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第三話

 川から出てすぐに、街道に戻ると目的地に向けて歩みを進めた。

 目的地が近くなるに連れて、護衛を雇った行商人や冒険者と思われる鎧や武器を持った屈強な者達とすれ違う事が多くなる。


 「おい、見てみろよ。あいつ今にも死にそうじゃないか……?」


 「うわっ! 本当だ! 今にも死にそうな不幸そうな面してやがる」

 

 「ねえねえっ! あれ見て!」」


 「えっ? なーに……って、何あれ……ここに来る間に盗賊にでも襲われたのかしら……可哀想に」


 これからの自分の未来に思いを馳せていると、すれ違う人から俺を憐れんだような声が……


 「うわっ……不幸が移りそう……近づいてくるなよ」

 

 「みすぼらし……お前はあんな風になるんじゃないよ?」


 「はーい、ママ。でも、何であの人あんなに汚いの?」


 「これ! 指を指すんじゃない。不幸が移るわ」


 中には陰口のようなことを言ってくる人も……

 傷つくからそう言うのは本人の聞こえない所で言って欲しいな……

 不幸そうなのも、死にそうなのもよく言われるけどさ。言われて嬉しくないんだよ? 分かる……?

 足早にその場を立ち去ると少し駆け足で目的地へと向かう。


 「もう少しで森を抜けるか?」


 地図では確かもう少しだったはず。そのまま、5分ほど道なりに進むと森を抜けた。

 ようやく目的地が見えてきた。

 まだ少し距離はあるもののその姿に目を見張る。


 「―――すごい……」


 街を覆うような大きな壁。凶悪な魔物が襲って来てもちょっとやそっとじゃびくともしないだろう。

 その大きな壁には城塞兵器が所狭しと取り付けられている。

 要塞のそれと変わりない姿にも驚かされたが、何より驚かされたのは、その国の象徴たる迷宮の存在だった。


 街の中心から天を貫く|巨人(塔)が立っていた。

 話には聞いていたが、その姿は俺の想像を遥かに越えあまりにも異常な存在だった。

 神話の巨人を彷彿とさせるそれの天辺を確認しようと視線を上に動かすが、雲の向こう側へと続くそれの存在を確認することは出来なかった。

 

 俺は圧倒されながらも、何処か興奮している。

 その証拠に歩いていた足は徐々に早くなり、その速度は走っている時とさほど変わらない速度へとなっていた。


 「着いた……」


 目的地の門の前へと到着した。

 そこには、槍を片手に竜を基調とした金色の模様が胸に刻まれている鎧を着た屈強な門番が目を光らせていた。

 恐る恐るその脇を通ると、入国するための受付があった。

 その受付へと足を運ぶ。


 「迷宮国家ロートレアへようこそ。何かご自分の身分を証明できる物はございますか? もしお持ちでないなら、銀貨1枚を徴収させてもらいます」


 受付に行くと丁寧にそう言われた。

 俺は慌てて冒険者カードを取り出す。


 「……冒険者4級のフォルト様ですね。その若さで4級……凄いですね」


 受付けの女性の笑顔。褒められて、俺はちょっぴり照れ臭かった。


 「っと、すいません。話が逸れてしまいましたね。入国の目的を教えていただいて貰ってもいいですか?」


 「探索者に登録しにきた」


 俺ははっきりそう告げる。


 「フォルト様のような優秀な方は大歓迎です。探索者協会はここを出て真っ直ぐの所にありますので、そちらで登録をお願いします。では、良き迷宮生活を。幸運の女神があなたに微笑みますように」


 内心また蔑んだ言葉言われるんじゃないかとびくびくしていたが、そんな事もなく笑顔を向けられてほっとした。

 ただ、残念な事に運命の女神に嫌われた俺には中々幸運は訪れてくれないんだけどね……。

 

 「ありがとう」

 

 俺はそうお礼を言ってその場を立ち去った。


 そうして、ようやく目的地にたどり着くことができた。門番も言っていたが俺の目的地はこの街―――迷宮国家ロートレアだ。

 未踏破の迷惑がそびえ立ち、それを利用して出来上がった国家である。


 無事に入国できた俺はまたも圧倒される事となる。

 一歩街の中へ足を踏み入れると、しっかりと舗装された道路。更にはレンガ造りの家が建ち並び、俺の住んでいた街とは大違いである。

 

 俺の住んでいた街はそこまで小さくはなかったが、街の防壁は木を切り倒して地面に突き立てただけ。それこそ大型の魔物が襲って来れば紙の如く打ち破られていただろう。

 更に、レンガの家は殆どなく木造の家ばかりだった。

 道もそこまで舗装されておらず、馬車の車輪の跡で地面に凹凸がそこかしこに出来ていた。

 比べるまでもない程の差である。

 

 ただ、街並みもそうだが、それよりも人々の活気に驚かされた。

 特に目に付いたのは客引きだ。

 観光目的で来た人に向けてなのだろうか、土産屋とおぼしき商店が建ち並び、通りを歩いている人へと世話しなく声をかけている。

 その光景を見ているだけで楽しい―――そんな気分にさせられた。


 俺も店を見て回りたい。

 そんな衝動に襲われるが、まだ本来の目的も達成していない。後ろ髪を引かれる思いだったが受付の人に教えられた通りに探索者協会に向かうことにした。


 「凄いな……ここに来て驚かされてばかりだ」


 人混みを掻き分けて30分程歩くと、探索者協会の建物が見えてきた。

 その建物は「貴族の屋敷か」。と見間違えてしまう程お洒落で風格のある風貌をしていた。

 探索者協会の敷地と思われる地面には、赤いレンガが敷き詰められ、中央付近には小さな噴水が設けられている。

 更に噴水のすぐに側には、腰を降ろして休めるようにと長椅子が設置されていた。

 そこを越えて建物の入口に行くと木製で出来た両開きの大きな扉。さぞ有名な彫刻師が彫ったであろう模様が刻まれている。

 俺から向かって左の扉には剣を。

 右の扉には盾を。

 素人の俺から見ても扉だけで相当の値打ち物であることは容易に想像できた。


 「ここまで差が出るものなのか……これに比べて俺がいた冒険者協会の建物は馬小屋だな……何処の探索者協会もこうなのか?」

 

 今の失礼な言葉を第2の父、冒険者協会の支部長に聞かれたら本気で殴られていただろう。

 ただ、それだけ差があるのも事実である。


 「……入りずらい」


 この場での異物はまさに俺。

 場違いすぎて、中に入ろうとするが戸惑ってしまう。

 幸いな事に周囲に誰も居なくてよかった。こんな所を見られたら不審者のそれだ。通報されていてもおかしくないだろう。


 「すぅーー、はぁーー……」


 大きく深呼吸すると、意を決して扉の取っ手に手をかける。

 軋むような音立てながら開いた扉。

 恐る恐る中に入る。


 「……お邪魔します」


 建物の中は思っていたのとは違い豪華、と言うよりは綺麗に整理されて役所のそれに近い。

 青い絨毯(じゅうたん) が敷かれた通路の先には案内板が置かれている。


 「何々、受付は……このまま真っ直ぐか」


 案内板で受付の場所を確認する。

 柔らかい地面に違和感を感じながら案内板の通りに目的地に向かうと目的の場所へと到着した。


 受付のすぐ右手に迷宮への入り口と書かれた表示があり、左手には依頼の掲示板だろうか、探索者と思われる人がその貼り出された紙を見て頷いたり、首を傾げたりと依頼書の内容を吟味していた。

 俺は探索者と思われる人が並んでいる列の最後尾に俺は並ぶと、自分の番を待つことにした。


 待っている間に回りを観察する。


 ローブを纏った”人間”

 猫のような耳の生えた”獣人”。

 耳の尖ったエルフと言われる”亜人”

 頭から角の生えた褐色の”魔族”

 

 様々な種族がこの場にいた。それだけでも、十分に珍しい光景だ。

 どの種族も敵対しているわけではないが、決して仲が良いと言えない。それは過去の戦争が影響しているわけだが、この迷宮国家は中立。王は人間だが、どの種族も関係なく受け入れている。

 だからこそ見れる光景だ。


 種族の事もそうだが、装備している武器に防具。

 そしてその風格はベテランのそれと言って言い様相をしている。

 それに比べると俺の格好はどうだ。

 色褪せた皮で出来た鎧。腰にはナイフを2本ぶら下げているが、そのどちらも使い古され、柄の部分は手の汗で変色してしまっている。

 身長も男にしてみれば高いわけではない。

 体格も決して筋肉隆々と言うわけではない。むしろ細いほうだ。

 どう見ても歴戦の戦士には見えないだろう。

 金に困った冒険者か探索者と言った所だ。

 ただ、少ない人数だがそう言った人もいるにはいるが、何とも居心地が悪い。


 そうしてしばらく待っていると自分の番が回ってきた。


 「……探索者に登録したいんだけど、受付はここで大丈夫?」


 受付の女性にそう訪ねる。

 キレイな人だな……受付を担当する女性に対する率直な意見である。自分が住んでいた町では、そうそう見られない美人だ。

 特にその青い髪が印象的である。

 俺はドキドキしなが、その受付嬢の返事を待つことにした。


 「…………」


 だが、返事が返ってこない。

 俺は聞こえなかったのかなと、もう一度聞き直す事にした。


 「あの、探索者の登―――」


 「―――その格好で探索者に?」


 「えっ…………?」


 間の抜けた声が出た。最初は何を言われたか理解できなかった。

 捲し立てるようにその受付嬢は俺に話を続ける。


 「失礼ですが、そんな細い体に装備も使い古されてボロボロ。そんな状態で迷宮の探索はただの自殺行為。私にはあなたが自殺志願者か頭のおかしい何かにしか見えません。もう一度聞きます。死にに来たんですか?」 


 酷い言いように思わず泣きたくなった。

 確かに体つきも華奢だし、装備だって節約のためにずっと使い続けてボロボロだ。

 それは俺も理解している。

 ただそれでも、それなりに冒険者としての実績もあるし、並みの魔物になら遅れを取らない自信だってある。

 それを否定された事実に無性に腹が立った。


 「どうかお帰りくださ―――」


 「―――ふざけるなっ! 俺がどんな思いでここまで来たとき思ってるんだ! 自殺志願者だと? 誰が銀貨3枚も払って死にに来るか!? 帰るつもりも死ぬつもりもないっっ!!!!」


 受付の机を強く叩きそう怒鳴った。 

 机を叩いた右手がじんじんと痛むがそれよりも怒りの方が勝る。

 だが、その受付の女性は怯んだ様子もなく感情のこもってない瞳で俺を見つめていた。


 「……うっ」


 その無言の重圧に少したじろぐ。

 美人が凄むと怖い……


 「スフィアちゃん、ちょっと変わってもらっていい?」


 騒ぎを聞き付けた別の受付の女性が、俺と揉めている青い髪の女へと声をかけた。その声に「はい」と返事をすると、今声をかけてくれた受付嬢と入れ替わる。


 「ごめんなさいね。探索者の登録でいいのかしら?」


 「あぁ……」


 不機嫌なのを隠しもせずにそう答える。


 「では、登録料に銀貨3枚いただきます」

 

 俺は銀貨3枚を渡した。


 「銀貨3枚、ちょうどいただきました。では、探索者の登録を行いますのでこちらの紙に記入お願いします。任意の部分の記入は強制ではないですが、パーティーを組む目安にもなるので出来る限り記入することをお勧めするわ」


 そう言われ渡された紙を確認する。

 名前と年齢。後は性別に任意で職業と魔術、スキルについて記入する欄がある。

 

 「あっ、代筆が必要?」


 何も言わずに紙を眺めていたため、字が書けないものと勘違いされたらしい。

 パーティーを組むつもりは特に無かった。

 組むつもりも何も、そもそも不運持ちの俺を仲間に入れたいと思うやつはいないだろう。


 「これで…………」


 代筆を断ると名前と年齢、性別だけ記入することにした。

 まだ、腹の虫がおさまらない。

 

 「えっと……フォルトさんですね。では、カードを今作りますので少しお待ちください」


 そう言って受付の奥に行ってしまった。

 一時はどうなるかと思ったけど、何とか今日中に登録できそうで良かった。

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[気になる点] いや、この世界クソみたいな人間しか居ないの?主人公何もしてないのに、顔を見ただけで道行く者がみんな罵倒してくるとか・・・
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