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真っ白な世界に包まれたまま、しばらくの時が過ぎた。体に痛みはない。むしろふわふわとして気持ちいい。
のんか浮いてるみたいだし、このままでもイイかも…。と、楽しくなってたのに、体が急な落下を始める。ジェットコースターで急降下するあの浮遊感。やばいやばい、これ、死んじゃうんじゃない?あれ?死んでたんだっけ?いや、そんなこと考えてる場合じゃない!
霧みたいな白いモヤの中をぐんぐんと落ちていき、遠くにぼんやりと湖が見えてきた。はっきりとしないけど、透き通った水色に太陽光を反射したキラキラがみえるから、多分そう。知らん!…ってダメだよ、私泳げないじゃんっ。
「きゃぁぁぁ!」
出せるだけの悲鳴を出しておく。誰か気づいて。そして、助けて!
でも、誰かがいる気配もない。あぁ、ダイブするしかないのか。なんかの力で泳げますように。
普段は信じもしない神様に命乞いをしてから、目を閉じて体全体でダイブした。
「うわっ!…ぁ、う…。」
溺れて、死んだ!…と思ったけど、生きてる。それどころか溺れてもないし、体も痛くない。
目を開けると、ぶよぶよとした何かに落ちたってことが分かった。湖じゃなかった。
「重たいよー。どいてよー。」
少年みたいな声が、自分の体の下から聞こえる。
「あ、ごめん!今退くから。」
慌ててぶよぶよの物体から離れようとするけど、体重をかけた所が沈み込むから上手く動けない。ぐにょんぐにょんとさせながら、最後はみっともなく転がるようにして地面に降りた。
「もー。びっくりしたよー。」
声のする方を向くと、私の背丈ぐらいの大きさもあるスライムがいた。透き通りすぎて向こうが見えそうなぐらい綺麗。…みえないけど。
ていうか、スライムが喋ってる?
「ねーねー、君だれー?」
遠慮なく話しかけてくるスライムは、グニョグニョと動いている。気持ち悪くはない。けど、不気味…。
「私、桃って言います…。あの、ここ何処ですか?」
久しぶりに使う敬語。なんか怖くてタメ口なんて使えない!
「桃って言うんだー。ここは、城下町のはずれ。」
スライムはそこまで言うと、黙り込んだ。動きも止まった。
「あれー、桃は人間?」
スライムの問いかけにゆっくり頷く。え、なにかマズイのかな…。似て食われて終わる人生なんかやだよ?
「そかそかー。」
スライムはそのままぶよぶよと移動を始める。近くで見てても威圧感が凄いけど、動くとさらにだ。
何も言われてない私はそこにへたり込む。
城下町ってどこ?スライムが喋ってるんだけど。人間かどうか確かめるって、別の何かがいるってこと?いやいや、もう理解が追いつかないよ…。
「帰りたい…。」
帰り道とか分かんないけど、今はとりあえず帰りたい。
スライムが去っていったほうには、木材とかで出来た簡素な家がある。魔女とか出てきたら泣く。
ひとりじゃ何も出来ない私は、そこに呆然と座っていた。あー…神様、夢なら早く覚めてください。
静かな芝生の中で、ガチャリとドアが開く音がした。あの家だ。じっと見ていると、スライムが窮屈そうに扉から出てきた。そのおくに、人影が見えた。