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第二十七話 現状

 ユーミリアとエルフリードは、小屋の中にある小さなスペースに二人並んで座っていた。

 城の中では少し不味いんだ、と苦笑う彼がこの家の中で話す事を希望したのだ。

 そして、その“小さなスペース”とはベッドの端。


 その場をエルフリードに勧められた時、ユーミリアはドギマギと胸をざわつかせた。

 気になる彼とベッドで横並びに座るのである。落ち着いていられる方が不思議なぐらいだ。


 といっても、アリーサの使っていた小屋にあるベッド。

 すぐに彼女は先程の狼狽で使った体力を返して欲しくなった。


 なぜならそのベッドは、もはや本来の機能が発揮されているとは見てとれないぐらい、それは採取されたであろう植物で埋め尽くされていたのだ。

 ベッドの上は物干しロープのよなものが何本も張られおり、束になった植物が等間隔に逆さにぶら下げられている。

 まあ、そこはエキゾチックな天蓋カーテンだと押しきればそう見えなくもない。

 だからこそ、先程のユーミリアはあそこに座ろうとエルフリードに勧められた時、うろたえたのだ。


 だが、問題は布団の上。

 乾燥中の植物のカーテンを押し分けて中を覗いてみれば、今度はそこには乾燥が終わったと取れるカラッカラになった植物の山。

 まあこんな短時間によくもこれほど沢山の薬草を拵えたものだと感心したくなるほど、ベッドの上には所狭しと乾燥植物が並べられていたのである。

 そこをかきわけて二人分の座るスペースを作ろうとするエルフリード。

 殿下にそんなことをさせる訳にはいかないと、ユーミリアは彼を止めた。だが、君の為に何かしたいんだという彼の優しさと笑顔を前に、ユーミリアは失神寸前でベッドの柵に手をついて立っているのが精いっぱいだったのである。


 「どうぞ。」

 「あ……ありがとう……ございます。」


 ユーミリアは緊張の面持ちで、先に座っていた彼の横に腰を下ろす。

 出来るだけ、離れて。


 だが、彼が少ししかスペースを作ってくれなかったため、否応なしに近づいてしまう。

 彼女は緊張を隠すため、辺りをきょろきょろと観察した。


 ……こんなにも、アリーサ様はシリング様の事を想っていたのよね……。

 ユーミリアは横にあったその薬草の山を見上げ、改めて彼女の今の心情を察して心苦しく思った。


 「ユーミリア。」


 そんな彼女の横顔にエルフリードは声を掛ける。


 「あっ、はいっ。」


 ユーミリアは慌てて彼の方を振り返る。

 そして彼女は固まった。やっぱり彼との距離が近すぎるのだ。膝が当ってしまった。

 ユーミリアは固まる体をほぐし、彼との距離をとろうと腰を浮かす。


 だが、咄嗟にエルフリードが彼女の膝にある手を握り、それを引き止めるのだった。

 再び元の位置にお尻を下ろすことになったユーミリア。

 彼女は困った顔で彼を見上げた。


 「ふふ。ユーミリア。そう簡単に泣きそうな顔をするものではない。僕の様な人間はいっぱいいるのだから。」


 エルフリードは離した彼女の手を優しく撫でながら、不敵な笑みを浮かべる。


 「エルフリード様のよう……な? ……そんなお方、探しても他には居りませんわ。貴方様ほど素晴らしい魅力をお持ちの方なんてそう居りませんもの!」


 ユーミリアはそう彼に反論するのだった。


 「魅力……ねえ。」

 「そうですわ。王族と同じものを他に求めるなんて、エルフリード様にしてもいたずらが過ぎますわよ。」


 「……。」


 だがそんな彼女の戯言に、エルフリードは表情を無くすとじっと何かを考え込むように一点を見つめる。


 「どうか……されましたの?」


 心配になって彼の顔をそっと覗き込むユーミリア。

 そして彼女は、先程彼に感じた違和感の正体に気付くのだった。


 目が、エルフリードの瞳孔が黒いのである。

 さっきはなんとなく彼の変化に気づいたユーミリアだったが、それでもただの感覚での話。

 でも、これは一目瞭然の変化。


 ゴールドに光り輝いていた彼の目。

 それが今、漆黒に染まっていたのである。


 ユーミリアは思わず体を震わせ、息を呑んだ。


 「ねえ、ユーミリア。これでも君は、僕に魅力を感じる?」


 そんな彼女に再び焦点を合わせたエルフリードは、ゆっくりと問いかけるのだった。


 「エ……エルフリード様……どうかされました……の?」


 彼の手の中から彼女は両手を抜き取ると、無意識に彼の顔の前へと伸ばしていく。

 目の前に彼女の手が現れたことで、そっと目を閉じるエルフリード。

 そんな彼の瞼を、ユーミリアは優しく一撫でするのだった。


 二人の間に温かな空気が流れる。


 ユーミリアは思わず彼の顔に両手を添え、目を瞑って彼のおでこに自分のそれをくっつけた。

 彼の方の体温が少し高いのか、ユーミリアのおでこがほんのりと温められる。

 ……温……かい?


 「……わっ! 私ったらなんてことを!!」


 ユーミリアは慌てて彼から手を離すと、あたふたしながら元の場所に戻るのだった。


 彼女の言動を見て思わず口元を緩めるエルフリード。

 そんな彼の様子に、ユーミリアは安心したように胸を撫で下ろした。



 改めて腰を落ち着け、二人はゆっくりと話をする。


 「気付いただろう? 私からは王としての素質が抜けてしまったのだよ。」

 「……。」


 ユーミリアは彼の言葉にじっと耳を傾けた。


 「僕達が王族で居られたのは、人を惹きつける能力があったから。誰も抗う事は出来ない、魅力的な力を持つ人間。だからこそ、我々の一族は長きにわたって王座に着いて来れたのだ。

 長く城に居るものは薄々気づいていたようだ。この力なくして王座に着けるたまでない、と。

 だが、この力があるからこそ民が反乱を起こさないのも事実。だからこそ、我々はそのまま据え置かれていたのだろう。なのに、私はそれすらも失ってしまった……。

 ……もうすぐ国は荒れるだろう……。」


 「え……。」


 エルフリードから聞いた事実に、ユーミリアは言葉を失う。


 「……申し訳ない。このような事を聞かせてしまって。自分が変化してから、私の周りに誰も居なくなり……少し君に甘えてしまったようだ。」


 そうすまなさそうに眉を寄せるエルフリードからは、寂しさが滲み出ていた。

 ユーミリアの胸が締め付けられる。


 「目……。」

 「ああ。それと時が同じ頃だろうか、黒く染まってしまった。魅了の力と連動していたのだろうな。」


 そう言うと、エルフリードはユーミリアの目を再び力強く見つめるのだった。

 先程は彼の目力に震えたユーミリアだったが、今は彼の目を見ても何も感じない。さっきは不意を付かれて驚いてしまったのだろうとユーミリアは解釈する。


 見つめ合う二人。

 しばらくの時が流れ、先に口を開いたのはエルフリードだった。


 「ユーミリア……。君は僕が怖くないのかい?」


 彼は眉間に皺を寄せ、信じられないものを見るような目で彼女を見返した。


 「怖い? どうしてですの? 目が黒くなっただけでしょう?」


 彼女の朗然たる態度に、まるでつきものが落ちたかのような表情を見せるエルフリード。

 その時、わずかながら彼の後ろに温かな光欠片の様なものを見つけたユーミリア。だが、それもすぐに消えてしまていった。

 ……一時的な物?

 ユーミリアはじっとその欠片が見えた場所を見つめ、再び現れない事を確認してから彼に目線を戻す。


 「エルフリード様!?」


 ユーミリアは声をあげて驚いた。彼の目から涙がこぼれていたのだ。

 慌てたユーミリアはポケットからシルクのハンカチを取り出し、彼の涙を拭う。

 ……あ。

 と、そしてそのハンカチの先程の用途を思い出したユーミリアはそっと引き戻そうとするのだった。


 「ありがとう。」


 だが、そのレジャーシート改めてハンカチーフは彼の謝礼と共に彼の手中へと収められるのだった。


 「……。」


 目を泳がすユーミリア。代わりになるものをと辺りを見渡すも、そこはアリーサの所有物件。

 土がついてなさそうな布は、目の届く限り存在してなかった。

 ……なにも見なかった、渡さなかった事にしよう。

 と、ユーミリアは決め込むのだった。

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