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私は説教喰らわなくって良かった。けど、説教喰らった友達を待ってたら日がほとんど落ちてしまった。
「話長い。だるかった…。」
靴を履きながら、友達はぼやく。顔がやつれてるのは気の所為じゃないんだろうな。
「おつかれ〜。」
スマホをカバンにしまって、玄関から靴箱の前までの短い道のりをお迎えにいく。
「先生もあんなに怒ることなくない?それよか寝てる奴起こせっての。」
友達はかなりご立腹。
「それは私も思った。」
寝てる奴起こせって言ってるけど、あんたも寝てたじゃないか。でも、寝てる奴怒ってたらずっと授業進まないんだろうな。
「気分最悪だよ。ねぇ、どっか甘い物食べに行かない?」
「いいよ。」
二つ返事で了承する。結構待ったからお腹もぺこぺこ。アイスよりクレープとかのほうがいいな。
「どこ食べに行きたいの?甘い物でしょ。」
歩はクレープ屋さんの方へ向けつつ、とりあえず聞いてはおく。最近出来た新しい所がすごく美味しいらしいんだよ。流行りに乗って儲けようする所は値段高いけど、そこは良心的な価格設定なんだって。
「……ラーメン。」
「はぁ!?」
やっば、素がでた。
ていうか、ラーメンって。甘い物のフィルターどこいったのよ!
「なんでラーメンなの?デブ活じゃん。甘い物食べたかった私のわくわく返してよぉ。」
行きたかった方向と逆にずんずん歩き出してく友達。確かにお腹は空いてるけど。
「なんかむしゃくしゃしてるから、やっぱり腹満たしたい。」
「えー…。」
言葉も汚くなっちゃってるし、可愛さ半減だよ。
「待ってよー。」
小さい段差でこけかけながら、友達の後を追う。ワガママだな…と思いつつも付き合う私は物好きなのかも。なぁんてね。
「そのお店って近くにあるの?」
「歩いて行けるから近いんじゃない。」
「なら、いーけど。」
そういうお店はあまり詳しくはないけど、友達によく連れてかれたりはするんだよね。ラーメン屋行くって言われてこの方向に向かったことはないから、まだ行ったことないお店のはず。流石に迷わないでしょ。
お説教された愚痴とか、別れた彼氏の話とか、昨日のドラマの話をしながら歩いていく。中学生でもしてるような、そこら辺に吐き捨ててしまえる話ばかり。でも、くだらない日常こそ至福。歩いてるうちに暗くなってきたけど、絶えることなく話し続けた。
「あ、そういえばさ、絵、見たよ。」
お腹を抱えて笑ってた私は、急に自分のことを話題に出されて驚く。
「部活のやつ。飾られてたの見てきたよ。」
美術部のやつだ。ついこの間、展覧会から返ってきたのを廊下に貼ったから、それのことだよね。見られたのかぁ…。目に付くところに飾るんだから、当たり前だけど。
「大した絵じゃなかったでしょ。」
私は自嘲気味に言う。これは謙遜とかじゃなくて、本当に。なんか悲しくなっちゃうから。
ふと、頭をよぎる光景。展覧会の会場。色んな絵を色んな人が見ていた。部活のみんなで見て回ったんだ。自分たちの学校の前に来ると、やっぱりそわそわしちゃって。先輩に呼ばれて、自分の絵を見つけた。先輩と私の絵は隣同士で並んでた。私のひまわり畑の絵の隣で、先輩の一輪のひまわりが太陽の光を浴びて輝いていた。それが、今の自分と先輩そのものみたいで、しばらく動けなかった。私のひまわりたちは、みんな脇役になってしまったんだ。
「私は嫌いじゃないけど。てか、アレで金賞とか取れないの?」
そうやって言われると悪い気はしないけど、困っちゃうな。
「うーん…そうだね。先輩の方がめっちゃ上手いし。」
どうやって返そうか頭を悩ませてしまうのは、負け惜しみなのか、事実を受け入れられないからなのか。
「じゃあ、あたしが金賞あげる。てことで、今日の分は私が持つよ。」
突然の提案にすぐ反応ができなかった。
「え、いいの!」
友達の方を見ると、凄くいい笑顔をしてた。普段はきっちり割り勘譲らないケチなのに。
「いーよ。感謝してちょ。」
あほだし、人使い荒いし、ワガママだけど友達でいられるのは、こういうとこなのかなって思う。
「ありがとう。」
素直にお礼を言うと、意外だったみたいな顔で見られる。それこそ心外だよ。
お互いに笑うと、目の前が急に眩しくなった。
視力を奪ったのはトラックのヘッドライト。歩道も車道も関係なく突っ込んでくる。友達が避けてって叫んだ気がする。あれ、私だけ巻き込まれちゃう感じ?駄目だ、避けれない。
なんとか顔を上げた先に、友達が見えた。ほんの少しの光の隙間から覗いた表情は、驚きと恐怖と焦りでぐちゃぐちゃで、可愛くなくなっていた。もったいないよ、笑って笑って。
あー……サヨナラなんだね。
視界は真っ白になって、もう何もわかんなくなった。音も温度もなくなった。