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黒く長い髪を風になびかせて、その人はこちらに歩いて来る。その後ろには、例のぶよぶよしたスライム。
ここからでも分かる高身長ぶり…。なるほど、これがマーメイドドレスを着こなせるスタイルか。
感心しているうちに、ついに目の前まで来た。すごく見下ろされてる。物理的に。私が155だから、180はゆうにある。圧を感じるけど、怖いとかは思わなくて、むしろ綺麗で見惚れちゃいそう…。
「君が、桃か。…うーん、確かにこの世界とは別のところの匂いがするね。」
高すぎず低すぎず、落ち着いた声。聞いててここちよくて、眠くなりそうな…。とにかく、イケボ。
こんな変なところに来ちゃったけど、ちょっといい思いできたな。
って、そうだよ。私変なところに来ちゃったんだよ!
「あの、ここは?」
思い切って聞いてみる。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の迷子…!
「…魔法が使える異世界だよ。」
「え?」
魔法だって、魔法!これで憧れの魔女っ子になれちゃうじゃん。やったー!
ってなるかァ!!
異世界?確かにスライムと会話できるし、みたことない土地だし、遠くに見えるお城の感じとかそうだけど、そんなことありえるの?
「ここは異世界として時を刻みつつ、君みたいに軸から飛ばされた人を受け止める場所でもある。」
「軸…ってことは、パラレルワールド?」
急にSFに巻き込まれちゃったぞ、どうしよう。私、理科は点数ボロボロだぞ☆…積みじゃん。
「パラレルワールド…とは、違うんだけどね。」
「異世界だよー。君たち人間が住んでる世界とは、別の世界ー。」
難しい話だ。でも、ひとつ分かったことがある。私ひとりじゃ帰れない。
「どうにかして帰れないんですか。ここにずっといる訳にはいかないから。」
必死の訴えには首を傾げられる。
「ここらで現実に戻れたって話は聞いたことないな。」
「そんな…。」
ショックだよ…。何この片道切符、いらないよ。
もし本当に帰れないとすると、余生の60年余りをここで過ごさなきゃいけないってことでしょ。知り合いなんているわけないし、どうしよう…。