7話 初戦闘
今オレが歩いてる場所は草原みたいな所だ。RPGなどなら初期のフィールドって所だろう。
しかし違和感はある。道は殆ど補正されてなく、門を出てから30分殆ど歩いたが誰ともすれ違っていない。
この世界には行商人とかいないのかなぁー、なんて思いつつ歩いていると、ゴブリンの集団が目に入った。全部で3匹。
オレはゴブリンに見つからないように近くの木に隠れてやり過ごす。
きっとこの3匹だけでは無く。近くにもっと数は居るのだろう。今の身体でどのくらい槍が扱えるかも分からないし、なるべく戦闘は避けたい。そう思って見ているとゴブリン達は反対方向えと歩いて行った。
ふー、しかし絶対生きてやる!とは言った物の現状はかなり厳しい。次の村までの道のりも分かんないし、食料も水もない。あまりちんたら歩いてたら日も暮れてしまう。だからと行って何も考えずに歩いていたら魔物に襲われて死ぬだろう。
ふー、もう一度息をはく。周りを見渡し安全なのを確認してから、今の自分の力について考えてみる。
そう言えば氷の魔法が使えたはずだよな?
原理や理屈など分からないがとりあえずやってみる事にする。
近くに生えてる花に向かって手をかざす。
「凍れ」次の瞬間左手に何かが流れるのを感じる。そして……ピキッ。
おー、凍ったよ!あれだ、頭ん中でイメージした通りになる感じなんだなこっちの魔法わ!
どこまでイメージ通りになるか試してみよう!!
色々試してみて分かった事は、大体の事はイメージ通りに出来る。ただ大規模な物や、遠隔操作をする物などは厳しかった。氷の粒を飛ばすくらいなら出来るのだが、質量が大きくなる程精度が厳しくなる。それに脆くなるのだ。飛ばすと創る。工程が一個増えるだけで厳しいらしい。槍とか作って飛ばしたかったが現状では無理そうだ。
物を創る事に関しては問題なかった。剣でも斧でも槍でも、想像出来る物は創れた。
そして思う。せっかく魔術士がくれた槍だが自分で創れるのだからいらなかったと。むしろ邪魔だと。そして決心する、次の村に辿り着けたら売ろうと。
後は凍らせる事だけど、ある程度距離が近くないとダメらしい。それに対象が大きくなるにつれて時間が必要になっていく。
自分に出来る事が分かった所でまた歩きだす。さっきのゴブリンに合わないように、周りを見渡し慎重に。
そうして1時間くらい歩いた所で状況が変わる。なぜかゴブリンの死体があちこちに転がっていたのだ。死体から見ても人と戦ったのだろう、剣や斧で傷つけられた後がある。
この世界にも冒険者は居るだろうし、ギルドの依頼などもあるだろう。
だがその考えは甘かった。このゴブリンを殺した連中の本当の狙いはオレだったのだから。
よぉ、兄ちゃん。こんな所で何してんだ。
野太い声で言ってくる。
急に声をかけられ焦る中、その声がした方に顔を向ける。
すると3人の盗賊っぽい男が立っていた。2人は曲剣をリーダーっぽいデカイ男は大斧を持っている。
焦ってはいたが、冷静を装いながら男達に言う。
あんたら何か用?
悪りぃんだけど、お前には死んでもらうわ。
オレを殺してもいい事ないと思うけど?
そうでもないんだなぁ。袋にいっぱい金入ってるだろ。
何の話し?この袋には食料しか入ってないけど?こいつらは間違いなく……。
はっ、哀れだねぇ。その袋はお前を殺す俺らへの依頼料なんだからよ。
やっぱり。こいつら王が雇った盗賊だ。
あの場所で俺を殺せば少なからず不安を持つ物は居ただろう。いくら俺の事が嫌いでも本当に死ぬ所を見たら竦むだろうしな。だからと言って城に監禁してから殺すのもマズイ。結局は近くで死んだ事になるし王が人を殺す事にたいして躊躇いがないと思われてしまう。
全く効率的なやり方だよ。こうやって外で殺せば勝手に1人で死んだ事になるし、王の元にいる方が安全だと再確認させられる。
この世界での初の実戦が対人なんて、最悪過ぎるな。一応ダメ元で聞いてみるか。
俺は死にたくない!金は渡すから見逃してくれないか?
悪りぃがダメだ。仮に見逃して、その後お前が生きてる事が分かれば、俺達が殺される。
最もな言い分だな。なら覚悟を決めるしかないか。
俺は槍を左手に構えて相対する。
おっ、やる気になってくれたか。お前ら行け。
そう言うと剣を持った2人がオレに向かって走ってくる。
正直に言えばめちゃくちゃ怖い。試合などで、人と相対する事はあるが、あれはあくまで試合。真剣ではあれ真剣ではない。
それに相手は本気で殺す気だ。
男2人と距離が詰まる。並んで走っていたが、片方が先行する。そして剣を振るう。
ブン、縦に振られた剣を横に躱す。男は避けられると思わなかったのか前のめりになる。それに蹴りを入れようとした所で、後に続いていた男も剣を振ってくる。横薙ぎに振られた剣をしゃがんで躱す、これも躱されると思わなかったのか、勢い余って前の男にぶつかり転ぶ。二人重なって倒れてくれたので、オレは槍を地面に刺し、男二人を足で押さえつけながら魔法を使い二人を凍らせる。こいつらバカだ。
あんたの仲間バカ過ぎない?
リーダーの男に言う。
バカなのは認める。だがこれで報酬は独り占めだ。
リーダーの男はニヤニヤしている。
なるほど、最初からそのつもりだったのか、なら本当の戦いはこっからだな。気持ちを落ち着かせ相手を見る。
あの大斧の攻撃は受けきれないからなぁ。全部避けるしかないか。
俺は槍を地面に刺す。
何だ?諦めたか?
まさか!あんた相手には魔法の方がいいかなって。そう言って手から氷の粒を飛ばす。もちろんダメージは無いだろうが目くらましぐらいにはなるだろう。
手から氷を放ったまま距離を詰める。
顔めがけて無数に粒が飛んでくるのだから鬱陶しいだろう。
このまま一気にもって行きたいが問題がある。武器を創り出すには一度魔法を止めないとダメだ。
全く片腕ってのは不便だよ、愚痴を吐きながら距離を詰める。作戦としては、俺の攻撃が届く距離になったら槍を創り、相手の反撃を交わして一撃で仕留める。失敗したらまた距離を取り、同じ事を繰り返す。あの図体だからな。早くはないだろう。
そして、適正な距離になったので粒を放つのをやめ、槍を創りだす。男はオレが近くに居るのを確認し、大斧の振るってくる。
クッ、予想以上に速く鋭く振られたそれを紙一重で躱し、相手の心臓目掛け最速で槍を振るう。 『穿ち』俺の得意としてる突き技だ。
ハッッ。……何!?心臓目掛け放った槍は途中で男の手を突き破りそのまま軌道をズラされ肩に刺さる。
へっ、中々やるじゃないか。無詠唱にかなりの速さの突きだ。だがオレが相手じゃ力不足だな。
男は痛みなど関係なく、貫かれてる手をさらにさし込み、オレの手を掴んでくる。
グワァ。凄い力で掴まれ悶絶する。このままではヤバイと思い。槍を軸に男の顔に蹴りを入れる。しかしそれも掴まれ、宙に浮いた状態のオレを全力で地面に叩きつける。
ガハッッッ、
血を吐きのたうち回る。男は容赦などなくオレを蹴り飛ばす。
そうして手と肩に刺さった槍を引き抜き、再び大斧を持ちオレに向かって歩いてくる。
痛えじゃねーかよ。まっ、オレにここまで傷を付けたんだ、誇って死んで行けよ。
男はオレの前まで来て大斧を持ち上げる。
全身が痛いし、呼吸もままならない。もう動けない事は分かっていた。
あぁ。ここで死ぬのか。結局死ぬのか。何も出来ず、王の思うままに死ぬのか。
痛みと呼吸困難で意識が遠のいていく。
本当にクソッタレな異世界召喚だったな。
爺ちゃんごめんな。
男が大斧を持ち上げ振りかざすその瞬間。
俺の前に鎧を着た黒髪のポニーテールの人が立つのが見えた。俺はこの瞬間意識を失った。
お前みたいな大物が何でこんな所にいるんだ?
リーダーの男は不思議そうに聞く。
それはこっちの台詞だ。随分安い仕事をしているな、落ちたもんだ。
鎧の女は言葉を続ける。
ここは引け、さもないと殺す。王には死んだ事にしておけ。簡潔に言う。
そりゃ困るぜ、後でバレたら殺される。
どっちにしろ死ぬんだ。今じゃなくてもいいだろう?獰猛な顔で鎧の女は言う。
チッ、分かったよ。だが証拠がないと困るんだが?
その辺のゴブリンでも焼いてもって行け。後はこれでいいだろう。
そう言って、転がっているオレの耳からピアスを取るとリーダーの男に投げつける。
分かったよ。しかし何で助ける?刻印はもう無いんだぞ?
あの王の思い通りになるのが気に入らん。
助けた所でまともに生きられるとは思わないけどな。まっ、精々バレないようにしてくれ。
男はそう言うと死んだゴブリンの物色を始める。
それでも生きたいから戦ったのだろう。倒れている少年にそう語りかける。
エリスさ〜ん、エリスさ〜ん。気の抜けた声が飛んでくる。
治療の方は済みましたけど、早くベッドで休ませたいですね。
あぁ、ありがとうルーン。エリスはもう一度少年を優しく見つめる。
とりあえず、モトノリの所へ帰ろうか。
戦闘シーンを書くのは難しいです。いまいちパッとしないかも。