢さんは。
「永夢ね~。ギャンブルが好きなんだよ~」
俺でもわかるくらい的外れな答えを返した。
「……と言うと?」
「ほら~、現実って色々しんどいじゃない? でもギャンブルをやっている時だけは現実を忘れられる。まるで永遠の夢の中にいるみたいに。今では好きが興じて賭場も経営してるんだ~」
んー……わからない。しかも俺だけでなく龍華たちもわかってなさそうだ。これはお手上げ。でもとりあえず、
「ギャンブルは法律違反なんですよ!」
「ざんね~ん。賭けるのはお金じゃなくてポイントだから問題なしで~す」
「なるほど! パチンコみたいな逃げ口ですね!」
「なんでこんな時だけ察しいいのよ……」
珍しく褒められたのはいいが、考えてみると話が一つも進んでいないことに気づいた。やるなこの人……!
「で? ギャンブルと俺に何の関係が?」
「まぁまぁ落ち着きなよ~。ちゃぁ~んと順番に話してあげるからさ~」
のんびりとした口調と動きでテーブルの上のタブレットを操作し、画面に映っている飲み物とお茶を適当にタップした後送信ボタンを押す永夢さん。これやるとたぶんスタッフさんが後で持ってきてくれるんだよな……。A組すげぇ。
「ギャンブルってさ~大穴狙いが一番アツイと思わない~?」
順番に話すとか言っといてまた話逸れたぞ。たぶんだけど。
「生徒会は各学年に5人。決め方は現生徒会10人がそれぞれ1人ずつ指名してからの選挙なんだけどさ~。1年のA組ってちょうど5人なんだよね~。だからたぶん3年生徒会がA組独占しちゃうと思うんだよ~。そうなるとB組以下から探さないといけないんだけど~。まぁめんどくさいんだよね~」
まずい。話がほとんど理解できない。
「だから待つことにしたんだよ~。普通やらないであろうA組棟への侵入を試みる子を~。そんなリスキーな発想をする子が上位組にいるわけないから自然ギャンブルになるんだけど~だからこそアツイっていうかぁ~。ふふっ、思った通り激アツな子が来たよね~」
「つまり俗な言い方になりますけど……ワンチャン狙い、ということですか?」
「ん~。概ねそんな感じかな~」
「あの……怖い感じは……」
「あ~あれちょっとしたどっきり~。ほんとは教室棟に入ること自体は誰でもおっけーだよ~」
だが斬華や龍華はしっかり理解できているのかきちんと会話が成立している。じゃあいいや。2人に任そう。
「で、どうかな~。永夢としては君みたいなアツイ子を指名したいわけだよ~。自分が指名した子が当選したらボーナス入るし、永夢を助けると思って了承してくれないかな~?」
と思ったら直接俺に来やがった。話ほとんど理解できなかったんだよなぁ……。
でもずっと。答えだけは決めていた。だから素直に永夢さんに言葉を返す。
「ごめんなさい。普通に嫌です」
俺は生徒会に入るつもりなどさらさらなかった。