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【外伝追加】傷ついた心を癒すのは大きな愛  作者: 雪本 風香


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デート3

 食事代は武史が出した。

「茶碗のお礼や」

 遠慮していた千尋もそう武史が言うとあっさり引き下がった。

 その足で再び販売所に戻り、千尋がさっき買ったお皿と同じものをもう一枚ずつ購入する。

「俺のやから、自分で出すわ」

 そう言い、こちらも武史が出した。



「料理作るのが楽しみだなぁ。作りすぎないようにしないと」

 動物園へ車を向かわせている車中で千尋がウキウキとした様子で話す。

「ようけ作っても食うから、気にせず作ったらええ」

「ダメだよ。タケちゃんが沢山食べてくれるからつられて食べちゃって……。こっちに来てから2キロ太ったもん」

 武史はチラリと千尋に目線をやると、気にするな、と言う。

「元が痩せすぎやけん。こっち来たときに1人前もよう食べよらんかったやろ。もっと太ってもええくらいや」

「やだよ、これ以上太るの」

 千尋はふぅ、とため息をつく。武史の指摘の通り、こちらに来た当初は柳田のこともあり、食が細かった。

 直前まで入院していたこともあり、心身ともに弱り果てていた。

 退院して、武史と同居し始めて3ヶ月と少し。桜が咲いていた頃だった季節も、もう夏の訪れを感じられるようになっていた。

 そして、それに伴って少しずつ柳田のことを思い出にしていきたいと思うようになっていた。


(タケちゃんが全部吐き出させてくれたおかげだよ)

 まだ柳田のことを思い出すと胸が痛い。それでも前向きに生きていけるのは、今隣にいる2つ下のはとこのおかげだった。

「ありがとね、タケちゃん」

 何に対しての感謝かわからないが、武史は答える。

「なんもしとらんよ、俺は。したいようにしとるだけや。だから千尋が気にせんでいい」

 武史らしい答えに千尋は笑顔になる。

「タケちゃんが親戚でよかった」

 そのセリフは、千尋に対し親戚以上の感情を持っている今の武史には少し切なく響いた。

「俺もや」

 心の動きを察せられないように短く答えて話を逸らす。

「そろそろ動物園つくけん」

 助手席でウキウキしだした千尋に気付かれないように、武史はそっとため息をついた。



 平日のため空いていたこともあり、千尋は童心に返ったように園内をはしゃいで回る。

「ペンギンにエサやってもいい?」

「見てみて、あのお猿さん、タヌキの背中に乗ってるよ! かわいいね」

「オスライオン、3匹もメスライオン侍らしてハーレムだよ!」

 テンション高くはしゃいでいる千尋を見て、武史も笑顔になる。

(こんな顔もするんやな)

 想像以上に満喫している千尋を見て、一緒に来れてよかったと思う。


「ねぇねぇ、タケちゃんはどの動物が好きなの?」

「俺か? なんやろな。キリンとかゾウとか好きやけどな」

「キリンかぁ。虎じゃないんだ」

 意外そうな顔で武史を見る。猫の名前がトラだったから、てっきり虎が好きなのかと思っていた。

「トラの名付けは秀樹んとこの子どもや」

「大樹くん?」

「そうや、元々大樹が拾ったんや。秀樹んところは当時賃貸やから飼えんから、俺が貰ったんや」

「そうなんだ。だから大樹くんによく懐いているんだね」

「俺のことはメシくれるオッサンくらいにしか思っとらんからな、トラは」

 少し拗ねたような口調の武史に千尋は吹き出す。

 トラはエサをねだる時は千尋ではなく武史の方に擦り寄って行く。武史が一番トラのおねだりに弱いとわかっているのだろう。

 足元でニャーニャー泣くトラに根負けして、煮干しをやっている姿をよく見る。

 煮干しを食べたあとは、さっきまでまとわりついていたのが嘘のように素っ気なく去っていくトラ。

 その姿に寂しそうにこっそりため息をついている。

 背も高くガッチリした体型の武史が肩を落としている姿は、どこか哀愁が漂っており、千尋はその姿を見かけるたびに愛らしくて笑ってしまう。

 武史もらしくないと自覚しているのか、少し照れたような口調で「またトラに振られたわ」と言うのがお決まりだ。

 そのことを思い出して笑いが止まらなくなった千尋に武史は「笑うなや」と更に口を尖らす。

 その顔にますます千尋の笑いは止まらないのだった。



「千尋は好きな動物おったん?」

「うん、いたよ。レッサーパンダ」

「レッサーパンダ……? あぁ、立ち上がるやつか!」

「よく覚えているね。ここのは立たないと思うけど」

 千尋と武史が子どもの頃、ブームになった2本足で立ち上がるレッサーパンダ。

 一斉を風靡したレッサーパンダだったが、ブームが去ってからも千尋はずっと好きだった。

「好きならもう一回見にいこか?」

「いいの? やった!」

 今にも飛んでいきそうな千尋を宥めながら、二人で連れ立ってレッサーパンダの宿舎に向かったのだ。



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