(twin souls-3)
最近また夢を見るようになった。
若い頃によく見た夢だ。
何かに取り憑かれたように、もがき、足掻く夢。
子供たちも独立し、妻に先立たれた老いぼれが、若い頃の思い出に浸ることが増えたからか。
ある日自分の子供と同じ年頃の見知らぬ男女が私を訪ねて来た。
彼らが言うには、入院中の母親の家の片付けをしていて日記を見つけたのだそうだ。そしてそこに私のことが書いてあったというのだ。
彼らの母親の名前を聞いて納得した。
高校の頃の後輩で、今でも年賀状のやり取りをしている。住所がわかって当然である。
彼らは「母はもう長くありません」とだけ言って、日記を置いて帰っていった。
「私たちはこの日記に書かれていることを信じているわけではありません。ですが母は毎日うわごとのようにあなたの名前を呼んでいます。父ももう亡くなっていますし、私たちは母の気持ちを尊重したいと思っています」日記にはそう書かれたメモが挟んであった。
彼女の日記を読み進めていくうちに、内容が自分の夢とリンクしていることに気づいた。そして最後のページにはこう記してあった。
「私は記憶を取り戻したけれど、彼は思い出していないようだ。波風は立てたくないし、いつの日か思い出してくれると信じているから待とうと思う。この命が尽きても」
彼女の日記を読み終えた私は、全てを思い出したのだ。
ずっと探していた愛しい人。生まれ変わっても探し続けていた私の片割れ。
出会っていたのに、見つけられなかったことに後悔した。
今さらか?いや、今からでも!
いても立ってもいられず住所を頼りに彼女の家に行くと、ちょうど病院へと向かうところの息子さんたちに遭遇した。
私は彼らに「彼女に会わせて欲しい」と申し出た。
「それが……今、病院から連絡があって……」
私はまた間に合わなかった。
彼女は突然逝ってしまったのだ。私を置いて……。
息子さん達の計らいで葬儀に参列させてもらうことが出来た。死に顔は見られたくないというのが故人の希望だったので、対面することは叶わなかった。
彼女が荼毘に付されたあと、私は息子さんたちに声をかけられた。
入院していた病院のベッドの、枕の下から出てきたのだと、私宛ての一通の手紙を渡された。
私は丁寧にお礼を言って、その手紙を受け取り斎場を後にした。
家に着くまで待ちきれず、帰りの電車の中で手紙を読み、私は人目もはばからず咽び泣いた。
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お久しぶりです。
あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょうね。
もしかしたら読んでもらえていないかもしれませんが、それでもわずかな期待を込めて、この手紙を書いています。
自分でも未練がましいと思うけど、あなたのことを思い出してからは毎日のように会いに行きたいと思っていました。お互いに伴侶と死別している今、会うことに問題はないと思っています。
だけど私は会いに行きませんでした。
それはあなたが私たちのことを思い出してくれているだろうか?私たちのことを話して信じてもらえるだろうか?そういうことが問題ではありません。
私は怖いのです。ただただ怖いのです。
思い出してもらえないことよりも、私のことを思い出してなお、あなたに拒絶されるかもしれないことに恐怖しているのです。
だからごめんなさい。
私はこのままあなたに会わずにこの世を去ります。
また来世でお会い出来ることを祈って。
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家に戻った私は、彼女に届くはずのない手紙を書いた。
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遠くない未来、君を追いかけて行くよ
来世で、
今度こそ、
今度こそ……
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