表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

遅い朝

「先生!起きてください!いつまで寝てるつもりですか!?」

一人の少女の声が埃っぽい部屋に響き渡る

少女が揺さぶりながら声を荒げる先には赤い髪の細身の男

積み重なった本の奥から薄っすらと差し込む光がだけが静かに二人を見つめていた


横になる男が唸り声を上げてムクリと上体を起こすと少女と丁度目線が合う

「あぁ…リザ?

今日もとても元気のようだね、おはよう」

大きなあくびの後に柔らかい笑顔とともに告げられた挨拶

だがリザと呼ばれた少女の怒り顔はますます酷くなるばかり

「先生、私なんども起こしましたよ

今日のスケジュールは覚えていますか?

10時からお店を開けて予約客に薬の販売、お昼には外で食事をして1時半から魔導具製作と私の稽古

こんなにスケジュールがあったのに今はもう12時です!!!

今頃は新しく開いたピザ屋さんで美味しいチーズの乗ったピザでも食べていた頃でしょう…

久しぶりの予約だったのにいくら起こしても先生が起きないから今日はお引き取りして頂きました」

”どうしてくれるんだ”といいたげなオーラが全身からにじみ出る少女を横目に男はその奥を見ていた

「起きられなかったのは本当に悪かったよ

それで一つ聞きたいんだけど君の後ろでひしゃげているのは僕の部屋の扉だと思うのだけど…」

表情を伺うように少女を見つめながら指差した先には無残にも真ん中から真っ二つに割れた木製の扉

「ええ、鍵が閉まっていたので開けさせていただきました

先生が起きていれば壊れなかった扉ですけど何か文句でもありますか? 」

ベットの上に座る男は仁王立ちで鼻息を荒くする少女を苦笑いしながら軽く撫でた

リザの頭を支えに男はよいしょ、と声を出しながら立ち上がる

少女より遥かに高い身長は扉をくぐるには少し窮屈そうだ

「ご飯はテーブルに置いておきました

冷めてると思うんで温めて食べてください」

少女は男の後に部屋を出て床に散らばる扉を持ち上げながら言った

「あぁ、いつもありがとう

扉はそのままでもいいよ、重いでしょ?

僕が後で治しておくよ」


指示通りテーブルの上にあった皿を指で三回叩いた

するとあたりの空気から光の粒が溢れ火をまとった小さな妖精が現れた

「やぁ、おはようサラマンダー

これ僕の朝食なんだけど温めておいてくれるかい?

あと味見も頼むよ」

サラマンダーは男の指と少しじゃれあいながらコクコクと頷いき皿の上のベーコンエッグにかぶりついた

その始終を男が微笑みながら見ていると玄関の呼び鈴が鳴った

「はぁい」

リザが間延びした声で玄関の小窓を開けると髭の生えた清潔そうな男性が軽く会釈した

「あ!先生!ルイさんがいらっしゃいましたよ!」

玄関を縦になぞるとなぞった場所から広がるように光が消えカチャンと鍵が開いた

玄関を開き髭の男性を迎え入れると丁度奥から男が出てきた

男性は顔を軽く顰めて男を見た

「やぁルネ、久しぶりだね

見た所寝起きみたいだけど…リザさんに迷惑はかけていないかい?」

「あぁ、迷惑?

うん、かけてないと思うけどどうかな…

いや、でも今日は少し寝坊してしまったんだ」

ルネというその男は苦笑いして頭を掻いて言った

ルネとルイの間に立っているリザはそんなルネを見て「ふんっ」 とそっぽを向いた


「で?今日は何の用?」

ルネが早く帰ってくれと言いたげな顔で尋ねる

「今日は薬が欲しくてきたんだ

自分で作った薬だとなかなか効かなくてね 」

ルイは頭を軽く抱えるようにして言った

「リザ、奥の棚からいつもの持ってきてくれるかい

今日は君が仕上げをしてみようか

僕はここで待ってるから出来上がったら持ってきてくれるかい?」

ルネが言うとリザは驚いた顔で返事をして奥の部屋に入っていった


「ルネと師弟になるなんて物好きな子もいるもんだよ」

ルイは近くの椅子に腰掛けながらしみじみと言った

「うるさいな、僕だって元々はリザを弟子にするつもりはなかったさ

大体なんでこんな師弟制度なんてあるんだか」

テーブルの上で出来立てのように湯気をあげるベーコンエッグを一口大に切りながら話した

「は?お前師弟制度の所以知らないのか?

習っただろう、魔法校で」

「僕は魔法校には行ってない

あんな息苦しいところそれこそ君のような物好きしか行かないさ」

ルイが呆れたようにため息をつくと同時に奥からリザが戻ってきた

手には紙袋が握られている

「師弟制度って聞いたことありますけどなんなんですか?

私も知りたいです」

ルネに紙袋を渡しながら言うとルイが話し始めた


「やはりリザさんも知らなかったんだな

ルネ、ちゃんと教えなきゃダメなんだぞ、この世間知らずが

師弟制度っていうのはね、昔からある決まりごとなのさ


1.四年間の魔法校を卒業後魔導師の元で5年間魔法を習うこと

但し、師を誰にするかは自由だが魔導師のみとする


2.魔法校を卒業していない者は10年間とする


3.師弟の間には必ず師弟契約を結ぶこと


4.上記のことを満25歳までに済ませ、魔導師試験に合格すること


まぁ、簡単に言えばこんなもんかな

師弟契約は君たちもしてるだろう?」

リザは初めて聞いたというような顔で聞いていた

ルネは興味なさげに紙袋の中の瓶を眺めていた

「先生そんなこと何も言ってませんでしたね

なんで教えてくれないんですか、こんな大事なこと

師弟契約っていつしたんですか」


リザは朝のような不満そうな顔でルイの顔を覗き込んだが持っていた瓶を目の前に出されルネの表情は見えなかった

「これ、合格ね」

「…それは薬の話です」

問いかけに返事が返ってこないことにますます眉間にシワを寄せた

ルネはハハッと他人事のように笑いリザとルネの指にはめられた赤い指輪を指差した

「師弟契約って言うのはその指輪のことさ

銀の指輪をそれぞれの血液の入った銀杯に二日間入れて窓辺に置く

二日後血液に触れないように聖水で洗い流す

相手の血液につけた指輪をお互い同じ指にはめる

その指輪は絶対に何があっても外してはならない

これも知らなかったとはね」

ジロリとルネを見るとルネは瓶を紙袋に戻しルイに投げ渡した

「ほら、薬も出来たんだし帰った帰った

リザ、玄関開けてあげて」

ルイは苦笑いしながら立ち上がり玄関を開けるリザの頭を軽く撫でた

「薬ありがとう、また来るよ」

とひとこと残して出て行った


「先生はルイさんと仲がよろしくないのですか?」

「ん?まぁ、そんなところかな

でも嫌いなわけではないけどね」

「犬猿の仲というやつですか?」

「うん、それが一番近いかな

あ、ごちそうさま

今日も美味しかったよ」

ルネはいつのまにか空になっていた皿を洗いに立った


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ