レイトショー
えーと、とりあいず作り置きしてたもんだから変なところがあるかもしれない。
そう言う所はじゃんじゃんクレームつけてください。
二十時を回った真夜中、僕は映画館の中にいた。
僕の名前は松永聡、映画評論家だ。職業柄映画を見ることが多い。
そして今日も近場の映画館にやってきた。もちろん映画の評価をしにきたのだ。
最近公開した映画の監督から依頼もあって、時間を割いてやって来た。
しかし、前後の予定上こんな夜遅くにレイトショーとして見ることになった。
しばらくすると映画がはじまった。『腐った苺』と言うホラー映画だ。
流石にこの時間だと眠いな、眠気と葛藤しながら映画を見る。
すると後ろのほうで音が鳴った。きっとドアでも誰かが開けたのだろう。
そう思ってしばらく見入っていた。
「こんな時間にめずらしいですね」
不意に声をかけられたのでびっくりした。振り向くとそこには若い女性がいた。
それはこっちのセリフだ、と言いそうになったがあたふたと言葉を変えた。
「あなたこそ、こんな時間にめずらしいですね」
何を言いたいのかは同じだった。
「ホラー映画なんだから、夜見なくちゃ」
そう笑っていった、しかしどこかぎこちない笑い方だ。
しばらく沈黙が続くと彼女は何かを察したようにしゃべった。
「あ、すいません。映画を見るのに集中していたんですね」
そう言って自分の元を離れ、僕の目はスクリーンに向けられた。
映画を見終わったころには、もう二十二時を過ぎていた。
帰ったらさっき見たことを評価して、出版社に送らなければ。
そんなことを考えていた。そういえばさっきの人がいないな……。
そこまでつまらなかったのかな?
館内から出ると馴染みの館長が喋りかけてきた。
「聡さんさっさと帰っちゃってくれ、今日はあんたで最後だ、さっさと閉めたいからな」
「館長、若い女の人はいつごろ帰ったんだい?」
そう言うと館長は目を丸くした。
「若い女? 今日のレイトショーに来ていたのは聡さん、あんただけだったよ」
え? と心の中でつぶやいていた。
僕は自宅への帰り道で考え込んでいた。
あの若い女はなんだったのか、どうして館長はその人を見ていないのか。
もしかして幻でも見ていたのか? このスケジュールなら無理もない。
疲れがたまって見えた幻覚、僕はその結果に落ち着けることにした。
しかしその後の仕事には精が出なかった。
次の日の夜に僕は、もう一度あの映画館にレイトショーを見に行くことにした。
あの若い女がいるとは限らないが、どうにも腹の虫がおさまらなかったのだ。
ちょうどこの日に、映画を見る予定があったのでよかった。
受付で金を払って中に入る、今日見る映画は偶然にもまたホラー映画だ。
館内に入ると薄暗い証明に照らされた中、あの若い女がいた。
そして昨日と同じ席に座り、彼女のほうを気にしながらも映画を見ていた。
見終わったときには彼女はまだそこにいた。タイミングを計って彼女に声をかける。
「また、会いましたね」
彼女はややビックリしたように答えた。
「本当ですね。映画、好きなんですか?」
「職業柄見ることが多いんです」
「映画評論家、とかですか?」
僕はうなずく、彼女が誰か知りたかった、そしてこう言った。
「よかったら食事でもしませんか、おいしいラーメン屋知ってるんです」
「え……」
「よかったらですよ、よかったら。」
「ごめんなさい……。私、ここから出られないから……」
頭の中で自分の今聞いたことを整理した。
ここから出られない? どういうことなんだろうか。
もしかしてバイトとかなにかなのだろうか、だから館長が入るところを見ていなかった。
しかし、仕事中にサボって映画を見る人がいるだろうか。
少なくとも彼女は、そんなことをする人には見えなかった。あくまで推測なのだが。
『私、ここから出られないから……』
その言葉には深い意味がある気がした。
「出られないって、どういうことですか?」
彼女に聞いた。そして彼女は答えた。
「言葉通りですよ」
言葉通りと言われても。と聞こうとしたとき彼女がしゃべり始めた。
「私、この映画館で死んだんです。ずっと前に」
そのことを聞いて僕は、目の前で喋っているこの女性が、霊の類だとは思えなかった。
「レイトショーを見ていたら心臓麻痺で。昔から心臓が悪くて」
「それから私はこの映画館から出られなくなって、いつもこの時間に現れるようになった」
そんな話を聞いて混乱している僕を見て彼女は言った。
「私のことを忘れたいなら、この映画館にレイトショーを見に来なければ忘れられるよ」
そんな事を聞きたいんじゃない、この娘はそれで寂しくないのか。
毎日レイトショーの時間になっては現れ、映画を見ている。
時にはレイトショーが無い日もあるだろう、真っ暗な部屋で一人座ってる。
もしかして寂しくなって僕に声をかけたのか、そう思った。
そうか、親しくなりすぎると、このことを聞いたときに……
「もう閉まりますよ、早く帰ったほうが」
館長が声をかけているのが聞こえた。
「ああ、そうみたいだな」
「じゃあ……さようなら……」
重い扉を開けて家へと向かった。
次の日、僕はまたレイトショーを見に来た。そして、そこにいる彼女に声をかけた。
「いやぁ、また会いましたね」
彼女は心底ビックリしたようだ。そして答えた。
「めずらしいです、あの事を言うと次の日には、みんな来ませんでしたから」
僕がここに来たことを言っているんだろう。僕はこう言った。
「なぁに仕事が入っていたんですよ」
「そうですか……あ、始まりますよ」
そう言ってブザーが鳴った。そして彼女の隣に腰をかける。
彼女は驚いたが、何かを察したのか顔を赤らめてスクリーンを見た。
その日に見た映画は恋愛映画だった。
見終わった時、隣に彼女はいなかった。
成仏してくれたのかな、ずっと淋しかったんだね……。
彼女のためになったと思うと、僕はうれしかった。そして少し淋しかった。
どうでしょうか、レイトショー
僕は一度も行ったことありません。