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20.彼と彼女

 「リリー……様?」


 クレメンスの隣に、リリーの姿があるのを目にしたユーミリアはポツリと呟く。彼女は混乱していた。彼とリリーが一緒にいたことに、ユーミリアは戸惑いを隠せなかったのだ。

 そんなことをユーミリアが感じているとは、リリーは全く気づいていなかった。彼女はユーミリアに穏やかな笑みを返す。

 その時、二人の間に低い声が割りいった。


 「驚かせてしまってすまない。お邪魔だったかな?

 女の子だけで帰すのが不安だったから。」


 と、クレメンスがユーミリアに声を掛けたのだ。

 女の子に彼女を取られては身も蓋もないと焦っているのだろうか、彼はリリーの前に強引に肩を入れる。

 そして、クレメンスはじっとユーミリアを見つめるのだった。


 「っ!?」


 彼の強い眼差しに、ユーミリアは思わず息を飲む。

 (え? クレメンス様、どうしてそんな目で私を見つめるのですか!?)

 クレメンスの熱い視線に動揺したユーミリアは、一瞬にして顔を真っ赤に染め上げた。

 だがユーミリアは、すぐさま彼から視線を反らしてしまう。すぐ近くにリリーが居ることを思い出したのだ。

 こんな情景をリリー様に見られたら勘違いされてしまうと、彼女は彼に気遣ったのである。

 クレメンスの目がみるみるうちに曇る。だが、目を反らしたユーミリアには彼の想いは届かなかった。


 「……そちらの方は?」


 気分を紛らわそうとしたのか、間をおいてクレメンスはそうユーミリアに尋ねたのだった。

 たとえ自分を拒否されようとも、彼女を守ることが一番の重要事項なのだからと、彼は自分に課した仕事を全うしようとしたのだろう。

 そんなクレメンスの言葉に、平静を取り戻したユーミリアは顔を上げる。そして、落ち着きを装い、彼女は順にお互いを紹介したのだった。


 「あの、こちらはお隣のクラスのアリーサ様ですの。

 アリーサ様、こちらは私の友人のクレメンス様と、寮で同室なおかつ友人でありますリリー様です。」


 ユーミリアの顔が次第に綻ぶ。友達を堂々と“友人”と紹介出来るのが嬉しかったのだ。


 「初めまして。」


 ユーミリアの紹介を受け、礼儀正しく膝を軽く折ったクレメンスが、アリーサに声をかける。

 そんな彼に、にこやかな笑顔を見せたアリーサは、スカートの裾を持って頭を下げるのだった。


 「初めまして。私、ユーミリア様の親友になります、アリーサです。

 以後、お見知りおきを。」


 アリーサは鈴を鳴らすような可愛らしい声で、二人に挨拶を返した。


 「親友……。」


 そんな彼女の言葉に、リリーがぼそりと呟く。


 「リリー様?」


 ユーミリアはそんな考え込むリリーの様子を不思議に思い、そう彼女を呼び掛けるのだった。


 「あ、いえ……なんでもありません。

 初めまして、アリーサ殿。私はリリーと申します。

 ユーミリア殿とは、随分と短い間に仲良くなられたのですね。」


 ユーミリアの声掛けに反応したリリーは、挨拶を返すも、訝しそうにアリーサを見つめるのだった。

 そんなアリーサの様子を、クレメンスは片眉をあげて見守る。


 「ええ。私からユーミリア様にお願い致しましたの。

 ユーミリア様、とても素晴らしい方ですもの。親友になって下さいと頼んだら、快く受け入れてくれましたのよ。」


 アリーサは大きな笑顔を彼女に向けた。


 「……。」


 だがリリーは無表情で彼女を見つめ続ける。その場に緊張が走った。

 だが、クレメンスの気遣いによりその場が和む。


 「おや。いい洞察力を持っているね。」


 と、彼が二人の間に口を挟んだのだ。しかもクレメンスは、特別な時にしか見せない“笑顔”をアリーサへと向ける。

 彼なりに行ったアリーサへの配慮なのだろうか。

 だが、彼の考えが彼女に伝わることはなかった。彼のその行動は、ユーミリアの胸を貫く。

 (……クレメンス様のあの笑顔は、私だけのものだったのに……。)

 ユーミリアは胸を抑え、痛みを堪えようとしていた。彼女は、アリーサに笑いかける彼の横顔をじっと見つめる。ゲーム通りに進めることをアドバイスされたばかりなのだ。ユーミリアにはアリーサの邪魔など、出来なかったのである。

 (きっとこれは、タンポポの代わりに上がった好感度のお陰よね。あら、私、きちんとゲームのサポートしてるじゃない。)

 と、ユーミリアは自嘲気味に心の中で笑うのだった。


 ユーミリアは前を歩く二人を呆然と見つめながら、足を動かす。

 あの後、ふたてに別れ、寮までの道のりを四人で歩き出したのだ。前を歩くのはクレメンスとアリーサ。後ろを歩くのはユーミリアとリリーの二人である。

 クレメンスとアリーサは話が盛り上がっているらしく、二人の笑い声が少し離れた後ろにいるユーミリアにも伝わる。

 一方、ユーミリアはと言うと、リリーと連れだって歩いているのだが、彼女は辺りの気配に気を配りながら慎重に道を歩んでいた。そんな彼女に、ユーミリアは人知れずため息をつく。これじゃあ友達と言うよりも護衛と護衛対象だわ、と彼女は残念に思っていたのだ。折角一緒に帰っているのに、と。


 「リリー様……。」


 やるせないユーミリアは、思わず彼女の名前を呟く。


 「はい。どうか致しましたか?」


 リリーはユーミリアの呼び掛けに機敏に反応をすると、彼女の近くに顔を寄せた。


 「あ……いえ、なんでもないのです。

 あ、それはそうと、先程はお邪魔して申し訳ありません。クレメンス様とお帰りになっていたのでしょう?

 私たちがたまたま前に居たというばかりに……。」

 「……。いえ、大したことではないので、気になさらないでください。」


 少し間を置いてから答えるリリーに、ユーミリアは疑問を持つ。

 (なんでしょう、さっきの間は。恥ずかしかったのでしょうか?

 でも、お二人で帰っていた事を否定されませんでしたわ。ということは、クレメンス様の想い人はリリー様で決定のようですわね。

 それにリリー様も帰りの同行に同意したということは、少なからずともクレメンス様に好意があるのでしょうか……。

 まあ、お似合いのお二人ですものね。アリーサ様に取られる前に、私も協力した方が宜しいのでしょうか……。)

 気を落としたユーミリアはふと、目の目を歩く二人に視線を戻すと、リリーに耳打ちをした。


 「リリー様、前のお二人、気になります?」


 と、彼女はリリーをけしかけたのだった。このままだと、どんどんクレメンスがアリーサの元へ行ってしまいそうな気がユーミリアには感じ取られたのだ。


 「いえ、私は特に。気になりますか? 聞いてきましょうか?」

 「え? いえ、そんなことは……。」


 即座に否定したアリーサに戸惑いを隠しきれないユーミリアは、しどろもどろになってしまう。それを肯定と捉えたリリーは、前に居る二人にそっと近づいたのだった。

 目を丸くして引き止めようとするユーミリアの手を軽くかわすリリーは、しばらくして、ユーミリアの元に戻って来ると、シリング達との距離を取った。

 何か不味いことでもリリー様が聞いてしまったのかしらと、ユーミリアは身を強張らせる。

 彼女は真剣な表情で報告して来た。


 「彼らは、お互いの家族について話していたようです。」


 と。


 「家族!?」


 ユーミリアは拍子抜けした。だが、すぐにユーミリアは彼女を羨ましく感じた。家族との付き合いも、結婚を考えているのなら大切よねと、彼との未来を考えられるアリーサがユーミリアにはねたましかったのだ。


 「はい。家族構成はどうとか、親の好きな食べ物はなんだとか。

 主に、アリーサ殿が質問をして、クレメンス殿が答えるという形をとっていました。

 諜報部員の廻し者でしょうか?」


 そんな風に自分の世界に浸るユーミリアに、現実的なリリーは真剣な顔で彼女にに尋ねるのだった。


 「え? いえ!! それは絶対ないですわ!!!」


 ユーミリアは慌てて否定した。

 騎士団長に事の次第が伝わったらどうなることかと、ユーミリアは焦ったのだ。しかもアリーサの身元が、隣国の王族ということがばれれば、密偵を送り込んだということで戦争にもなりかねないとユーミリアは大きく彼女の言葉を否定する。


 「そう? ですか……。」


 リリーはあまり納得はしていないようだが、ユーミリアの言葉を信用することにしたようだ。しぶしぶだが頷くのだった。

 そんなリリーに、ユーミリアは苦笑いを浮かべた。

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