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勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
≪孤独の勇者≫

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31/119

ありがとう

 

「……それで、アレクサンドラさん。今回の戦闘はもう、終わったってことでいいんですか?」


 微力な抵抗の末、成す術もなく頭をプリスタの膝の上に乗せられた太悟は、《剣の女王》に声をかけた。

 コーラルコーストを舞台とした大規模侵攻。

『ビーチ』には平和が戻り、街の方からも戦闘音は聞こえてこない。


「ええ。向こうで海底魔人を倒した後は新たに魔物は出現せず、指揮官であったカピターンもあなたに討伐されています。警戒は続けるつもりですが、ひとまずは終わったと見て良いでしょう」


 アレクサンドラの答えに、太悟は「よかった」と声を漏らした。

 今日はもう、どう頑張ろうと戦えない。足手まといになるのはごめんだった。

 後は一旦基地に帰るだけ。太悟は安堵の溜息を吐いてから、友人たちに頼み事をした。


「ダン、プリスタ。悪いんだけど、ファルケを基地に連れてってあげて。慣れない戦場で、あんな大物と戦ったんだから、ちゃんと休ませてやりたい」


「もちろんかまわんが……お前はどうするのだ?」


「僕はまあ、回復したらすぐ行くから。その辺に転がしといて」


 当分、コーラルコーストに魔物はうろつかないだろう。

 現場の指揮官であったカピターンを初め、魔物側は海底魔人や戦艦クジラという戦力を失っている。

 いくら代わりがいくらでもいると言えども、今日明日に補充というのはありえない。


 もう少し休めば歩くくらいのことはできるようになるから、それから基地に戻ればいいだけの話である。

 まだ日が落ち切るには時間があるし、寒くも無いから寝転がっている分には不便もない。


 太悟がそう言うと、ダンとプリスタが何やらよくわからない顔を向け合う。

 何か変なことを言ったかと首を捻っている間に、太悟の体が宙に浮いた。

 そのまま、手にしているカトリーナとフォルフェクスごと、ダンの肩に米俵のように担がれる。


「ぅおう」


 驚いた太悟の口から変な声が出た。


「あのな、太悟よ。もし本当にお前をここに置いていくような者がいたら、そいつは勇士以前に人間ではないぞ!」


 ダンが呆れたように言う。

 勇者を目指す人間として、強いところだけ人に見せたい太悟は、拗ねたように唇を尖らせた。


「別にいいのに……」


「俺がしたいのだ! やらせろ!」


 なんとも暑苦しい、男気溢れる返答である。

 陰キャの太悟は閉口した。


 ダンは……良い男だ。同性である太悟から見ても。

 強く明るく心優しく。男の中の男とは彼のことを言うのだろう。

 意地を張るのも馬鹿らしくなって、太悟は大人しく身を任せた。

 空から聞こえてきた悲鳴に顔を上げると、プリスタに肩を掴まれたファルケが宙に浮かんでいた。


「は、運んでもらう立場で恐縮なんですけど! は、放さないでくださいね!?」


「大丈夫。太悟に頼まれてるもの。あなたもがんばったみたいだから、特別よ」


 ふふ、とアレクサンドラが微笑を浮かべる。


「道中に危険はないと思いますが、私が護衛をしましょう」


 殿をアレクサンドラが務め、荷物を抱えたダンとプリスタが先行する。

 やはり魔物はすっかり撤退してしまったようで、穏やかな道程と言えた。

 戦闘が始まる前に、太悟とファルケが通ってきた道を逆戻りしている。

 そう遠からず、市街地の中にある臨時基地に到着するだろう。


 太悟の鼻腔をくすぐる潮の匂い。

 そこに、戦いの残り香が混じっている。


「ダン」


 相変わらず肩に担がれたまま、太悟は声をかけた。


「なんだ?」


「街の方の被害は、どんな感じ?」


 数秒の沈黙は、嘘のつけない男が言葉を選ぶ時間だっただろう。

 吐き出された答えには、隠しきれない苦みが含まれていた。


「軽いとは言えぬ。海底魔人が、随分と暴れてくれたからな」


「そっか」


 太悟はその苦みを飲み込んだ。

 戦いに犠牲はつきもの。肯定したくはないけれど、変えようがない現実がそこにある。

 人間と魔物。どちらも相手を殺したいのだから、戦いの終わりはどちらかの死が前提。

 わかりあえぬ二つの種族の戦争とは、そういうものだ。


 今回の戦いでも、大勢が死んだだろう。

 彼ら彼女らは、名も無きモブA、B、C、Dではない。

 誰かの友であり親であり子であり恋人であり、そして掛け替えのない自分であった誰かがこの世から消えた。

 その場に居もしなかった太悟には、手を差し伸べることさえできなかった命が。


 といって、太悟もまた命を落とすぎりぎりの戦いをしていたのだ。

 遊んでいたわけでもないし、楽だったわけでもない。むしろ頑張った方だと言えるだろう。


 だから、罪悪感を抱く必要などない。

 市街地で戦っていればと、そんなことを思わなくてもいいはずだ。

 それらはただの思い上がり、傲慢の発露でしかない。

 太悟は強く、強くそう自分に言い聞かせた。


「―――俺はな、太悟。海底魔人との戦いに、お前がいればと何度も思ったぞ」


 先に話しかけておいて黙り込んだ太悟を、どう思ったか。

 ダンが口を開く。


「………」


「そして、『ビーチ』に駆けつけてカピターンの姿を見た時、そこにいたのがお前で助かったと思ったのだ」


 生半可の勇士では、カピターン相手に足止めさえできない。

 海底魔人との戦闘中に背中を突かれ、そのまま勇士たちが全滅するという危険もあった。

 それに比べれば、被害こそあれ生き残りのいる現状は、決して最悪ではないのだ。

 普段のように大きくはないが、力強い声で、ダンはそう語った。


「この世のすべてを救うことは、残念ながらできん。俺にも、誰でも……きっと、女神様でもだ。こんな世界だからな。だがお前は今日、大勢の勇士を救った。それは素晴らしいことだ」


 ありがとう。

 誰もが人生の終わりまで使うであろう、ありふれた言葉が、太悟の胸を射抜いた。

 太悟は、コロナスパルトイに感謝した。くしゃりと歪んだ顔なんて、人に見られたくない。

 兜をつけていて、本当に良かった。


「………っ」


 どうにもこうにも口が強張って、うまく喋ることができない。

 もごもごと、不格好ながらどうにか五文字を発音する。

 ダンはわははと豪快に笑って、それを受け止めてくれた。


 ダン・ブライトはやはり、太陽のような男である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダンが太陽すぎるっ!
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