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03.殿下とクラスメイト

 時は戻り、ユーミリアが小鳥にフンを掛けられるまいと授業が終わるのを今か今かと首を長くして待っていた頃、エルフリードはユーミリアと小鳥を交互に見比べていた。

 (ユーミリア……さきほど窓にいる鳥に手を振っていなかったか?)

 戸惑うエルフリードをよそに、小鳥もまたユーミリアの手の振りに合わせて、首を動かしているように彼には見えた。

 (なんて可愛らしいんだ……。彼女は動物とも仲良しなんだな。)

 エルフリードは2人【一人と一羽】のやり取りを、残りの授業中、ずっと優しく見守っていた。すると、授業が終わった途端、ユーミリアが急いだ様子で席を立つ。

 (めずらしい……。あ、さっきの鳥と外で会う約束でもしたのかな? 僕も行ってみよう。)

 エルフリードは意気揚々と教室を出……ようとして、マルコスに捕まる。


 「……トイレだ。」


 エルフリードは無表情で彼を責める。


 「先ほど、ユーミリア嬢も珍しく席を立たれましたね。」

 「……。」


 エルフリードはスタートダッシュをこのような時のためにと密かに練習していた。

 (今、練習の成果を発揮する時!!)

 マルコスをかわすと、エルフリードは外へ続く廊下へと勢いよく飛び出し、走りだす。


 鐘の音と共に外へ飛び出したためか、ユーミリアを除いて誰一人として校舎の外に出ているものはいなかった。エルフリードが校舎の影から彼女を観察していると、ユーミリアの上を旋回していた鳥は直ぐにどこかへ去って行ったようだ。ユーミリアが植物園の方へ行くので、エルフリードもそっと後をついて行く。


 エルフリードはドームの中に入ると、草むらに隠れてユーミリアの様子を窺った。その時、突如、彼の横の草むらが動き出す。


 「っ!!」


 エルフリードは思わず息を飲んだ。が、そこから顔を出したのは刺客ではなく、マルコスだった。


 「尾行ですか? 殿下、いつから変態になったんですか?」

 「な……なぜお前がここに!? はっ! もしや他にも!?」


 エルフリードが勢いよく辺りを見渡すと、ユーミリアにいつも纏わり付いている女や、その他にクラスの男女数名が同じく草むらに隠れていた。


 「お……お前ら!!」


 エルフリード立ち上がろうとして、腰を浮かせる。


 「うるさいですよ。見つかったらどうするんですか。」


 マルコスが酷く迷惑そうな顔で、エルフリードを睨んだ。


 「……。」


 エルフリードは言い返すことが出来ず、言葉を飲み込むと眉をしかめながら、静かに腰を下ろす。



 「まあ、鹿がいますわ!!!」

 「え??? 鹿がユーミリア様にお腹を見せてます!!!」

 「わっ!! さすってます!!! ユーミリア様、動物にも愛されてますのね――!!」


 彼らから少し離れた草むらでは、女子の集団が楽しそうに騒いでいた。それを苦々しく見たエルフリードは、マルコスに進言する。


 「おい。解説まがいの女子の会話の方がうるさいぞ?」

 「自分で注意したらどうですか?」


 間髪を入れず、マルコスが返した。


 「マルコス!!」


 彼の無慈悲な物言いに、エルフリードは再び声を荒げてしまい、草むらに居た者達が全員一気に彼を睨む。

 

 「殿下、静かにしてください。」


 マルコスとは反対側に居た男が呟く。


 「……みんな、いい度胸をしているな。」


 エルフリードは後ろを振り返ると、顔をひきつらせた。


 「エルフリード殿下、この際、はっきり言わせて頂きます。学園にいる間の言葉は不敬には当たらないと聞いたもので。彼女の将来について、ですが、ユーミリア嬢は私たちの中のいずれかと婚姻を結ばせて頂きます。」

 「私たち!?」


 「ユーミリアを愛でる会ですわ。」


 怪訝な顔をしたエルフリードに、自称ユーミリアの親友が口をはさむ。


 「身分的にもそれが宜しいかと。このような魔術師を国外に出すおつもりはないのでしょう?」


 男は、合いの手を入れてくれた彼女に軽く会釈をすると、言葉を続けた。


 「あ……ああ。だが……なぜ、お前達の誰かが彼女を貰うのだ?」

 「私たちは幼少の時よりユーミリア様を見守ってきました。いわゆる同志です。この中の誰かと結婚するなら、私たちは納得できます。ですが、他の方には譲れません。なので、将来、ユーミリア嬢にこの中から選んでもらおうと思っています。」

 「ならば、私も……。」


 「殿下にはナターシャ様がいるではないですか。この国は一夫一妻制ですよ? だから、これ以上、ユーミリア嬢に関わらないで頂きたい。今はユーミリア嬢をのびのびと育て、みんなで見守っているのです。あなたのありがたき後光で彼女を惑わさないでください!!」


 男気なくすがるエルフリードに、その男は強く言い放った。


 「彼、ユーミリアを愛でる会の会長ですの。」


 先ほどの女生徒がまたしても呟き、エルフリードの理解を促させる。



 「ユーミリア様が帰られますわ!!」


 その時、彼らの騒動を全く気にせずにユーミリアを見守っていた女生徒が、ユーミリアの動向をいち早く察知し、皆に伝えた。草むらにいた彼らは、静かに息を潜めると、じっと彼女の行方を伺う。


 「っ!! おい!! 外にナターシャ嬢が居るぞ!!」


 入口が見渡せる所に隠れていた男子生徒が、慌てた様子で小さく叫ぶ。


 「ええ!? なんでこんなところに彼女がいますの!?」

 「ユーミリア様と鉢合わせしちゃう!! 誰かユーミリア様を別の所に誘導して!!」


 皆の慌てた声があちらこちらで放たれる。


 「だめだ……会のメンバーはすべてドームの中に居る。今、ここで出て行ったら、つけていたことがばれてしまう……。くそっ! 一生の不覚!!」


 その悔しさが滲み出た会長の言葉を合図に、そこにいた皆がエルフリードに期待の眼差しを向けた。



 「……無理だ。」


 エルフリードは一言、そう断言した。



 ユーミリアは、ドーム状の植物園を出ると、向こうからナターシャが友人達と歩いて来ているのに気づく。

 彼女は周りの友人達に何か伝えたようで、一人になるとユーミリアの元へ向かってきた。


 「ナターシャ様。」


 ユーミリアは、両手を腰に置き憤然としながら歩いてくるナターシャに、優しく笑いかける。


 「やっと話せるわね!!」


 彼女はユーミリアの前で立ち止まった。


 「やっと?」

 「あなたの周り、いつも人がいて全然近づけないんだもの。」


 (え? 何を言ってるのかしら。私、大抵いつも独りよ?)

 ユーミリアは軽く頭を傾げた。


 「誰かと間違えていません?」


 と。


 「……。あなた、周りが良く見えていなくてよ?」


 ナターシャが怪訝な顔でユーミリアに忠告する。


 「あら、私も最近気づきましたの! 周りが見えていなかったと。」


 的確なナターシャの言葉に、ユーミリアは少し驚いて目を見開いた。


 「そ、そう……。気づいてるのならいいわ。……じゃなくて! そんなことより、私、殿下と婚約したのよ!」


 胸を張るナターシャは、顎を上げ、自慢げにユーミリアを見下ろす。


 「ええ。おめでとうございます。」


 ユーミリアは本心から、切なそうに顔を歪めながらもそう言葉を綴った。


 「あ……ありがとう。」

 「お屋敷の方にはすぐに祝電を送らせて頂いたのですが、ナターシャ様には直接、お祝いを言いたくて……。でも、クラスが違うとなかなか会うことが出来ませんのね。」


 ユーミリアは肩をすくめた。


 「……あなた、やっぱり周りが見えていないわ。」

 「え?」


 ナターシャは呆れ顔で、まあいいわ、それだけだからと言い捨て、去って行った。

 後に一人残されたユーミリアは、可哀想にと、ナターシャの背中を憐れみを含んだ目で見つめながら、彼女を見送る。

 (ゲームの流れには逆らえないのかしら……。エルフリード様とナターシャ様の婚約は、この国において必然ではあるけれど……。可哀そうなナターシャ。このまま、主人公に取られちゃうのかしら。きっとエルフリード様は、ナターシャ様にも愛まがいの言葉を呟いているのね……。あれじゃ、誰もが“私が本命だから、他は気にならないわ”って思っちゃうわよね。そう……私もその一人よ……。彼、ホストに向いているわね。)


 「あら、いけない。授業に遅れちゃうわ。」


 うんうんと納得していたユーミリアは、鐘の音を合図にいそいそと教室へと向かった。

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