謎
「んぅ~~!おいしいです!」
「いやぁすごい混んでるね
ここまでだとは思わなかったな」
オープン初日ということもあり混みに混みまくっている店先を尻目に念願のピザを頬張る
「リザそんなに急いで食べたらつまらせてしまうよ」
水を差し出しながら苦笑する
「先生食べないんですか?
こんなに美味しいのに…
一切れあげますよ?食べたいんじゃないですか?」
いつになく上機嫌なリザに心なしかルネの顔がほころんだ
「リザが食べたいだけ食べていいよ
僕は残ったら食べるから
それに今日は少しリザの魔力を使いすぎてしまったからね
遠慮はしなくていいよ」
「そんな!先生こそ遠慮しないでください!
先生は魔力は少ないけど知識が凄いですし、
私はまだ何も知らないけど魔力は人一倍ありますし
お互いの強みを共有しようって約束じゃないですか」
リザは少し頬を膨らすように言った
「そうだね、それじゃあ遠慮なく使わせてもらうよ」
柔らかく笑ったルネにリザは最後の一切れのピザを手に取り明るく返事をした
支払いを済ませ店を出るとなんだか向こうが騒がしい
リザとルネはお互いに顔を見合わせ騒ぎの場所へ向かった
「なんの騒ぎですか?よく見えないです」
背の低めのリザは人混みに揉まれて前が見えなくなっていた
「リザ、おいで
もう帰ろう」
リザの手を握り自分の方に引き寄せ足早にその場を去った
「せ、先生?どうしたんですか?
何があったんですか?」
「戻ったら話そう
少し飛ぶからちゃんと掴まって
シルフ、飛んで」
その声と同時に軽くジャンプするとそのまま宙に浮き喧騒の中から抜け出た
少し高めの場所まで抜けると遠目に家が見えた
「このまま家まで飛ぼう」
「は、はい」
リザはルネの腕にしがみつきなるべく下は見ないようにした
家に着くとルネは近くの椅子を引き寄せリザに座るよう促した
「あ、ありがとうございます」
「ふぅ~少し疲れたね
今日はことごとく予定が狂う日だ」
ルネはキッチンへ行きコーヒーを入れて戻ってきた
「あの、何かあったんですか?」
リザは差し出されたコーヒーを受け取りながら聞いた
「ご老人が亡くなっていたみたい」
リザは「老人」という言葉で昼に来た訪問者を思い出した
「そ、おそらくそのご老人 」
「でも…なぜその人だと分かったんですか?
玄関から姿は見てないはずですよね」
「影がなかった」
「影…あ、もしかして影でここに?」
「そう、あのご老人は影でうちに侵入して宝玉を持って行ったのだろうね
でも見たところ盗ったものを持っておるようには見えなかった
あの大きさでも7つもあればかさばるはず」
リザはうーんと頭を悩ませた
「じゃあ盗ったのはその人じゃないんですか?」
「いや、恐らくあの人は捨て駒じゃないかな
街中でベンチに座ったまま亡くなっていた
影使いの魔法は意識を影の中に移して行うからどこかジッとしていられる場所が必要
それでいて行動の範囲に制限があるからウチの近くでないとならなかった
目当てのものを入手したらすぐに身体に戻ればいいのにそうしなかったのはその状態で他にも行かねばならない場所があったから
と考えると誰かに命令されてやったというのが妥当なところな」
リザは唖然としてルネを見た
「先生…凄いですね…
あ、でも
影魔法中は影を叩かないと死にませんよね
影を消せば本体に戻るはずですし
体を傷つけても影が戻らなければダメージは受けないはずです
でもあそこにいたご老人に影はなかった
影がない状態での死ってあり得なくないですか?
本当に亡くなっていたんでしょうか…?」
「これを機会に遠目に生死の判断をする方法を教えようか
熱系魔法の応用さ
熱といえば火だから正確には火魔法
今日は結構暖かめの日だったね
そんな日に一人だけ25度以下の体温はおかしいと思わないかい?
微調整を練習していけば出来るようになるから暇なときに練習するといい
で、影の件だけど
影がない状態での死はあり得ない
しかしあそこではそれが起きていた
ということは前例のない死ということになる
僕たち何か面倒ごとに巻き込まれたようだね」
ルネは肩をすくめて言った
「これからどうするんですか?」
リザは少し不安そうに訊ねたがそれをかきけすようにルネの大きな手が頭を撫でた
「大丈夫、悩んでも仕方ないさ
もう三時かぁ、おやつは済ませたし魔導具でも作ろうかと思うけど大丈夫かい?」
「もちろんです!これ片付けますね」
リザは飲み干したコップを2人分持ち返事をしながらキッチンへ向かった