第四話
少しして探索者のカードが完成した。
カードを受け取ると記入された内容を確認する。
名前 :フォルト
年齢 :15歳
性別 :男
スキル :登録無し
魔術 :登録無し
迷宮踏破状況:
紙に書いて提出した内容の通りの内容だ。
「ちなみに探索者については何処まで知っているかしら?」
カードの中身を確認していると声をかけられた。
知っている内容と言えば、冒険者を行っている時に聞いた話しくらいで詳細については知らない。
「3年以内に何処かの迷宮の踏破。もしくは、2年以内に深淵の迷宮の20階層攻略と合わせて3年以内に30階層攻略。そのどちらかが達成できないと、二度と探索者登録できない……ってこくらいは知っているけど……」
「概ねそれを覚えてもらっていれば大丈夫よ。後は、人として問題があるような事をしなければ特に問題ないわ。仮に探索者同士で揉めても余程の事が無い限り介入しないから、揉め事には注意して欲しいわね。ただし、場合によってはそれで探索者の資格の剥奪もあり得るから……剥奪された場合は二度登録できないから注意して。拠点を変えても剥奪された場合は個人の魔力が登録されているから、それのせいで登録できなくなるからその時は諦めてちょうだい」
「……わかった。ちなみに迷宮で手に入れた物の買い取りはこの受付で?」
「ええ、素材の買い取りから依頼の斡旋。探索者の登録。必要なことは大体ここで済ませる事ができるわ。それとそのカードの事なんだけど、探索者協会に登録されている迷宮であれば踏破情報が自動的に記録されるようになっているから、それがあなたの探索者としての格付けにもなるわ」
遂に念願の探索者になれた。にやにやとにやけてしまう。
周りから見たらおかしな奴に思われるかもしれないが、今はそれも気にならないくらい気分がいい。
それこそ、スフィアと呼ばれる女に言われたことが気にならない程だ。
さて、登録も終わったしこれからどうするか……
一旦受付から離れるとこれからどうするか考える。
時刻は昼過ぎと言った所か。
せっかくここまで来たのだから、少しだけ迷宮に潜ってみることに決めた―――
―――迷宮への入口に到着すると、探索者が列を作り並んでいた。
次々と迷宮の中へ入って行く探索者達。
冒険者時代に聞いた話だと、深淵の迷宮はパーティーを組んでない者たちが同時に入っても別々の所に出るらしい。
詳しいことはわからないが、同じ迷宮であって違う空間に行くのだとか。
他の迷宮ではそんなことはないらしいのだが……そのお陰で、殆どの場合は他の探索者と会うこともなく迷宮攻略を出来るとのこと。
列の最後尾に並んでいた俺だったが、あっという間に順番が回ってきた。
「坊主、カードを見せて貰えるか?」
迷宮の入り口に立っていた厳ついおっさんにそう言われ、先程登録したばかりのカードを見せた。
「登録したばかりのニューピーか……」
「ニューピー? なんだそれ?」
聞き慣れない単語に俺は疑問を返す。
「お前みたいに、探索者として正式に認められてない者の事だ。探索者として残る為の条件を満たして正式に探索者として一人前って認められるんだよ……まあ、まだ半人前ってことさ」
半人前と言われて少しムッとしたが、事実だからしょうがない。先程のように感情的にはならないが、表情に出ていたみたいだ。
「まあ、そうカッカするな。そんなんじゃ早死にするぞ。とりあえず話はここまでだ、長話ししてたら他の奴にも迷惑がかかるからな―――ただ、一言だけ言わせてくれ……死ぬなよ?」
どいつもこいつも俺がそんなに簡単に死にそうに見えるのだろうか?
「……大丈夫だ。そんな簡単に死ぬつもりはないさ」
そんな返事を返すと、「よし行ってこい!」、そう言われ初めての迷宮へと足を踏み入れた。
迷宮の中は外に比べるとひんやりとして涼しかった。床も天井も壁も石で出来ている。
光源は壁の所々に嵌まっている緑色に光る石のみ。通路も狭く決して視界が言いとは言えない。
松明の一つでも持ってくればとも思ったが、片手が塞がる事を思えば別の方法を考えるべきだろう。
俺は慎重に足を運ぶ。
「これは想像以上に疲れるな……」
慣れない迷宮の探索は体力を急激に奪っていく。
いつ魔物に遭遇するかわからない。それに、隠れる所も少ない。
通路も狭ければ、1度に複数の魔物に出会ったら逃げるのにも一苦労だ。
俺は五感を最大に使って索敵する。
「グギャ、ギィッギッ」
「ギャッギャギャ」
通路を右に曲がろとした時に声が聞こえた。この声は―――ゴブリンだ。
甲高く黄ばんだ汚い声、見た目も醜悪。
頬まで裂けた口からはギザギザの鋭い歯が飛び出している。そしてその体臭は生ゴミが腐ったような悪臭。1体1体は大して力が無いため、初心者冒険者の最初の相手がゴブリンと言う人は多い。
これで妖精の仲間と言われているのだから、妖精からしたらたまったものではないだろうな―――ちなみに俺はゴブリンが嫌いだ。
目に着いたら即抹殺。
視界に入れるだけで走る嫌悪感。
話し声ですら耳障りに聞こえてしまう。
この世で最初に絶滅させたい魔物と聞かれたら真っ先にゴブリンと答える。
それ程までにゴブリンが嫌いなのだ―――その執念深さで命を狙われること数知れず。弱りきっている獲物を横取りされ、しまいには寝ている時に盗みまでされる。
そして、極めつけはその繁殖力だ。
全滅させたと思った次の日に悠然と森を歩くゴブリンの姿を目にした時は目を疑った。間違いなく巣は壊滅、入念に内部を調べ、周囲も調査した。
だが――駆逐した筈のゴミ共は悠然と歩いていた。惨劇が合ったことを感じさせないくらい普通にだっ!
そんな害虫のような存在がすぐ側に居る。その事実に……
「―――ちっ!」
頭に血が昇り舌打ちが出てしまう。
奴等を駆逐するべく右手にナイフを握った。長年使っているため、手に馴染む。
その事で荒ぶった心が少し落ち着いた。
ゴブリンと言えど油断できない存在。俺は慎重に行動する。
左手で地面に落ちている小石を拾うと、ゴブリンを誘き出すために小石を投げた。
その音が静かな迷宮の暗闇にこだまする。
「ギィ?」
一体がうまく反応したようだ。こちらに向かってゆっくりと近づいてくる足音が聞こえた。
徐々に近づいてくる足音に生唾を飲み込んだ。
ペタペタと歩いてくるその足音。俺はナイフの柄を強く握りしめる。
足音が目の前まで来るとすぐにそいつは姿を見せた。
こちらに気づいてない様子のそいつ。その背丈は6歳児のそれと変わりない。肌も人のそれとは違い緑色をしていた。通路に漂ってくる悪臭に鼻が曲がりそうになるが、それを堪えると右足に力を入れ一歩踏み出す。
「ギギッ―――!」
こちらの存在に気づいたようだが遅い。
俺はナイフをゴブリンの喉にめがけて繰り出した。その金属の物体は肉を切り裂き深々と突き刺さる。肉を切り裂き骨を断つ、その感触に顔をしかめるがその動きを止めたりしない。
間髪入れずに腰に付けてあったもう一本のナイフを引き抜くと少し離れた所にいるもう一体のゴブリンへと投擲した。牽制目的で投げたそのナイフは、偶然にも額に突き刺ささりうつ伏せに倒れふした。
「―――よし、倒したか……」
一瞬で終わった攻防だったが、命のやり取りに一気に体力を奪われてしまう。たかがゴブリン2体だったが何が起こるかわからない。俺は奇襲と言う形で仕留めた。
最初に仕留めたゴブリンからナイフを引き抜くと、床にじわりと紫色の花弁が花開く。
その物言わなくなったゴブリンを仰向けに倒し、左の胸を切り裂く。
人間で言う心臓部分に手を入れるとその中をまさぐった。
まだ、死んだばかりで体の中は暖かかい。それが余計に不快感をもたらすが我慢してかき回す。
すると手にコツンと硬い感触を感じ、俺はそれを掴むとそのまま外に手を引き抜いた。
「うぇ……こればっかしはいくらやっても慣れないな……」
魔石を取り出した俺はその右手に握られているそれを見つめながらそう呟いた。