6話 追放
「あのー、全く身に覚えがないんですけど?どうゆう事ですか?」
完全に嵌められてるのは分かっていたが一応聞いてみる。
「我が王城に仕える女人を何十名と辱め暴力を振るっておいて、シラを切るとは。さすがは魔王に魅入られし刻印持ちよ。」
うん。どんな内容かと思ってたけど、大分ぶっ飛んでた。昨日まで童貞だったオレが絶倫ヤリチンDV野郎にクラスアップしたらしい。
「そんな事はしていません。昨日は部屋で1人で寝ていました。オレがやった証拠でもあるんですか?」
ダメだとは思いつつ反論してみる。
「証拠ならある。入らせろ。」
王が言うと、扉の中から数十名の顔まで隠れたローブを着た女性が入ってきた。
そして、その内の何名かがローブを脱ぐ。
その瞬間王の間の空気が凍りつく。女生徒は顔を覆い。男子達も青い顔をしている。
それほどまでに女性の体は酷く傷つけられていた。顔は腫れ上がり、腕がおかしい方に曲がっている。身体には斬られた傷がいくつもあり、所々内出血している。そんな女性が数十名だ。
「お前達はこの男にやられたのだな?」
はい。消え入りそうな声で女性達は答える。
吐き気がした。俺1人を嵌める為に自分の城に仕える女性をここまでの目に合わせるなんて。正気の沙汰ではない。この王は狂ってる、それと同時に寒気もする。
ここまでやる王なのだから、俺はここで殺されるかもしれないと。いくら弁明した所で無駄だろう。クラスの奴らもこれを見ては庇ってはくれないだろう。只でさえ喧嘩ばかりしてたのだから。それに天原は抱え込み済みなのだろう、凄く睨んでくる。
こうなる事は分かっていたけど、まかさこれ程酷いとは思わなかった。何かあれど、追放くらいだと。そんな呑気な自分を殴ってやりたい。なぜ昨日の内にもっと良く考え、行動に移さなかったのかと。後悔先に立たず。まさにこれだ。
「これでもまだシラを切るか?悪魔よ。」
王から声がかかる。
俺が何を言っても無駄な事を知ってるくせに。
「死にたくない。生きて元の世界に帰りたい。」無意識にそう呟いていた。
はぁー?死にたくないだぁ?お前自分が何をしたか分かってんの?
こんな酷い事しといて、元の世界に帰りたいって都合良すぎでしょ。
あんた前から喧嘩ばっかで危ないやつだと思ってたけど、まさかここまでとはね。普通に引くわ。
私今までこんな人と一緒のクラスだったなんて怖いよー。
クラスの連中が俺に言う。
氷室君。君がやった事は最低な行為だよ、同じ女性として絶対に許せない。罪を償って。姫野が言う。
冤罪なのに。
氷室。俺達は世界を救う為にこの力を与えられたんだ。それをこんな事に使うなんて。只でさえ何も分からない異世界で、世界を救わなきゃならないのに……仲間だと思っていたのに。残念だよ。
天原が言う。
無実なのに。
やってないのに。
誰も信じてくれない。
もうどうでもいい。思考が暗く歪んでいく。
こいつやってない。
豪田が言う。
オレを含め皆が驚いて豪田を見る。
なんでそう思うんだ?天原が聞く。
こいつは無闇に人を傷つけたりはしない。
喧嘩には理由があるからだ。
理由ってボロ道場の事でしょ?あんな物の悪口ぐらいで暴れるんだから、危ない奴でしょ。クラスの女が馬鹿にしながら言う。
暗く歪んでいた感情が怒りに変わる。
“取り消せ!!”
怒りを滲ませながら言う。
女生徒はビクッとなり、怯えてしまう。それを見て他の女生徒が、やっぱり怖いとか、危ないだの言い出す。
「大切な物がある奴がこんな事をするとは思えない。」豪田は無表情のままそう言い放つ。
オレは怒りを少し抑え豪田の方をみる。
なんでこいつは信じてくれるのか分からなかった。下手したら天原さえ敵に回すかもしれないのに。
確かに豪田の意見も一理あると思う。でもここまで証拠があるんだ。俺は氷室がやったと思ってるよ。豪田は俺と氷室、どっちを信じるんだ?
この天原の言葉は反則だ。
豪田は少し苦い顔をしながら、俺に謝る。
氷室すまない。俺は天原を信じる。
しょうがない事だ。豪田が逆らえば、親が職を無くす。それを分かって聞いているんだから、天原も酷い奴だ。
こうして全員が俺を犯人と確定した所で王から声がかかる。
「お前のやった罪は重い。だが殺しはしない。国からでて他の街で暮らしながら罪を償え。」
殺されると思ってたので、大分軽い罪に面食らっていると、王が言葉を続ける。
「だがその刻印を外に持ち出されても困る。右腕だけは置いていけ。」ニヤリと王は笑った。
最初からこれが目的だったのだろう。3分しか使えない能力の為に片腕を失う。
ずっと爺ちゃんとやってきた槍術も片腕だけでは半分も力を発揮しないだろう。
余りにも理不尽すぎる。勝手に召喚しといて、気に入らない能力だから奪って捨てる。自分の目的の為なら部下さえ犠牲にする。
王がこんな感じなのだから、町の人も変わらないだろう。腐ったミカンの話しではないが、王が腐っているのだから、周りも腐っていく。きっとここに残るクラスメイトもだ。
片腕を失うのは嫌だが、この国の為に働くのはもっと嫌だ、1人で生きて行けるかは分からないけど、さっさとこの国から出て行きたかった。
「分かったからさっさとやってくれ!こんな国にもう居たくない。」
睨みながら王に言う。
「ふっ、居たくても居れないがな。お前のような奴が生きて行ける程甘い世界ではない。外の世界では気をつけるのだな。犯罪者よ。」
オレの睨みなんて全く気にせず王は言う。
そして俺は右腕を切り落とされた。麻酔などもない、この世界では想像を絶する痛みだった。
治療にあたってくれた魔術士の人が凄い人だったのか、経過は良好だった。王は不満そうだったが。
そして。ガシャん、お金が入った袋を兵士から渡される。
王からの餞別だ。ありがたく頂戴しろ。
あんなクソッタレな王の餞別なんか要らない。そう思ったが金の価値はデカイ。ここは意地にならずに貰っておこう。
城下の人に会わせたくないのか、城から門までは馬車で行った。クラスの連中とは挨拶などしてない。もう他人だし関係ないからな。ただ豪田の事だけは気になった。なぜ庇ってくれたのか聞きそびれちゃったし。
門に着くと門兵がいて、城の兵士と何やら話している。話しが終わり門が開くと広大な大地が広がっていた。
外には魔物が居て危険だが、行くしかない。そう思って歩きだそうとしたら、声がかかる。
「待って下さ〜い。」
俺の治療をしてくれた魔術士の人だ。
「これを持っていって下さい。」
そう言うと、銀色の槍を渡してくれた。
これも王の指示なのかと、嫌な顔をしていると、それに気づいたのか、これは私からですと付け足された。
「なんでこんな事してくれんの?」誰も信用出来ないので冷たく言う。
「城の外で丸腰なのは自殺行為ですよ。せっかく治療したんですから、生きて下さい。」
そう笑顔で言ってくる。この世界で笑顔を向けられたのは初めてだったから少し面食らった。
「そっ、ありがとう。」それでも素っ気なく返す。貰った槍は少し軽めで片手でも扱えそうだった。
「ではまた近いうちに!」そう言いながら手を振って魔術士の人は去っていく。
近いうちにって。もう会うことないだろに。
そう思いながら歩みを進める。
門を出てから一度深呼吸をする。そして力強く自分に言い聞かせる。
『絶対に生き抜いてやる』
ここまでがプロローグです。
次は戦闘のシーンがあるかも。