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第一話

拙い文ですが、お付き合いいただけると幸いです。

良ければ感想、評価、ブックマークよろしくお願い致します。


最初の方から徐々に修正を掛けていますが、ストーリーに影響を及ぼす修正は行いません。

殆んど言い回しの修正です。

 

 人の人生とは平等ではない。 

 俺は特に運に”差別”されている。


 7歳の誕生日に村が山賊に襲われた。

 両親を含めて村の住人は―――全滅。


 そう、生き残りは俺だけだ。

 かと言って何ら特別な”才能”を持っていたから助かった分けではない……

 父も母も何処にでもいるただの村人に過ぎない。俺はそこの子供と言うわけだ。


 決して裕福ではないがあの頃は幸せだった……

 両親とはどんな存在だろうか?

 尊敬できる? 偉大? 優しい? 言葉を探せばいくらでも出てくる。

 

 俺にとっての父は偉大だった。

 かといって何ら取り柄があるわけではないが、包容力に満ち溢れた大きな男である。

 狩人だった父は大きな獲物を捕まえてくると、とても誇らしそうに俺に自慢してきた。

 時には厳しく、時には優しく威厳のある父。俺はそんな父が大好きだった。

 

 そして母はと言うと、料理上手だ。一番好きだったのはおやつに出してくれる、村で採れる果物のケーキだ。甘さの中に、果物の風味が口一杯に広がる俺の大好物だった。それに何より優しい。

 俺はそんな優しくて料理の上手な母が大好きだった。

 

 両親も大好きだがそれとは違う大好きがその頃の俺にはあった。

 今思えばそれが初恋だと思う。

 

 同い年の幼馴染の女の子。

 それがもう一つの”大好き”の正体だ。

 

 俺は村で平和に暮らす俺は毎日のように幼馴染の女の子と遊んでいた。その女の子は遊ぶ時にお嫁さんになると、好意を寄せてくれていた。そして俺もその子が好きだった事を覚えている。

 少しませたままごとで新婚さんごっこをよくしていた。

 手を汚して作った泥団子。

 葉っぱをお皿に。

 少し歪な形に凹んだ木に水を入れてスープの変わりに。

 お決まりのセリフは


 「ご飯と私どっちがいい?」 


 だった。


 今思うと、そんな事何処で覚えてきたんだと言いたいが、当時の俺達は邪な心なしに、粋な心でそれを楽しんでいた。


 ―――ただ、幸せは長くは続かなかったんだ。


 それは俺の誕生日の事だ。


 その日は両親と幼馴染が誕生日のお祝いをしてくれた。

 いつもより豪華な料理を幼馴染の女の子を交えて食べていた。

 料理を食べ終えると母は皿を洗いに行った。

 父は用を足しにその場を離れ、今は幼馴染みの少女と二人きりである。

 

 すると幼馴染の女の子が


 「フーちゃんには、みんなに内緒の贈り物をあげるねっ!」


 そう言うと目を瞑ってと言われた俺はそれに従った。


 ―――ちゅっ


 それは一瞬の事だ。頬に暖かさと柔らかさの両方を感じた。

 それがキスをされたと気づくのに少し時間がかかったが、それに気づいた俺は、思わず椅子から立ち上がる。

 心臓が激しく脈打つ。俺は横目で幼馴染の事を確認した。

 すると顔を朱色に染め上げはにかむようにこちらを見ていた。

 可愛い……

 ただ、俺も顔が異常なくらい暑い。

 きっと同じかそれ以上に赤くなっているんだろう。今、両親に見られたら何かを悟られるに違いない。


 「あ、あ、ありがとう」


 そう返すのが精一杯だった。

 俺は自分を落ち着かせるようにして、ゆっくり椅子に座り直す。

 母が何かを察したのか、洗い物をしていた手を止めてこちらを一瞬だけ見たが、すぐに視線を戻し洗い物の続きを行った。

 用を足しに離れていた父もすぐに戻って来る。


 「俯いてどうしたんだ?」


 父はそう訪ねてきたが


 「何でもない」


 と返してまた下を見る。

 今も心臓の鼓動が早い。子供の俺にとって“キス“と言う好意は刺激が強すぎる。

 おままごとでの夫婦ごっことは訳が違うのだから。

 女性はませるのが早いとは言うがこう言う事何だろうと、夢と認識している俺はそう思った。


 「フォルトも7歳か……よし、これをお前にやろう」

 

 そう言うと父が袋を俺に渡してきた。

 袋を開け中を確認すると子供用の弓が入っていた。狩りをする父に憧れている俺としてはこの贈り物は凄く嬉しかった。

 弓と父を何度も交互に見ていると。

 

 「ははは。まあ、落ち着け。お前も7歳だ。そろそろ弓を教えても問題ないだろうからな、明日から少しずつ稽古を付けてやる。嬉しいからってあんまり夜更かしするんじゃないぞ」


 「うん! 分かった! 明日から楽しみだなー!」


 「フーちゃん良かったねっ!」


 弓を高く持ち上げて眺める。

 本当に最高の誕生日だ。

 いつか、■■■ちゃんをお嫁さんにして、こうやって幸せに暮らしたいな。

 幼馴染みの少女。何回同じ夢を見てもその名前だけが思い出せない。

 父の名前はフォルスト、母の名前はルト。幼馴染みは……ダメだ……分からない。

 俺は思考する事を辞めると、精神が夢の中の子供時代のフォルトに引っ張られる。

 

 「嬉しそうで良かったわ。さっ、ケーキを作ったから皆で食べましょうか」


 母が大好物の果物のケーキを作ってくれた。

 

 「おばさんのケーキはいつ食べても美味しい!」


 口一杯にケーキを頬張る幼馴染み。リスのように頬を膨らませて必死に食べていた。


 「フーちゃんもどうぞ」


 そう言って口元まで一切れのケーキを運ぶ。


 「あ、ありがとう。あむ、むぐむぐ」


 その光景を微笑ましく両親は見ていた。

 こうして楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、俺の誕生パーティーはお開きとなった。

 

 「ほら、フォルト。■■■ちゃんを家に送って行ってあげなさい」


 父にそう言われたが、少女の家はこの家のすぐ隣である。

 しかも、部屋も向かい合わせで窓越しに会話ができるくらいに近い。とりあえず言われた通りに家に送って行く。


 「フーちゃん、また明日ね」


 「うん! またねっ」

 

 そうしてお別れを済ませた俺は自分の家に戻るとそのまま寝室へと向かった。

 部屋に着いた俺はベットに腰を降ろす。そして、父から貰った弓を何度何度も手に取っては弓を引いてみたり、はたまたカッコつけて狙いを定めた真似をしてみたりしていた。こうしているだけで楽しい。最早俺の宝物だ、手から離すのすら惜しまれる。

 そんな事を繰り返していると何やら窓から視線を感じて、そちらを振り返る。


 すると、幼馴染みの少女と目があった。こちらに手を振る少女、俺はそれに手を振る返すと口だけを動かし「おやすみ」と言ってきた。それに同じようにおやすみと返すと俺もいい加減に寝るようと、ベットに潜りランタンの明かりを消た。


 本当楽しい一日だった。俺は明日から弓練習をしようと父に言われ、貰った弓を抱き締めたまま目を閉じた。

 また、明日から楽しい1日が始まる……はずだったが、その”楽しい”……は二度と訪れる事はなかったのだ。


 「―――逃げろっ!」


 誰かが叫んだ大きな声で目が覚める。

 その声で飛び起きた俺は窓の外を見ると、深夜にもかかわらずゆらゆらとした赤い光に村が包まれていた。

 

 次の瞬間にはすぐ隣にある幼馴染の家が赤い光に包まれた。


 「熱いよっ! お父さん、お母さん……フーちゃん助けてッ!!!」


 そんな叫び声が窓越しに聞こえてくる。

 理解が追い付かず、呆然としているとその声も次第に聞こえなくなった。

 幼馴染の助けを求めてくる声が聞こえなくなると同時くらいに父と母が部屋に飛び込んで来た。

 そして、そのまま俺を抱えると外に飛び出して行った。

 俺を抱えたまま外に出ると裏山に向かって父が走る。

 何が起きているのか理解が追い付かなかったが、悪い事が起きている事だけはわかった。

 息を切らせながら走る父の横に母の姿が見えた。

 その表情は肉食獣に追われる草食獣のそれに近い。恐怖に顔を引き釣らせた母。

 何が起きているのか気になり父の肩越しに背後を確認しようとした時だった。


 「―――かはっ!」


 頭と背中に衝撃が走ると肺に詰まっていた空気が外に押し出される。

 父が苦悶の声を上げると突然倒れたのだ。

 頭を打ちチカチカする視界の中、視線を横にずらすと母も倒れている。

 ただ、それだけでなかった。視線を動かせる範囲で動かすと、見知った顔がそこらに転がっている。

 友人も近所のおばさんも、お爺さんも背中に矢が突き刺さっていた。その表情はどれも苦悶に道溢れている。

 

 それを見た俺は恐怖した。


 これはきっと夢だ。目を瞑ればまたいつもの日常がきっと戻って来るはず。そんな有りもしない希望にすがる事でなんとか自我を保つ事ができた。

 この悪夢から早く目を覚まさなくてはと、震えながら俺は強く目を瞑る……


 すると知らない男の声が聞こえた。


 「―――ちっ、遅かったか……」


 恐る恐る目を開けると目の前に、赤い髪の男が立っていた。

 背中には身の丈を越える大きな大剣を背負い、降り注ぐ矢を気にした様子もなく堂々と立っている。


 「―――山賊共が」


 苛立った様子でそう呟くと、男の周囲に渦巻く炎が出現した。

 俺はその姿に圧倒され声も出せずにその光景を眺めていた。


 「そこで隠れている奴そのまま動くなよ。これで死なれたら後味が悪すぎる……」


 どうやらその男は俺の存在に気づいていたらしい。

 横目でこちらを見てそう言ってきた。


 「さてさて、さっさと始末するか」


 男は背負っている大剣に手をかけた。

 

 「全てを燃やし尽くせっ! 地獄の業火(ヘルフレイム)


 俺の視界は黒一色で染められた。

 横に凪ぎはらわれた大剣から黒い炎が山賊達に襲いかかったのだ。

 その炎の熱は凄まじく、隙間から出した顔が熱でヒリヒリと焼かれる。


 「あー、やり過ぎたか……」


 少しばつが悪そうに男は頭をかいた。

 俺の視線の先数十メートル先にいた山賊達は、元々存在しなかったかのようにかけら一つ残さず消失してしまった。


 「これは後で怒られるな……まぁ、やってしまったのは仕方ない。っと、そこに隠れているやつ出てきていいぞ」


 その言葉で俺は父だった物をどけ、男の前に姿を見せた。


 「……子供か……」


 ぼそりとその男は呟いた。


 「……無事でよかった。俺は探索者の―――だ。遅くなってすまなかった」


 そう言って深々と頭を下げてきた。

 俺は何も言えずに呆然と立ち尽くしている。

 急激に現実が戻ってくる。


 ―――大切な物を全て失った。


 その事が槍のように突き刺さって来た。

 現実に耐えきれなくなった俺は声をあげて泣いた。全てを失った悲しさ。山賊達への恐怖。そしてこれからへの不安。

 様々な事が津波のように押し寄せてくる。

 止まらない涙で目の前がほとんど見えないが、男の表情はとても悲しそうな表情をしている気がした。

 

 「すまない……」


 また男は謝ってくると俺をそっと抱き締めた。


 ―――その日から8年。

 俺は成人を向かえた。


 「……はぁ、またこの夢か……」 


 辺りは静寂に包まれている。

 季節は夏。夜でも茹だるような暑さだ。それに加えて夢見も最悪だ。

 出来ることなら自分の手で1人残らず殺したいくらいに憎い。

 思わず握りしめた右手からは血が滴る。ただ、それが気にならないくらい俺の心は憎悪に道溢れていた。


 「ちっ、気持ち悪いな……」


 この夏の暑さと、夢見の悪さから大量の汗をかいたため、川に行って汗を流したい。

 ただ、まだ日が昇っていない。その気持ち悪さをもう少し我慢しなくてはならなかった事に更に舌打ちをする。

 ちなみに俺が居る場所は森に囲まれた街道沿いだ。そのため微弱ながらの魔除けが設置されているが、一歩それを外れれば魔物達の領域である。いくらベテランの”冒険者”と言えど命の危険がある深夜に好きで行動したりしない。

 俺は気持ち悪いのを我慢し、額の汗を手で拭うと体を休めるため再度目を瞑った。

 

 冒険者になること5年。

 冒険者階級は4級だ。ベテラン一歩手前と言った所だろう。ここまで来れたのも俺を拾ってくれた”第2の父”のおかけだ。

 そのお陰で、自分ではそこまで腐る事なく成長したのではないかと思うがまだ昔の事を夢に見る事が多い。

 村が壊滅してかなり時間は経っているがどうしても憎しみが消えることはなかった。

 俺を覆うように倒れた父から生命の温もりが消えていったこと。

 幼馴染が炎で焼かれ叫び、死んでいったこと。

 楽しかった俺の日常を奪ったそいつらが許せないが、生憎と復讐する相手はこの世にはいない。

 あの時、助けてくれた赤い髪の男が全員を焼き殺したのだ。

 あの夢を見る度に、このやり場の無い怒りをどうするかいつも葛藤するが結局は答えが見つからない。

 今の俺なら皆を守れたのだろうか? 

 そんな事を延々と考えていると、徐々に瞼の外が明るくなってきた。


 そろそろ夜明けか。

 俺はゆっくりと立ち上がり、大きく背伸びをして体をほぐした。 

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