幸せと始まり
「やぁタイニー
君前に会ったときはもっと活発な子だと思ったが…
僕の声が聞こえているなら右腕を上げてくれるかい?」
タイニーは表情は変えず右腕を上げた
「聞こえているんだね
じゃあ自分の名前と歳を言えるかい?」
タイニーは腕を下げたきり動かない
「なるほど、これはきっと言葉を取られたんだね」
ルネは椅子から立ち上がった
「言葉?それって魔法に失敗した時の反動ですか?」
「そう、彼は何か大きな魔法を失敗してその反動で言葉を失った
リザも気をつけないと他人事の話しではないよ」
「ルネ、どうにか治せないか?
魔法の病については私の知る限り君より優れたものはいないんだ」
「タイニーの魔力を限界まで使い切れ
魔法にかけた魔力が跳ね返って起きることだ、その魔力の淀みを取れば元に戻るさ
ただ自己主張の出来ない状態でタイニーの魔力を使うのはどの辺がボーダーラインかわからないから君にしかできないだろうな
まぁせいぜいがんばれ」
「ありがとう、治ったら君のところへ礼に行く
いつまでも来なかったらそういうことだと思え」
ルネは後ろ手に手を振りリザを連れて部屋を出て行った
「先生、私がああなっても助けてくれますか?」
リザが門を出たところでそういった
ルネの少し後ろをついてきているリザを振り返る
「ん?当たり前さ
僕はこれでも君を大事に思ってるつもりよ?」
リザは嬉しそうに笑いルネに並んで歩いた
「家に帰ったらお昼にしようか
今日は久しぶりに僕が作ろうか?」
「えー、先生料理下手すぎなんで私が作ります」
「…料理だけはリザに敵わないんだよな」
二人でゆっくり歩いた
ゆっくり歩きながら他愛もない話をした
並んで歩く2人
物陰から息を潜めて送られる視線にまだ気づかない
「そういえば最近寒いですね」
「そうだね、そろそろ衣替えでもしようか」
「そうですね!私新しい冬服が欲し……ぐぅっ、いったっ… 」
「リザ!?」
リザは突然、唸り声ともにその場に膝をついた
「ん?あれ?なんか背中が突然すごい痛くなったんです」
「背中?家に戻ったら見てみよう
立てるかい?」
リザはルネの差し出した手を握り立ち上がる
「今はなんともないです、なんだったんでしょ?」
「なんだったんだろうね、早く帰ろうか」
ルネとリザは足早に帰宅した
「リザ、背中を見せてごらん?」
「…え?」
「いや、背中…何か傷でもできてるかも」
「いいです!自分で見ますから!」
家に着くなりそういったルネと嫌がるリザの攻防はかれこれ10分以上続いている
「背中は自分で見れないでしょ、猫みたいに騒がないの」
「い、いやです!いやです!いやですぁあぁぁぁぁぁ…」
リザの悲痛な悲鳴とともに剥かれた服の下には何もなかった
「なにをそんなにむくれているんだい
なんともなくてよかったね」
「…………」
「はい、スープ」
テーブルに並べられた食事
椅子の上に膝を抱えて座るリザは手をつけようとしない
ルネはそんなリザの前にしゃがみ込んだ
「リザー、食べないならかたずけてしまうよ?」
「…変態、こっちくんなバカ」
ルネはそのままリザの頭を撫でた
「傷つけてしまったのなら本当に申し訳なかったね
心配していたんだ、許してくれないかい?」
「…今回だけですからね」
「あぁ、もうしないよ」
「じゃあスープいただきます」
スプーンで一口飲むとリザは顔をしかめた
「相変わらず料理下手ですね」